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単分子で論理ゲート証明
英クィーンズ大分子デバイス実現に道 水素,ナトリウムイオン用いて蛍光確認

2005年 5月 13日 化学工業日報

英クィーンズ大学の内山聖一博士研究員,APデシルバ教授らは,水素イオンとナトリウムイオンを利用して両者が高濃度に存在したときに蛍光を発するという「AND」の論理ゲートを単分子で機能させることに世界で初めて成功した. 単分子の光・電子機能を利用したデバイスは究極の分子デバイスと期待され,さまざまな研究が進められているが,ナノという極めて小さいサイズのために実際に機能を証明した例はなかった. 今回の結果は単分子がデバイスとして機能することを実証したもので,分子デバイスの実現に向けて大きく前進する成果といえる.

内山研究員らが証明したのは,水素イオンとナトリウムイオンを同時にモニターし,両イオンがともに存在するときのみに強い蛍光を発するという「AND」の論理. 分子が一つ入るナノサイズの空間をつくりだすことで,単分子として機能していることを証明した.

ナノサイズの空間は石けんの一種であるテトラメチルアンモニウムドデシルサルフェート(TMADS)がつくるミセル内. 論理ゲートには,蛍光を発する部分となるアントラセン,水素イオンを選択的に認識するトリアルキルアミン,ナトリウムイオンを選択的に認識するベンゾ-15-クラウン-5,さらにミセルに入る部分として長鎖アルキル基を導入した分子を設計した. 両者を混合すると半径三ナノメートルのミセルができそこに一分子が包括される状態になる.

水素イオン,ナトリウムイオンがともに高濃度の時のみに強い蛍光が観測され,ミセルが存在しない場合や外側が中性になる糖構造をもったミセルでは蛍光を示さなかった. このため,TMADSによるナノ空間が重要であり,この空間はこれまで論理ゲートとして働く記録がある大きさの百億分の一の体積.

分子デバイスは,その高い情報処理能力から次世代の半導体デバイス材料,論理ゲート材料,メモリーセル,分子スイッチなどに利用できると注目されている. 今回のミセルを作ってナノメートルの空間を作り,その空間を論理ゲートが働く場所にするというアイデアは,これまで開発された多くの論理ゲートにも応用できると考えられる. また,今回利用した水素イオンとナトリウムイオンは生体に存在するもので,体内には両者を同時に調節する特殊なたんぱく質が存在することも知られており,生体機能を模倣したはじめての論理ゲートともいえる.

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