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■短歌の通釈:「あ」行


2018年8月現在、サイトのリニューアル作業中

■中学受験での入試問題や模試、教材等でよく扱われる短歌について通釈を掲載しています。
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旧暦・西暦の相互変換

短歌
短歌は「五・七・五・七・七」の三十一音で詠まれる定型詩です。俳句には季語を必ず一つ詠み込むことが作法となっていますが、短歌にはそのような決まりはありません。短歌には一定の言葉を修飾する「枕詞(まくらことば)」が使われることがあります。
枕詞一覧表

俳句
・俳句は「五・七・五」の十七音で詠まれる世界で最も短い定型詩です。俳句には季語(季節を表す言葉)を必ず一つ詠み込むのが作法となっています。
季語一覧表

■あをによし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今さかりなり(小野老)

・あおによし ならのみやこは さくはなの におうがごとく いまさかりなり
・奈良の都、平城京は、咲く花が色美しく照り映(は)えるように、今やまことに繁栄(はんえい)の極(きわ)みであることだ。
・花を賞美する自然感情と都への讃美とを重ね合わせ、作者の明るく満ち足りた喜びを伝えている。(句切れなし)

※あを(お)によし… 「奈良」にかかる枕詞。「青丹(あおに)」は青土の意で、奈良時代、奈良山付近から青土が産出して顔料にしたことによるという。
※奈良の都… 平城京。今の奈良市付近。
※にほ(お)う… 美しく咲きにおうように。「にほふ」は色が美しく照り映えるの意。

※野老(おののおゆ)… 奈良時代の歌人。

■赤とんぼ 早く現はれ 捕りて食へ 昼を来てさす このやぶ蚊ども(窪田空穂)

・あかとんぼ はやくあらわれ とりてくえ ひるをきてさす このやぶかども
・昼だというのに、しつこく襲(おそ)ってきて刺(さ)すこのやぶ蚊(か)どもには、もう何ともたまらず困っている。赤とんぼよ、頼むから早く私の前に現われて、こいつらを捕まえて食べてしまってくれよ。 (三句切れ)

■秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる(藤原敏行)

・あききぬと めにはさやかにみえねども かぜのおとにぞ おどろかれぬる
・秋がやってきたと目にはまだはっきりとは見えないけれども、ふと耳にした涼(すず)やかな風の音に、秋の到来(とうらい)を、ふいに気づかされたことだ。
・視覚と聴覚とのずれをうまく利用して、ふいに気づかされた秋の訪れへの詠嘆(えいたん)が詠(うた)われている。(句切れなし)

※来ぬと… 秋が来てしまったと。
※さやかに… はっきりと。
※見えねども… 見えないけれども。
※おどろかれぬる… 感じてしまわずにはいられない。

■あけて待つ 子の口のなか やはらかし 粥運ぶ 我が匙に触れつつ(五島美代子)

・あけてまつ このくちのなか やわらかし かゆはこぶ わがさじにふれつつ
・口を開けて待っている幼い我が子に、お匙(さじ)にお粥(かゆ)をすくって運んでやると、そのたびに匙が子どもの口に触れる。触れるたびに、いたいけな我が子の幼い命の感触が、やわらかに匙から伝わってくる。(三句切れ)

※ 「亡(な)き子来て袖(そで)ひるがへ(え)しこぐとおもふ(う)月白き夜(よ)の庭のブランコ」の項を参照のこと。

■朝あけて 船より鳴れる 太笛の こだまは長し 並みよろふ山(斎藤茂吉)

・あさあけて ふねよりなれる ふとぶえの こだまはながし なみよろうやま
・夜が明けてほのぼのと空が明るくなったころ、長崎港の船の太い汽笛(きてき)の音が、港の回りの並び連なる山々にこだまして、長く、ゆるやかに響き渡ってくる。何と静かな港町の朝だろう。(四句切れ)

※並(な)みよろふ(う)…並び連なる。作者の新造語。
※朝明け… 朝になって、明るくなること。また、そのころ。明け方、夜明け。
※大正6年、茂吉(もきち)が長崎医学専門学校に赴任(ふにん)した折(おり)の作。
※長崎港は「鶴(つる)の港」とも呼ばれ、港が深く湾入(わんにゅう)して湖のようになっており、その回りを取り囲むように山々が並び連なっている。

■あさぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪(坂上是則)

・あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき
・ほのぼのと夜が明けるころに、明け方の月の光がしらじらと照り渡っているのかと思えるほどに明るい、吉野の里に降り積もった白雪の美しさよ。(句切れなし)

※あさぼらけ… 朝、ほのぼのと明るくなったころ。
※有明(ありあけ)の月… 陰暦二十日すぎごろの月で、夜遅く出て、夜明けになってもまだ空に出ている月。残月。
※見るまでに… 見間違えるほどに。
※吉野の里… 現奈良県の吉野町あたり。

★ 小倉百人一首所収。

■あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む(よみ人知らず)

・あしひきの やまどりのおの しだりおの ながながしよを ひとりかもねん
・(一人寝するという)山鳥の、長くしだれて(たれ下がって)いる尾のように、長い長い秋のこの夜を、恋しい人と離れ、今夜はたった一人で寝なければならないのだろうかなあ。
・秋の夜長を、人を恋いつつ独り寝する慰(なぐさ)めがたいわびしさを詠(うた)っている。(句切れなし)

※足引きの(あしひきの)… 「山」にかかる枕詞。上代(主に奈良時代)以後は「あしびきの」と読まれた。
※山鳥… キジ科に属する野鳥。キジに似るがやや大きく、雄の尾は長さ約1mになる。
※しだり尾の… 長くたれた尾のように。
※ながながし… 長い長い。
※ひとりかも寝む… 一人で寝なければならないのだろうかなあ。
※「ながながし」… 「夜」を修飾する掛詞(かけことば)。「(尾が)長い」という意味と、「長い(夜)」の二つの意味を持たせている。
※掛詞(かけことば)… 一つの言葉に二つ以上の意味をもたせる手法。口語訳する時は、二つの意味が明らかになるように訳すようにする。
※あしひきの山鳥の尾のしだり尾の… 「ながながし」を引き出すために前置きとして使われている序詞(じょことば)。
※序詞(じょことば)… ある語句を引き出すための前置きの言葉。枕詞と同じような働きをするが、音数に制限は無く、二句以上にわたることが多い。枕詞のように慣用化されておらず、ほとんどが作者の創作によるものである。
※小倉百人一首所収。
※小倉百人一首では柿本人麻呂作とされているが、万葉集では作者未詳(みしょう)としている。

■あたらしく 冬きたりけり 鞭のごと 幹ひびき合ひ 竹群はあり(宮柊ニ)

・あたらしく ふゆきたりけり むちのごと みきひびきあい たかむらはあり
・身の引き締(し)まるような、新しい冬の到来(とうらい)である。吹きすさぶ寒風に鞭(むち)のような鋭(するど)い音を立てて、群がり生えた竹が、しなり揺(ゆ)れている。(二句切れ)

■あますなく 小草は枯れて 風に鳴る かなたに小さき 山の中学(木俣修)

・あますなく おぐさはかれて かぜになる かなたにちいさき やまのちゅうがく
・広い空の下、野山は遠くへと続き、見渡す限り草は冬枯(ふゆが)れて、寒風に乾いた音を立てている。冬の寂(さび)しい風景の中、彼方(かなた)に小さく見えるのは、山間(やまあい)の中学校の校舎の姿である。
・広い野山から、遠く小さい中学校の校舎の姿へと、視野がしぼられている。(三句切れ)

■天つ風 雲の通ひ路 吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ(僧正遍照=良岑宗貞)

・あまつかぜ くものかよいじ ふきとじよ おとめのすがた しばしとどめん
・大空を吹く風よ、天女の帰り上ってゆく雲間(くもま)の通り道を、吹いて閉ざしてくれよ。天女の美しい舞い姿を、今しばらくこの下界にとどめおいて見ていたいのだ。(三句切れ)

※天(あま)つ風… 大空を吹く風。ここでは呼びかけ。
※雲の通ひ(い)路(じ)… 天へと通ずる雲間の道。
※陰暦(いんれき)十一月の中旬に行われた宮中の華麗(かれい)な儀式(ぎしき)、豊明節会(とよのあかりのせちえ)で舞を舞う少女を天女に見立て、美しいその舞姫(まいひめ)の姿をなおも賞美していたいという気持ちが詠(うた)われている。天武天皇の御代(みよ)、天女が吉野に下(くだ)って舞ったという伝説になぞらえ、舞姫を天女に見立てている。
※小倉百人一首所収。

■天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも(阿倍仲麻呂)

・あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも
・大空をはるかに見渡すと、今ちょうど東の空に美しい月が出ている。この月は、かつて私が日本に住んでいた頃、故郷奈良の三笠の山の上に出るのを見て楽しんだあのなつかしい月と同じなのだと思うと、胸がしめつけられるように切なくなるのだ。
・仲麻呂が三十五年間の中国での留学生活を終えて、明州(現在の寧波)の海辺で別れの宴(うたげ)の際に詠(よ)んだものと伝えられる(※この帰国航海は海難により失敗)。三十数年の昔に見た故郷の月という「時間」と、今中天にかかる中国大陸の月という「空間」とが一時に結びついて、望郷の念をかきたてられている心情が読み取れる。月を通して、作者の脳裏(のうり)に、今、故郷が現実のものとして蘇(よみがえ)っているのである。(句切れなし)

※天の原… 広い大空。
※ふりさけ見れば… ふり仰いで遠くを眺(なが)めやると。
※春日(かすが)なる… 春日にある。春日は奈良市内にある春日神社のある一帯。
※三笠(みかさ)の山… 春日山の一峰(いっぽう)、御蓋山(みかさやま)のこと。
※出(い)でし月かも… 出たあの月だなあ(、今出ているこの月は。)主語にあたる語句が省略されている。
※阿部仲麻呂(安部仲麻)… あべのなかまろ。奈良時代の文学者。716年、十六歳で留学生に選ばれ、翌年、遣唐留学生として入唐(にっとう:唐の国へ行くこと)、そのまま唐の朝廷に仕える。海難(航海中の事故)のために帰国を果たせず、在唐五十余年、770年、同地にて七十歳で亡くなる。
※小倉百人一首所収。

■天地に われ一人ゐて 立つごとき この寂しさを 君はほほゑむ(会津八一)

・あめつちに われひとりいて たつごとき このさびしさを きみはほほえむ
・壮大(そうだい)で広大無辺(こうだいむへん)のこの天地に、私たった一人が立つような孤独感、寂(さび)しさを抱(かか)える思いの中、今私の前に立ち現われた、あなた救世観音(ぐぜかんのん)像の慈悲(じひ)に溢(あふ)れたその永遠の微笑みと、その慈眼(じげん:慈悲に満ちた目)が、私をじっと見守り包んでくれていることだ。(句切れなし)

※作者会津八一(あいづやいち)が、奈良法隆寺夢殿(ゆめどの)の本尊(ほんぞん)である救世観音(ぐぜかんのん)像を拝(はい)した際の作。
※会津八一(あいづやいち)… 正岡子規(まさおかしき)に傾倒(けいとう)したが、歌壇(かだん)とは交渉を直接もたなかった。明治41年、奈良を旅して仏教美術への関心を深め、歌材の多くを奈良の仏教美術からとり、仮名書きによる万葉調で古代への憧憬(しょうけい)の思いを多く詠(よ)んだ。

■雨に濡れし 夜汽車の窓に 映りたる 山間の町の ともしびの色(石川啄木)

・あめにぬれし よぎしゃのまどに うつりたる やまあいのまちの ともしびのいろ
・夜の雨の中を、ごとごとと走る汽車に乗りながらぼんやりと窓の外を眺(なが)めていると、山間(やまあい)の町の寂(さび)しい灯(ともしび)が見えてきた。灯の色はしっとりと雨に濡(ぬ)れ、窓に滲(にじ)み浮かんで見えている。しみじみと旅情を感じつつ、山間の町の人々の暮(く)らしを思い、ゆっくり流れてゆく灯を静かな心で見つめていると、ほのかな温かみを感じたことだ。(句切れなし)

■淡路島 かよう千鳥の 鳴く声に いくよねざめぬ 須磨の関守(源兼昌)

・あわじしま かようちどりの なくこえに いくよねざめぬ すまのせきもり
・この須磨(すま)の海岸から淡路島(あわじしま)へと、冬の海の上を飛び通う千鳥(ちどり)たちのもの悲しく鳴く声に、須磨の関所の番人は、いったい幾夜(いくよ)を、眠りから覚めては寂(さび)しい思いをしたことだろう。(四句切れ)
・冬のわずか一夜、二夜の旅寝(たびね)でさえ千鳥の鳴き声に寝覚(ねざ)める寂(さび)しさであるものを、もともと人気の少なくうら寂しい須磨の浦で務め暮らさねばならない関守(せきもり)は、その寂しさを幾晩(いくばん)重ねたことだろうかと思いやっている。

