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短行程蒸留の運転条件と設計

蒸留とは

蒸留とは沸点が異なる複数成分から成る混合液を蒸発と凝縮により分離する熱力学的分離技術です。高い蒸発温度が製品の熱劣化を引き起こす感熱性・高沸点物質の場合には、真空域まで沸点が下げられます。

真空蒸留では蒸気や空気の容積がその真空度までの桁数倍になり、その気体分子は大気圧下の場合と比べて特異な挙動を示し、蒸留圧力へ大きな影響があります。

軽揮発分は薄膜形成させても、単純に全ての分子が蒸発するわけではなく、希望通りの分離に難しさがあります。また、蒸発を希望しない高い沸点物質や不純物も同時に蒸発する可能性があります。

従って、希望する純度や分離組成を得ることは、単に真空度や加熱温度を変えるだけでは 容易には達成できないという真空蒸留の特異性があります。

即ち、真空蒸留には化学工学のような蒸留分離の公式はなく、計算では設計ができず、従って真空蒸留とは実験により蒸留条件を見出す実証技術なのです。

蒸気分子は凝縮器で100%凝縮するわけではなく、また空気等の気体は真空から大気への流出を拒み、真空度により逆流さえするので、蒸留圧力を一定に制御するには経験ある真空工学による設計が必要であり、またフィードから製品排出までおよび凝縮から真空排気までの過程における全てのハードウエアの設計は十分な経験とノウハウがないと満足し得る性能を期待できません。そのため、スケールアップでは製品の特性に適合した全蒸留ステップにおけるプロセス開発が必要になります。

蒸留の主要ファクターとして沸点の圧力や温度とは実際値が少し異なります。

実際には、フィード液は単純に2成分であることは少なく、有機溶媒や水、不純物、汚染物質、複数の軽揮発分等が含まれていることが多く、蒸留性能を達成させ、希望する製品品質を得るには考慮に入れるべき多くの蒸留ファクターあります。


蒸留条件の確定

短行程蒸留に必要な運転条件は、通常、蒸留試験で加熱温度に対する留分率をプロットする蒸留曲線をベースにして求められますが、蒸留試験の目標は最大フィード速度で希望する純度の製品を得られる運転条件を見出すことです。

真空下では蒸気や空気等の気体容積は大気圧のそれに比べて、膨大な容積(0.1Paにて106倍)に膨張し、空気分子の平均自由行程は0.1Paにて6.67cmまでは他の空気分子と衝突せずに飛行でき、希薄な密度になります。分子量が高い蒸気分子では平均自由行程が短いので、分子蒸留の原理には適さず、短行程蒸留が妥当な蒸留法といえます。

真空蒸留プロセスでは予想以上に多くの運転ファクターが存在します。そのために他社製装置では性能保証がないので、改造も含めて蒸留条件の研究・開発に2-3年の年月および多くの費用を要すると言われています。

最適な蒸留条件の実証および生産のためのスケールアップ開発を専門家のUIC社またはVTA社に依頼すれば、同社のプロセス開発センターにて数日で最適条件が得られるので、研究開発期間を短縮でき、プロジェクトを迅速に遂行でき、経済的です。


蒸留ファクター

真空蒸留は熱力学的分離技術として揮発性成分の蒸発・凝縮がプロセスのコアであり、沸点に相当する蒸発圧力と蒸発温度および凝縮温度が主なプロセス条件です。しかし、実運転では下記に述べるように多くの考慮すべき運転ファクターが存在し、トラブルフリーの運転のためにはそれらを最適化することが必要です。

真空蒸発の蒸気状態は気体の状態方程式 pV = nRTと同じに考えることができます。

 p: 蒸発圧力 [Pa]
 V: 蒸発缶容積 (蒸気容積、蒸発面積)
 n: 留分(蒸発軽揮発分のモル数、即ち、蒸発量および凝縮量を意味する。)
 R: 気体定数 [8.31 J(mol,K)]
 T: 絶対温度 (加熱・蒸発温度)

