中学受験専門 国語プロ家庭教師(東京23区・千葉北西部)

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■記述力の練成技術

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・指導用の教材として利用される場合は、生徒に教材を与えっぱなしにして済まさず、生徒にとって有効な活用法をご考慮願います。


表現の本質
・開成中学で開示された模範解答に、記述解答の採点基準の一つとして、かつて次のように記されてありました。「本文中の言葉や自分なりの言葉を使って、説得力のある文章を作りあげる力が大切です(平成15年度/2003年度入試)」、「解答にあたって求められているのは、…(中略)…正確な、伝わりやすい表現が工夫されていることです(平成16年度/2004年度入試)」。

・これを読んでわかることは、表面的には「単に切り貼(は)りをしただけのような解答や、設問の条件に沿(そ)っていない解答には十分な評価を与えられない」といった技術的な側面での評価基準です。しかし、一歩踏(ふ)み込んでみると、そこにあるのは、「自分の考えをしっかりと持ち、それを論理的、かつ正確に、他者に対してしっかりと伝える力」を素養として備えた生徒に入学してきてもらいたいという、人間同士の生身(なまみ)のコミュニケーションを前提とした、開成中学の発するメッセージの深遠な本質です。

・普段、机に向かうばかりが勉強ではありません。時に外界に目を広げ、五感を働かせながら、一つひとつの事象や問題について、触れ、感じ、考えてみる。一つひとつの問題について、それを「自分自身でしっかりと受け止める」こと。そして、「自分が考えたことや感じたこと」を「他者に対し本気で伝えたいと欲する」こと。さらに、それを「工夫しながら表現し、正確に伝える」こと。

・開成中学は、受験生に対して、実は何も特別高度なことを要求しているわけではありません。話すうえでも、書くうえでも、「伝えることは表現の基本」であり、社会を生きてゆく中で、人と人とのコミュニケーションを根本に据(す)えて、「伝える力の大切さ」という、ごく基本的で当たり前のことを認識し、そのうえで、将来をきちんと見据え、しっかりと学業に取り組んでもらいたいという、そんな意味のこめられたメッセージだと受け取ることができます。

・「伝え合うこと」の意味をよく考え、言葉に関わる姿勢や取り組みを今一度見直し、普段の言語生活をより豊かに変えてゆくこと、自分自身を磨(みが)き、自分自身の生き方を見定めながら、未来に向けて意志的に歩みを進めてゆく、そんな自分自身に育ててゆくことが、学ぶ者の姿勢として大切です。

開成基準
・「正確な、伝わりやすい表現を工夫する」、「説得力のある文章を作りあげる力」。開成中学は特別に高度な記述力を要求しているわけではありません。「自分の考えをしっかりと持ちなさい」、「それを他者にしっかりと伝えなさい」、「基本を疎(おろそ)かにしてはいけない」、というだけの至極当たり前のことです。いずれの中学校を受験するにしても、これを「開成基準」として強く念頭に置いて記述学習に取り組むことで、記述答案の水準は劇的に変化してゆくでしょう。

記述指導
・集団指導や個別指導でいくら「詳細な解説」や「丁寧な添削」を受けたとしても、子どもにその後の「仕上げ作業」が伴(ともな)っていなければ、いつまでたっても精度の高い記述答案を書き上げられるようにはなりません。塾の先生に質問という形で少しでも時間を割(さ)いてもらい、生徒と先生との生きた言葉での直接的なやりとりを通して、両者が納得のいく水準、精度にまで記述答案を練り上げていくような取り組みを継続しないと、記述答案の精度を上げ、記述力の水準を高めていくことは実際に困難です。塾の先生は生徒たちが質問に来てくれるのを待ってくれています。塾の先生を徹底的に利用しましょう。

