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細胞内の温度を精密に測る 分析化学・生物化学

2009年 5月 現代化学

細胞内で起こる化学反応に伴う細胞質の温度変化を測れるであろうか?東京大学の内山聖一らは,ナノ規模の高分子ゲルで蛍光団を持つ"ナノゲル温度計"を合成し,細胞の温度を測定してみせた(C,Gotaほか, J.Am. Chem.Soc., 131, 2766 (2009)).

"ナノゲル温度計"は,熱応答性の高分子ゲル〔ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド〕の膨潤(低温)- 収縮(高温)の相転移に伴う水の取り込みと放出によって温度を測る(図上. 本誌2004年3月号, p48参照).

ゲルが膨張して,蛍光団が周囲の水分子と水素結合するほど蛍光は消光されて弱まり,温度の違いが蛍光の明暗で表示される.細胞が活動する周囲のpH・イオン強度で使え,たんぱく質(ウシ血清アルブミン)の影響も受けない.

合成に用いた重合開始剤は(NH4)2S2O8であり,-OSO3-を高分子鎖末端にもち親水性が高いので,"ナノゲル温度計"は沈殿せず細胞質に分散して蛍光は点在できる. 実際に"ナノゲル温度計"を細胞へ注入後,培養温度を上下させると,蛍光が明暗に変化した(図右下). 明暗変化のヒステリシスは小さいので,判別可能な温度差(温度分解能)が最高0.29℃と優れている.高分子ゲルの種類で温度範囲,蛍光団の種類で蛍光色を選べ,合成が簡単なのも特長である.

内山らは,ミトコンドリアの酸化的リン酸化を脱共役させる化合物や,抗がん剤カンプトテシンを添加して細胞に化学刺激を与えた際の温度変化を定量化した.今後,細胞内温度分布を解明したり,正常細胞と異常細胞を区別したりする際に有効かもしれない.

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