※淡路島(あわじしま)… 明石海峡(あかしかいきょう)にある島。兵庫県。
※千鳥(ちどり)… 冬に海辺などに群れをなしている小鳥。海辺を数千羽が群がって飛ぶところからこの名がある。
※須磨(すま)… 兵庫県神戸市須磨区。
※関守(せきもり)… 関所の番人。
※小倉百人一首所収。

■家にあれば 笥もる飯を 草まくら 旅にしあれば 椎の葉にもる(有馬皇子)

・いえにあれば けにもるいいを くさまくら たびにしあれば しいのはにもる
・我が家にいればいつも食器に盛って食べる飯(めし)を、今は旅のことであるから、このように椎(しい)の葉に盛ってわびしく食べることだ。(句切れなし)

※笥(け)… 食器。
※飯(いい)… ごはん。米をこしきに入れて蒸したもの。
※有間皇子(ありまのみこ)が、謀反(むほん)の疑いで召されてゆく時の旅の歌。
※「草枕」は「旅」にかかる枕詞。旅先で草を結んで枕とし、夜露に濡(ぬ)れて仮寝(かりね)をしたことから。

■いかるがの さとのをとめは よもすがら きぬはたおれり あきちかみかも(会津八一)

・いかるがの sとのおとめは よもすがら きぬはたおれり あきちかみかも
・静かな、夜の斑鳩(いかるが)の里を散策していると、あちらこちらで機織(はたおり)の音が響いている。この里の娘たちは、秋祭りや新年に備えて、こうして夜が更(ふ)けるまで営々(えいえい)と機を織っているのだ。秋が近づいているのだと、しみじみ感じられたことだ。(四句切れ)

※明治41年、作者会津八一(あいづやいち)が奈良法隆寺を訪れ、夜、法隆寺近隣(きんりん)の宿から法隆寺界隈(かいわい)を散策した際に聞こえてきた機織(はたおり)の音に心を打たれて詠(よ)んだ歌。(いかるがの里の乙女は夜もすがら衣機織れり秋近みかも)
※会津八一(あいづやいち)… 正岡子規(まさおかしき)に傾倒(けいとう)したが、歌壇(かだん)とは交渉を直接もたなかった。明治41年、奈良を旅して仏教美術への関心を深め、歌材の多くを奈良の仏教美術からとり、仮名書きによる万葉調で古代への憧憬(しょうけい)の思いを多く詠(よ)んだ。

■幾山河 こえさりゆかば さみしさの はてなん国ぞ きょうも旅ゆく(若山牧水)

・いくやまかわ こえさりゆかば さみしさの はてなんくにぞ きょうもたびゆく
・いったい私は、いくつの山川を越えて行けば、寂(さび)しさの終わり果てる国にたどりつくことができるというのだろう。生きている限り私は、今日もまた寂しい思いを胸に旅を続けていかなければならないのだ。(四句切れ)

■石がけに 子ども七人 こしかけて 河豚を釣りをり 夕焼け小焼け(北原白秋)

・いしがけに こどもしちにん こしかけて ふぐをつりおり ゆうやけこやけ
・夕方、岸壁(がんぺき)で子どもが七人仲良く並んでこしかけ、河豚(ふぐ)釣(つ)りをして遊んでいる。広い空も子どもたちも、美しい夕焼けの赤い色にとけ込んでしまっている。(四句切れ)

■石をもて 追わるるごとく ふるさとを 出でしかなしみ 消ゆる時なし(石川啄木)

・いしをもて おわるるごとく ふるさとを いでしかなしみ きゆるときなし
・まるで石を投げられながら追われるようにしてふるさとを去ったあの時の悲しみは、今でも決して消えることがないことだ。(句切れなし)

※明治38年(1905年)、故郷渋民村の宝徳寺住職であった啄木の父の宗費滞納が原因で一家が寺を追われる事件があった。宗費滞納の理由が啄木自身の借金返済のためだったとする説がある。

■いづくにか しるしの糸は つけぬらむ 年々来鳴く つばくらめかな(樋口一葉)

・いずくにか しるしのいとは つけぬらん としどしきなく つばくらめかな
・どこかにきっと、目印になる糸をつけてあるのでしょう。燕(つばめ)は毎年毎年、春が来ると決まって自分の巣に帰って来ては鳴いている。(二句切れ)