※併せて「読点の打ち方」の項目もご参照ください。

大原則

①設問の要求を正確に把握する
・設問がまず「何を要求しているのか」を正確に捉(とら)え、正しい方向に沿って思考すること。また、「その要求を、自分に与えられた問題としてしっかりと受け止める」ことで、見当違いの思考やミスが無くなっていく。
②趣旨を固定する
・「自分が伝えたい内容を明確に固定する」こと。正確な読解に基づき、趣旨を明確に固定すれば、解答要素は自動的に集まってきてくれる。
③正確で、伝わりやすい表現を工夫する
・「正確で、伝わりやすい表現を工夫する」ことは、「表現の本質」だと言える。御三家中学を目指していながら、単に切り貼りをしただけのような、機械的で稚拙な、読み手に何も伝わってこない記述答案しか書けない受験生が驚くほど多い。入試答案を採点する先生のうんざりした表情が目に浮かぶようだ。自分の考えが読み手によく理解されるような表現力や説明力をしっかりと磨いておこう。

基本

基本
①主語・述語
・一文一文、文意が正しく伝わるよう、主語・述語の整った文章を心掛けよう。
②係り受け
・趣旨や文脈が乱れないよう、係り受けを意識して正しく表現しよう。
③誤字・脱字
・誤字・脱字の無いよう、「書きながら確認」する注意力が必要。
④句読点・符号は一字扱い
・一般に「句読点、符号等は一字扱い」が原則となっている。原稿用紙の書き方の決まりと、模試や入試での書き方の決まりとは異なるため、句点や読点を行の冒頭に打たねばならない場合がある。
⑤口語体(会話表現)や俗語を使用しない
・「~けど」、「あったかい」、「おんなじ」等の口語体は使用しない。また、「違(ちが)くて」、「ばれる」等の俗語も使用せず、「違い、知れる」などと言い換える。「むかつく」は俗語ではないが粗暴な印象を与えるので「腹が立つ」、「腹を立てる」などと言い換える。
⑥文体統一
・文体は常体(「~だ、~である言葉」)で統一する。
⑦文中語句・自分の言葉
・「本文中の語句を使用して」とある場合には、本文中で使用されている語句をできるだけ多く使用する。
・「自分の言葉で」とある場合には、説明に必要な語句を除き、本文中の語句はできるだけ使用せず、自分の言葉に変換して説明する。
⑧不明確な比喩表現の使用は避ける
・例えば、「海のような心の持ち主」という表現は、たとえている内容が「広い、大きい、静かだ、穏やかだ、包み込むような深さ、荒々しい・・・」というように主観によって受け取り方がさまざまに異なり、客観的な説明が成立しない。
⑨自分の使える漢字は使う
・普段の言語生活がそのまま一枚の答案に反映する。言葉に関わる姿勢を保って学習をしよう。
⑩無駄なく、正確な内容で表現する
・一文50~60字程度で無駄なく正確な内容で表現する力を身に付ければ、あとは「文どうしの正しい連結」によって一文100字であっても必然的に正しい文脈で記述できるようになる。

技術的基本①

①文末処理
・設問の要求に沿って、文末を正確に対応させる。
・なぜ? どうして? 理由は? ・・・・・・ ~から。~ため。~ので。
 ・何ですか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ~こと。~もの。~体言。
 ・どういうこと? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ~(という)こと。
 ・どのような意味? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ~(という)こと。
 ・どのような内容? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ~(という)こと。
 ・どのような気持ち? ・・・・・・・・・・・・・・・・ ~(という)気持ち。
 ・どのような様子? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ~(という)様子。
 ・どのような点? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ~(という)点。
 ・どうしていますか? ・・・・・・・・・・・・・・・・ ~している。 ※常体でよい
 ・どうしましたか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ~した。   ※常体でよい
 ・どうしていましたか? ・・・・・・・・・・・・・・ ~していた。 ※常体でよい

