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感熱蛍光の新高分子
奈良女子大-英クィーンズ大微小空間温度分析に応用 コンピューターのミクロ化も

2003年 5月 26日 化学工業日報

奈良女子大学の内山聖一博士研究員,岩井薫助教授,英クィーンズ大学のAPデシルバ教授らは,熱を感じて蛍光を発する高分子の開発に成功した. 分子の構造を設計することで温度領域や温度幅を変えることができるため,新しいタイプの温度センサーなどに利用できると考えられる. これまで,温度変化によって蛍光強度が変化する分子は知られておらず,水中でも機能することから,従来困難だった生細胞といった微小空間における温度分析への応用が期待できる.

今回開発したのは,低温ではまったく発光しないが四度C程度から徐々に蛍光を示し,四十度Cで強く蛍光を発する高分子材料.これまで,極性基やイオン濃度の変化を蛍光でみる方法はあったが,温度の差を蛍光で捉えることができる分子はなかった .蛍光性の低分子では温度の変化で蛍光の強度変化は起こらないため,温度変化で蛍光が変わる分子の開発は無理だと考えられてきた.

このため,内山研究員らは,感熱性高分子と蛍光性分子を組み合わせて新しい機能を持つ分子設計を試みた.N-アルキルアクリルアミド共重合体は感熱性を示し,高温時には主鎖近辺の水分子が減少する. ベンゾフラザン化合物は周囲の水分子数が減少すると強い蛍光を発する.この二つの特徴を組み合わせた.

用いた親水性モノマーDMAPAM,疎水性モノマーNTBAMの共重合体は高温になると主鎖近傍が疎水性となり,DMAPAMの三級アミンが高分子同士の凝集を阻止する .そしてDBD-AEの蛍光団であるベンゾフラザン骨格が周囲の疎水性増加にともない蛍光を強く発するというもの.蛍光応答は,温度上昇,温度低下のいずれに対しても可逆的であり,繰り返し測定しても同様の結果が得られた.

蛍光法は高感度で選択性の高い測定方法として知られるため,微小空間で,とくにその性能を発揮するといえる. この分子は温度だけでなく,pH(水素イオン濃度)が高くなるほど蛍光強度が増加することも判明しており,より機能性の高い高分子材料になるとみられる. このため,コンピューターのミクロサイズ化などにも応用できると期待される.

なお今回の成果は,二十八日から開催される高分子学会年次大会で発表される.

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