※つばくらめ… 燕(つばめ)。日本には春に飛来、人家などに巣を作り、秋に南方へ渡る夏鳥。「つばくらめ」は古名(こめい)。つばくら、つばくろ。
※樋口一葉(ひぐちいちよう)が十三歳の時に詠(よ)んだ歌。

■いちはつの 花咲きいでて 我が目には 今年ばかりの 春行かんとす(正岡子規)

・いちはつの はなさきいでて わがめには ことしばかりの はるゆかんとす
・今年もいちはつの花が咲き始めた。重い病にある私の目には、今年限りの最後の春が、今過ぎていこうとしていることだ。(句切れなし)

■いついつと 待ちしさくらの 咲き出でて いまはさかりか 風吹けど散らず(若山牧水)

・いついつと まちしさくらの さきいでて いまはさかりか かぜふけどちらず
・いつかいつかと待ち望んでいた桜が、ようやく咲きほころんだ。やがて、夢のように儚(はかな)く散り果ててしまうであろう桜の花だが、花盛(はなざか)りの今は、そんな様子はいささかも感じさせず、風が吹いても、花の一片(ひとひら)さえ散ることはない。(句切れなし)

■いつしかに 春の名残と なりにけり 昆布干場の たんぽぽの花(北原白秋)

・いつしかに はるのなごりと なりにけり こんぶほしばの たんぽぽのはな
・いつの間にか春は去ってしまったのだなあ。たんぽぽの花が昆布干場の隅(すみ)に、ひっそりと咲いている。(三句切れ)

■一疋が さきだちぬれば 一列に つづきて遊ぶ 鮒の子の群(若山牧水)

・いっぴきが さきだちぬれば いちれつに つづきてあそぶ ふなのこのむれ
・一匹(いっぴき)が先を泳ぐと、それに続いて何匹もの鮒(ふな)の子たちが一列になって続いて泳ぐ。そのうち、別の一匹が群れから飛び出すと、それに続いて鮒の子たちがまた一列になって泳ぐ。鮒の子たちの無心に遊んでいる様子が、何ともほほえましい。(句切れなし)

■いつもより 一分早く 駅に着く 一分 君のこと考える(俵万智)

・いつもより いっぷんはやく えきにつく いっぷん きみのことかんがえる
・いつもより一分早く駅に着いてしまった私。電車を待つ時間はいつもより一分多くなるだけだけれど、そんな時でさえ、私が考えているのはあなたのこと。私の心の中にはいつも、大切なあなたがいるから。

※俵万智のチョコレートBOX

■稲刈りて さびしく晴るる 秋の野に 黄菊はあまた 目を開きたり(長塚節)

・いねかりて さびしくはるる あきののに きぎくはあまた めをひらきたり
・稲を刈り取ったあとの秋の野山はさびしく感じるが、秋晴れの野原には、明るくさわやかに黄菊がたくさん咲いていたことだ。(句切れなし)

■いのちなき砂のかなしさよ さらさらと 握れば指の間より落つ(石川啄木)

・いのちなき すなのかなしさよ さらさらと にぎればゆびの あいだよりおつ
・砂は、こうして力いっぱい手に握(にぎ)っても、さらさらと指の間からこぼれ落ちてしまう。乾(かわ)いた、そして命をもたない砂のはかなさよ。(二句切れ)
・前途の見通しのつかないままに無為の日々を北海道で送っていた作者が、海岸の空しい砂に託(たく)して、人生の儚(はかな)さと自己の虚無(きょむ)的な心境を歌ったもの。

■妹の 小さき歩み いそがせて 千代紙買いに 行く月夜かな(木下利玄)

・いもうとの ちいさきあゆみ いそがせて ちよがみかいに ゆくつきよかな
・日はとっぷりと暮れている。千代紙を欲しがった幼い妹を、兄が連れて、夜道を二人で歩いている。ついつい兄は、妹がなかなか速く歩けないので、歩みを急(せ)かせてしまう。二人の兄妹を、ほのぼのと宵の月が照らしている。(句切れなし)

■石ばしる 垂水の上の さわらびの もえいずる春に なりにけるかも(志貴皇子)

・いわばしる たるみのうえの さわらびの もえいずるはるに なりにけるかも
・雪解けのためにかさを増し、激しい勢いで石の上を流れる水。滝のほとりのわらびが芽を出した。待ち焦(こ)がれていた春が、いよいよやって来たのだなあ。(句切れなし)