※常体は「だ・である調」のことで、敬体は「です・ます調」のこと。

②前提事項の重複(ちようふく)記入に注意
・「設問文中の前提事項」を記述で重複記入しない。
※例えば、「-線部①『一般に動物は』とありますが、…」という設問文中に既に書かれてある「一般に動物は」という表現をわざわざ記述答案に書かなくても文意は通ずる。制限字数を圧迫する原因となるため、必要な場合を除き、「前提事項」を重複記入しないよう注意。
③重複表現を避ける
・「同語・同義語」を無駄に重複使用しない。制限字数を圧迫する原因となる。
④倒置・再構成
・語句の倒置やパーツ全体の再構成を行い、無駄の無い、内容の整理されたわかりやすい文脈を構成する。
⑤長い主語の利用
・短い主語での書き出しは、「~で、~で、だらだら」と緩慢(かんまん)で稚拙(ちせつ)な表現になりがち。
例:「花が→庭に美しく咲いており、…」を「庭に美しく咲いている花が、~」のように関連語句をまとめて「長い主語」として書き出すと、それに続く文脈構成がしやすく、また、わかりやすくすっきりとした文になる。
⑥語句の短縮
・動詞や語句を適宜短縮する。(例:食物にふくまれている脂肪=食物にふくまれる脂肪)
⑦趣旨を文章後尾に置く
・趣旨が文章全体を支配する。本来趣旨となる部分を文章前部に置くと文章全体を殺してしまう恐れがあるので、特に注意。
⑧具体性を高める
・言葉を整理して、具体的でわかりやすい文章を心掛けよう。
⑨「は」と「が」の使い分け
・内容、文脈にふさわしい表現を選択する。
⑩句読点
・読み誤りを起こさぬよう注意し、意味の流れが途切れる所や必要な場所を判断して「読点(、)」を打つ。叙述が完結したら「句点(。)」を打つ。

技術的基本②

①適切な動詞の選択:「ある」「いる」「やる」「する」で済まさず、内容にふさわしい動詞を適宜使用する。
②本文表現の尊重:筆者や作者の意図により選択された表現を必要以上に変更しない。
③文末の心情表現:「安心する気持ち(体言処理)」、「安心している(動詞処理)」のいずれで表現しても可。
④意志・推量表現:助動詞の「う・よう・まい」を適宜使用し、正確な表現を工夫する。(例:去ろうとした)
⑤希望表現:助動詞の「たい・たがる」を適宜使用し、正確な表現を工夫する。(例:行きたがった)
⑥「~ている・~てある」は「~た」に置き換えが可能:例:壁に掛かっている時計=壁に掛かった時計・紙に書いてある文字=紙に書いた文字
⑦ニュアンスの調整:自分の語彙力を駆使し、「説明にふさわしいニュアンス」で表現する。
⑧語句の補完:説明を完結させるために必要な語句を判断し、適宜補う。
⑨自由スペースでの字数の推定:マス目の無い解答欄では、抜き出し問題等のマス目のある解答欄等を利用し、要求されている字数を推定する。
※一般に「縦一行25字」が平均であるが、模試や各学校の解答スペースにより適宜調整する。
⑩指定字数の順守:「~字以内」とある場合は少なくとも八割以上書き、「~字程度」とある時は、極力指定字数に近づける。
⑪文脈構成:文脈の乱れや「ねじれ」に注意する。
⑫指示語:正しい使い方をしていれば指示語を使っても減点されない。また、指示語を使わない文脈を工夫すれば制限字数を圧迫しなくて済む場合が多い。