この状態方程式からすれば、真空蒸留の運転条件は基本的には蒸気圧力p, 留分蒸発量nおよび蒸発温度Tの3つです。しかし、実際にはこれら運転条件はそう単純ではありません。

先ず、蒸発圧力pは軽揮発分の缶内蒸気圧力 pdに加えて、フィード液が常に装置内に持ち込む空気の圧力 paやその他の気体圧力の総和です。pa は蒸発と凝縮の両方に影響を及ぼします。


真空ポンプと排気性能

大気圧で1mlの空気量は圧力0.1Paでその気体容量は1,000Lに膨張し、この非凝縮性気体は蒸留圧力および排気性能に影響を与えるので、それを考慮した正しい排気性能を設計しないと、圧力変動が生じて蒸留性能を悪化させます。

従って、真空ポンプセットおよび排気ラインを含まない蒸留缶のみを購入する場合には、 蒸留圧力、凝縮性能、排気性能等はすべてユーザーの責任になります。

蒸発缶および真空配管を含むすべてのハードウエアは各々排気抵抗を持ち、排気性能に 関係し、またpa による影響もあるので、適切な真空排気設計が必要です。

真空ポンプメーカーは蒸留プロセスが分からないので、そのポンプ設計では蒸留性能が 出ないケースが多くあります。


排気性能と凝縮性能

蒸気圧力とはその沸点に応じて蒸発する軽揮発分の蒸留缶内を満たす蒸気の圧力です。 この蒸気圧力には空気分圧が加算されるので、蒸発圧力よりも高くならないように、その蒸気圧に見合った排気性能および凝縮器の凝縮性能を設計する必要があります。

蒸気分子の飛行速度は2乗平均速度式(√ = √(3RT/M x 10-3) [m/s](Mは蒸気分子の質量)から、例えば250℃の脂肪酸の蒸気分子の速度は大凡200m/s程度となり、その場合、蒸発面から冷たい凝縮器面までの飛行時間は僅か 1/500秒となります。この蒸気分子は凝縮面で瞬時に凝縮されるので、凝縮面上での蒸気圧力はなくなり、蒸発圧力への影響はないことになります。一方、ベース圧力として蒸発缶内に存在する空気分子の分圧或いは非凝縮性揮発分の蒸気圧による蒸発圧力への影響は大きいと考えられます。

凝縮器の設計は十分な凝縮能力と非揮発性気体の影響を製品ごとによく検討する必要があります。


真空制御

蒸留缶の構造上から制御すべき蒸発圧力は運転中に蒸留缶内で測定することはできません。一般的に運転圧力はコールドトラップ直後で制御されます。蒸発圧力に最も近い圧力は蒸留缶出口の圧力です。但し、コールドトラップでの蒸気の凝縮量が僅かであれば、蒸発量は留分凝縮量にほぼ等しく、且つ空気が一定速度で排気されれば、蒸発圧力の制御は正常であると考えられます。


蒸留試験の圧力選択

蒸留試験で調べるべき蒸発圧力は中真空域の桁数の中から数十の圧力値から選択されます。 製品の物性や沸点が不明な場合には、かなりの数の圧力値を試す必要があり、真空ポンプ類の回転数も変えねばなりません。


加熱温度

加熱温度は製品の沸点、熱劣化温度、蒸発熱、フィード温度、予熱温度、フィード速度等を考慮して、蒸発缶の加熱温度および熱量が決められます。加熱温度は、各圧力条件に対して約 10種の温度が選択されます。例えば、単純に 圧力 40種 x 温度 10種 = 400回の試験回数の可能性が考えられ、その中から実際に試す条件が決められます。


冷却温度

凝縮器およびコールドトラップの冷却温度も蒸気の十分な凝縮のために、凝縮温度 および真空度に応じて運転パラメターとして5つ程度の冷却温度が検討されます。 冷却温度および凝縮性能は蒸留のための重要な条件です。