※石(いわ)ばしる… 岩の上を激しい勢いで流れる。枕詞としての使い方をしているという説がある。
※垂水(たるみ)の上… 滝のほとり。地名とする説もある。
※早蕨(さわらび)… 芽を出したばかりのわらび。
※なりにけるかも… なったのだなあ。「かも」は詠嘆(えいたん)を表し、平安時代に「かな」となる。
※志貴皇子(しきのみこ)… 天智天皇の皇子。

■うすべにに 葉はいちはやく 萌えいでて 咲かんとすなり 山桜花(若山牧水)

・うすべにに ははいちはやく もえいでて さかんとすなり やまざくらばな
・うす紅(べに)色に染まった若葉が早くも芽を出して、今や咲こうとしている山桜(やまざくら)の花であることだ。(四句切れ)

■馬追虫の ひげのそよろに 来る秋は まなこを閉ぢて 想ひ見るべし(長塚節)

・うまおいの ひげのそよろに くるあきは まなこをとじて おもいみるべし
・細く長いウマオイの髭(ひげ)がそっと揺(ゆ)れるように密(ひそ)やかに訪れてくる秋の気配は、眼を閉じて心静かに想い見るのがふさわしい。密やかに訪れる秋の気配を、ささやかなものにしみじみと感じている。(句切れなし)

※馬追虫(うまおい)… ウマオイムシ。スイッチョ。キリギリス科の昆虫。触角が長く、体色は緑色で体長は約3cm。「スイッチョ」と鳴く。

■海恋し 潮の遠鳴り 数えては 少女となりし 父母の家(与謝野晶子)

・うみこいし しおのとおなり かぞえては おとめとなりし ちちははのいえ
・ああ、ふるさとの海が恋しい。遠くから聞こえてくる波の音を数え数えしては、夢多い少女に育っていった、あの懐(なつ)かしいふるさとの、父母の家よ。(初句切れ)

■うらうらに 照れる春日に 雲雀あがり 情悲しも 独りし思へば(大伴家持)

・うらうらに てれるはるひに ひばりあがり こころかなしも ひとりしおもえば
・うららかに照る春の日、高らかにさえずりながら雲雀(ひばり)は空に舞い上がり、私の心は痛み、切なさに溢(あふ)れる。一人でもの思いに沈んでいると。
・「うらうらに照れる春日にひばりあがり」と「情悲しも」を組み合わせ、明るい叙景から暗い叙情へと移行する暗転の技法を用い、しみじみとした憂愁(ゆうしゅう)の情を深めている。(四句切れ)

※うらうらに… うららかに。のどかに。
※照れる… 照っている。
※情(こころ)悲しも… 心が痛まれるなあ。
※大伴家持(おおとものやかもち)… 奈良時代の歌人。万葉集には四百七十余首と集中最も多数が収められている。また、万葉集編纂(へんさん)者の一人とされている。

■瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば ましてしぬばゆ
 いずくより 来たりしものぞ 眼交に もとなかかりて 安寝しなさぬ(山上憶良)

・うりはめば こどもおもおゆ くりはめば ましてしぬばゆ
 いずくより きたりしものぞ まなかいに もとなかかりて やすいしなさぬ(長歌)
・まくわ瓜(うり)を食べていると、わが子が喜んでこれを食べている姿が目に浮かぶ。栗(くり)を食べていればなおいっそうわが子がいとおしく思われてならない。どのような過去の因縁(いんねん)があってこの子は自分の子として生まれてきたものなのだろうか。こうして離れていても、子の面影(おもかげ)が目の前にしきりにちらついて、安らかに眠ることができない。
・作者が遣唐使の随員(ずいいん)として中国に滞在した折に、故国日本を恋い慕(した)って詠(よ)んだもの。我が子に対する親の深い愛情が率直に詠(うた)われている。

※瓜(うり)食(は)めば… 瓜を食べるといつも。「瓜」は今のマクワウリという。
※ましてしぬばゆ… いっそう偲(しの)ばれる。
※いずくより… どこから。
※来たりしものぞ… 来たものなのか。「子供というものは、どのような過去の因縁(いんねん)で、自分の子として生まれてきたものであるのか」の意。
※眼交(まなかい)に… 目先に。
※もとな… むやみに。
※懸(かか)りて… (子供の姿が)ちらついて。
※山上憶良(やまのうえのおくら)… 奈良時代の官人、歌人。

■遠足の 小学生徒 うちょうてんに 大手ふりふり 往来とほる(木下利玄)