技術的基本③

①強調表現:文章に説得力を与えるための工夫の一つ。
②共感度を高める:対象への深い共感や理解をもとに、それを十分に表現する。
③説得力を与える:読み手を説得する内容や表現の工夫を行う。
④抽象表現化:語句を適宜抽象化し、簡潔明瞭な文章を工夫する。普段から文章に適宜「概念語」を使用できるよう練習しておこう。
⑤文章構成・展開:文章全体の構成や展開を工夫し、説得力を与えよう。
⑥文章に流れを作る:読み手の十分な理解を意識し、文章に流れを作り、説得力を与えよう。
⑦書き出しの変更:当初の書き出し方で行き詰まったら、即座に頭を切り換えて新たに別の書き出しで臨む。普段から「文の書き出しを適宜切り替える」訓練を積んでおこう。
⑧要約・凝縮:各部を適宜凝縮する。無駄のない表現で的確に内容を伝える工夫をする。
⑨表現の変換:状況に応じ、適切な表現に言い換える。
⑩連結表現:文脈や連結を工夫し、「~で、~で、だらだら」型の稚拙で機械的な連結表現を避ける。
【連結表現】
・~することで(原因・理由) ・~によって(原因・理由) ・~にもかかわらず(逆接)・~でありながら(逆接) ・~ものの、~つつも(逆接) ・~ながらも(逆接)
・~するとともに(並列)
⑪反照代名詞の利用
・適宜「自分」という語を使用し、誰の視点からの説明かを明確にする。

暗黙の前提
・「わざわざ言明せずともわかりきった事柄」を「暗黙の前提」という。記述上の高度な技術の一つとして、「暗黙の前提」の利用がある。簡単な例では、「建物の中から外へ飛び出す」という表現では、「建物の中から飛び出す」、あるいは、「建物から外へ飛び出す」、「建物から飛び出す」としても、意味的にほとんど違いは無い。文脈上、「飛び出す」行為に「中から外へ」の意味が暗黙のうえに了解されているためだ。「暗黙の前提」を記述説明に利用する場合には、文章全体の流れや文脈を踏まえつつ、意味に違いが生じないよう注意しながら表現の調整を行うとよい。

補助用言

・補助動詞や補助形容詞等の「補助用言」や「形式名詞」は「仮名書き」する。

 補助用言
① 補助動詞   ■ある・いる・みる・くる・おく・いく・くださる・あげる・しまう

〈例〉
・置いてある、置いておく、置いてみる、考えてくる、考えていく、考えてくださる、考えてあげる、考えてしまう

※例えば「見る」は「ものを目で見る」が本来の意であるが、本来の意が薄れて「~してみる」といった意味で補助的に使われる場合を「補助動詞」といい、漢字では書かず「みる」と仮名書きする。他に、「置く」は「ある場所にものをすえる」が本来の意であるから、「置いて置く」と書くのは不自然である。本来の意で用いられているかそうでないかといった判断基準を持って使い分けするようにしよう。
② 補助形容詞   ■ない・よい・ほしい

〈例〉
・それほど勤勉でない。もう食べてもよい。本を読んでほしい。

※例えば「無い」は「存在しない」が本来の意味であるが、本来の意が薄れて「~ではない」という程度の意味で補助的に使われる使われる場合を「補助形容詞」といい、漢字では書かず「ほしい」と仮名書きする。ちなみに「良い」は「正しい、優れていて好ましい」等が、また、「欲しい」は「手に入れたい」等が本来の意味である。本来の意で用いられているかそうでないかといった判断基準を持って使い分けするようにしよう。


 形式名詞
 形式名詞   ■とき・こと・もの・うち・ため・とおり・わけ・はず・ところ

〈例〉
・勉強するときに…、うれしいことが…、人生というものは…、読んでいるうちに…、君に会うために…、僕の言ったとおりだ、来るわけないよ、もらったはずだが…、実際のところ…

※例えば「」は「時間や時刻」等が本来の意味であるが、本来の意が薄れて「~する場合、~の状況」といった意味で補助的に使われている場合を「形式名詞」といい、漢字では書かず「とき」と仮名書きする。ちなみに「」は「事柄や事件」等が、「」は「物質や物体」等が、「」は「内部、中身」等が、「」は「場所」等が本来の意である。本来の意で用いられているかそうでないかといった判断基準を持って使い分けするようにしよう。


 一部の副詞
 一部の副詞   ・ほど・くらい

〈例〉
・見れば見るほど…、三日くらいかかる…

※名詞の「程(程度の意)」、同じく名詞の「位(地位・等級の意)」と区別し、使い分けよう。


■作成:2004年(平成16年)
・追補:2023年(令和5年)3月