ご挨拶
■研究に関するお問い合わせについて



はじめまして.東京大学大学院薬学系研究科で助教を務める内山です.2014年10月に約5年ぶりにホームページを一新しました.新しくなったホームページにようこそお越しくださいました.

相変わらずの話になりますが,僕は助教という立場でありながら「先生」と呼ばれる仕事は何もしていません.自分の仕事時間の99%以上は「研究者」として,自分の決めた研究プロジェクトの遂行,成果の普及に充てられます.2008年頃に発覚した元所属研究室の主催教授による研究費不正使用とそれに伴う研究室の規模縮小に伴って,名目上は研究科長の研究室に属する助教扱いになりました.実際には,それらの所属研究室とは何の関係も無く,お金も学生も満足な事務のサービスも与えられない孤立した存在であることを受け入れる代償に,自分で獲得した研究費で好きに研究グループを構築し,自分の好きな研究をやり続けるという環境を手にいれました.大学に属しながら,全く学生と関わることが無いというのも不思議な話ですが,僕は与えられた今の環境を何より大切にしつつ,研究者として魅力ある研究成果を世に出したいと考えています.

丁度今年はSTAP騒動がありました.研究の世界にも大きなパラダイムシフトが到来している印象を持ちます.肩書きを持つ立場的に上の人達が研究に携わる時間を失い,研究結果を正しく見る能力も,できの悪い部下を更正させる能力も,そもそも研究者として備えているべき知識も無い.そしてそのような指導者の下で,研究者としての資質に欠けた人々が次々と社会人として送り出され,あたかも研究者であるように振る舞う.これでは,じゃぶじゃぶと投資される公的資金とは裏腹に,研究大国どころか荒廃の方向を向いています.実験装置をブラックボックスとして使い,得られたデータのおかしさに毛頭気づかない人達を見ると,暗澹たる気分にさせられます.少なくともここ東大ではそういう人ばかり.それが現状です.

幸いなことに,僕は自分の時間のほぼすべてを研究に使える環境にいます.であれば,自分が研究者としてのプライドを持たなくて誰が持てるのでしょう.ごくわずかですが,若い人の中にも,実験がとっても大好きで,なおかつその投資された資金やエネルギーに見合う成果を出さなくてはいけないという責任感を持った人達がいます.そういう将来性のある人達がより能力を発揮できるよう,本当の研究者としてのあり方を見せることが自分に課せられている使命だと思います.

これまでは論文や解説記事の執筆こそが,研究者として最低限残さなければいけない痕跡だと思ってきました.そしてこの数年,大きな研究予算の代表になってみると,まやかしの自称研究者に駆逐されないよう成果を公表し,少しでも科学の本質を広く伝えることの重要性を再認識しました.今回気合いを入れてホームページを更新したのはそんな理由によります.このホームページを見て,一人でも多くの人に,「ああ,研究も捨てたもんじゃないな」「大学にもこういう人がいるのか」と想いを新たにして,今一度化学を堪能して頂ければ幸いです.

2014年9月23日