・えんそくの しょうがくせいと うちょうてんに おおでふりふり おおらいとおる
・遠足の小学生たちが、どの子もうれしさいっぱいの様子で、元気に大きく手をふりふり往来を歩いている様子が、何とも無邪気(むじゃき)でほほえましい。(句切れなし)

■近江の海 夕浪千鳥 汝が鳴けば 情もしのに 古思ほゆ(柿本人麻呂)

・おうみのみ ゆうなみちどり ながなけば こころもしのに いにしえおもおゆ
・ほろび果てた大津の都の跡(あと)に立ち、天智天皇の代(よ)を偲(しの)んで悲しみにたえないのに、夕暮れの琵琶湖(びわこ)の波に群がり飛ぶ千鳥(ちどり)よ、お前たちの鳴き騒ぐ声を聞くと、心も打ちしおれていっそう昔のことがしみじみ思われてならない。
・人間的情感と時間的推移とを絵画的な美しさの中に盛り込んだ名作である。「近江の海」「古思ほゆ」は字余り。(句切れなし)

※近江(おうみ)の海(み)… 琵琶湖。
※夕浪千鳥… 夕浪の立つ上を騒ぎ飛ぶ千鳥よ。「夕浪」と「千鳥」を重ねた人麻呂による造語。
※汝(な)が鳴けば… お前が鳴くと。
※情(こころ)もしのに… 心もしおしおとしおれなびくほどに。
※古(いにしえ)思ほゆ… 昔のことが思われる。「古(いにしえ)」は、今は廃墟(はいきょ)と化したこの地に、かつて壮麗(そうれい)な大津の都があった天智天皇の時代を指している。
※柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)… 飛鳥時代の歌人。

■大海の 磯もとどろに 寄する波 割れてくだけて さけて散るかも(源実朝)

・おおうみの いそもとどろに よするなみ われてくだけて さけてちるかも
・大海(たいかい)の磯(いそ)にすさまじく打ち寄せる波が、激しく岩にぶつかり割れてとどろき、砕(くだ)け散っていることだ。
・「寄する」「割れて」「くだけて」「さけて」「散る」と動詞が多用され、大海の荒々しさが臨場感を伴った映像として伝わってくる力強い作品である。(句切れなし)

※とどろ… 磯に打ち寄せる波のとどろくさま。
※散る… 砕け散っていることだなあ。「かも」は詠嘆(えいたん)を表し、平安時代に「かな」となる。
※源実朝(みなもとのさねとも)… 鎌倉幕府の三代将軍、歌人。頼朝の二男。藤原定家に歌を学び、万葉調の雄大な歌を残した。

■大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立(小式部内侍)

・おおえやま いくののみちの とおければ まだふみもみず あまのはしだて
・大江山(おおえやま)を越え、生野(いくの)の道を通って行く丹後(たんご:京都北部)への道ははるかに遠いので、私はまだ天(あま)の橋立(はしだて)を踏(ふ)み歩いてはいませんし、丹後にいる母(和泉式部:いずみしきぶ)からの手紙も見てはおりません。(四句切れ)

※天の橋立(あまのはしだて)… 京都府宮津湾(みやずわん)にある景勝地(けいしょうち)で、日本三景(他は広島県の宮島、宮城県の松島)の一つに数えられる。
※ 大江山(おおえやま)、生野(幾野:いくの)は、いずれも京都から丹後の国への道筋にある。
※掛詞(かけことば)… 「いく野(地名)」と「行く野」、「踏みも見ず」と「文も見ず」、それぞれ二つの異なる意味をもたせてある。
※作者小式部内侍(こしきぶのないし)は年少でありながらが歌才(かさい)に優れ、宮中(きゅうちゅう)の歌会(うたかい)の歌人に選ばれた時、藤原定頼(ふじわらのさだより)が作者の母親である歌人として有名な和泉式部(いずみしきぶ)に代作してもらえないのでさぞ困っているだろうとからかったところ、小式部内侍がそれに対して即興(そっきょう)で歌って返答したもの。
母である和泉式部はそのころ夫の任地である丹後の国に下(くだ)っていたが、作者は、丹後へ行って母に会ってもいないし、母から手紙さえ受け取っていないと、よくも知らずに人を侮(あなど)るものではないとその疑惑を否定したのである。
母に代作してもらわねば人並みの歌は詠(よ)めまいと思われていた小式部内侍が、即座に技巧の優れた見事な歌を詠み返したので、意表をつかれた定頼は驚嘆(きょうたん)するばかりで逃げ帰ったという。
※小式部内侍十五才の時の作。二十五歳のころに亡(な)くなっている。
※小倉百人一首所収。

■奥山に もみぢ踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき(よみ人知らず)

・おくやまに もみじふみわけ なくしかの こえきくときぞ あきはかなしき
・人里遠く離れた山で、散り敷(し)いたもみじ葉(ば)を踏(ふ)み分けて鳴く鹿のもの悲しげな声を耳にすると、秋はひとしお心にしみて悲しく感じられることだ。
・奥山でもみじを踏み分けてもの悲しげに鳴いている鹿の声を聞きながら、その姿を作者が頭の中で思い描き、いっそう秋のうら悲しさを深めているのである。(句切れなし)

※奥山… 人里遠く離れた山。
※もみぢ(じ)踏み分け… (鹿が)散り敷いたもみじ葉を踏み分けて。
※鹿は妻を恋い慕(した)って鳴くとされた。
※作者不明ながら相当な歌人の作と考えられている。小倉百人一首では猿丸太夫作としている。
※小倉百人一首所収。

■憶良らは 今はまからむ 子なくらむ それその母も 吾を待つらむぞ(山上憶良)

・おくららは いまはまからむ こなくらむ それそのははも わをまつらむぞ
・私めはそろそろ宴(うたげ)の席よりおいとまさせて頂き、帰ることと致しましょう。きっと家では子どもが泣いているでしょうし、恐らくその子の母なる私の妻も、私の帰宅を待っておりましょう。
・作者が、家で待つ妻や子どもを思う優しさやあたたかい心が感じられる。

※山上憶良(やまのうえのおくら)が宴席(えんせき)を途中で退出する際に詠(よ)んだもの。

■幼きは 幼きどちの ものがたり 葡萄のかげに 月かたぶきぬ(佐々木信綱)

・おさなきは おさなきどちの ものがたり ぶどうのかげに つきかたぶきぬ
・幼い子どもたちどうしが、何やら楽しげに話したり、遊んだりしている。葡萄(ぶどう)の木のかげに月がしずもうとしている中、静かな夏の夜はふけていく。(三句切れ)

■おとうさまと書き添へて 肖像画の貼られあり 何という吾が鼻のひらたさ(宮柊二)

・おとうさまとかきそえて しょうぞうがのはられあり なんというわがはなのひらたさ
・幼い我が子の描いてくれた私の肖像画(しょうぞうが)に、「おとうさま」と書き添(そ)えて壁に貼(は)られてある。子どもなりに、私の顔を思い浮かべながら一生懸命に描いてくれたのだと思うと、つい微笑ましくなって見入ってしまう。それにしても、紙面いっぱいに勢いよく描かれた私の顔だが、いやはや、何とも平たい鼻であることだ。我が子の健やかな成長を祈るばかりである。(破調)

■思い出の一つのようで そのままにしておく 麦わら帽子のへこみ(俵万智)

・おもいでのひとつのようで そのままにしておく むぎわらぼうしのへこみ
・私の思い出と、私とあなたの思い出を残して、夏は過ぎゆこうとしている。部屋の片隅(かたすみ)で見つけた、私の麦わら帽子と、その小さなへこみ。そのへこみさえ、私の大切な思い出のかけらのようで、それを私はそっと、そのままにして、麦わら帽子にとどめておく。時間を永遠にとじこめるように。

※俵万智のチョコレートBOX

■親は子を 育ててきたと 言うけれど 勝手に赤い 畑のトマト(俵万智)

・おやはこを そだててきたと いうけれど かってにあかい はたけのとまと
・親としては愛情を精一杯注ぎ、期待をかけ、子育ての苦悶(くもん)も乗り越えて育て上げてきた愛(いと)しい我が子であるが、そんな親の思いを越えて、子どもは子どもとしての思いを抱き、個性をもち、独立した人格をもつかけがえのない自分として成長し、生きている。

※俵万智のチョコレートBOX

■おりたちて 今朝の寒さを おどろきぬ 露しとしとと 柿の落ち葉深く(伊藤左千夫)

・おりたちて けさのさむさを おどろきぬ つゆしとしとと かきのおちばふかく
・家の庭に下り立ってみると、あらためて今朝の寒さを肌身(はだみ)に感じたことだ。朝露(あさつゆ)にしっとりと濡(ぬ)れた柿の落ち葉が、深く積もっている晩秋である。(三句切れ)