フィード速度

フィード速度は経済性のために最高許容速度が求められます。希望する製品品質が得られない限り、フィード速度は低速から徐々に増加させることが試みられます。これも蒸留性能を得るための重要な変数であり、そのフィード速度に応じて必要蒸発熱量が変わるので、圧力および温度を変えねばなりません。


ワイパーおよび回転速度

短行程蒸留は原則として1パスで二成分を分離する蒸留タスクです。その精密な成分分離のために蒸発面上に薄膜形成を行いますが、その蒸発面積当たりの薄膜量は僅かです。

ワイパーによる薄膜形成は製品純度を高めるための最も重要なハードウエアです。製品の物性に応じてワイパーの種類および回転数を変えて、製品品質の向上へのアプローチがなされます。


飛沫同伴

フィード液からの蒸気中への飛沫同伴や発泡は製品コンタミ、或いは製品ロスの原因になります。飛沫同伴や発泡の原因が何で、どのように防止できるかはスケールアップのために重要な検討事項です。製品の高純度化のために、飛沫同伴に対するハードウエアやノウハウが開発されており、飛沫同伴を皆無にすることは必須条件です。


脱臭、微量危険物質の除去

脱臭や微量危険物質の除去のために、UIC社は日本特許の「洗浄式コンデンサー」を発明しました。天然物の脱臭やPOPs(残留性有機性汚染物質)の除去に高い効果を期待できます。


多成分分離

複数成分の個別分離のためには複数の蒸留缶段数が必要であり、それに応じた運転条件の検討、沸点や製品純度に基づくプロセス開発が必要になります。天然物質は多くの成分から成るものが多く、6-7段式のものが納入されています。

最近は、オメガ3脂肪酸のような微量有効成分を熱劣化なく製品中に残留させることが求められています。或いは、トランス脂肪酸や3-MCPD等の危険物質の除去も法制化の傾向が見られ、その蒸留技術が必要になっています。UIC社およびVTA社はそのような蒸留分離技術の実績がありますが、新しいニーズのために引き続いて性能向上の開発が続けられています。


スケールアップのためのプロセス開発センター

標準的小型実験機は汎用性および融通性がなく、従って、運転条件を替えてプロセス開発を行うことが難しく、スケールアップのための蒸留試験はできません。

UIC社およびVTA社のスケールアップ開発用蒸留装置は多くの運転条件を変えられるように数十通リもの構成機器の組み換えが可能なように準備されています。

各種フィードシステム、各種フィードポンプ、フィード配管、二重管、バイパス管から始まって、脱気システム、各種蒸発缶、多段式蒸発缶、各種ワイパーシステム、循環配管、各種連続残渣・留分排出ポンプ、ブライン・液体窒素コールドトラップ、各種真空配管類、各種多段真空ポンプセット、各種加熱装置(フィード、蒸発缶、残渣、留分)、各種冷却装置(留分、凝縮器、コールドトラップ)等に加えて、温度、圧力、流量等の計器類やインターロック、自動弁、記録計、製品用各種品質分析計等が完備されており、あらゆる蒸留試験および製品品質やプロセス改善のためにこれら構成機器が入れ替えられます。

このように、全ての蒸留ソリューションのために完備したスケールアップ実験装置は 全運転パラメターの変数極大値を網羅した唯一の蒸留最適運転条件を実証し且つ提案することに役立っています。

微量特殊成分には蒸留プロセスに大きな影響を与えるものがあり、その成分および挙動を見落とすことはできません。

沸点が低い場合には、流下膜蒸発缶、薄膜蒸発缶等も使用され、沸点差が少ない場合には、精留塔が付け加えられます。


受託蒸留

VTA社は客先の装置購入前に、市場開拓用製品の受託蒸留を行っており、大型生産装置で多数の製品の蒸留委託を受けています。予め蒸留試験での実証後に生産に入りますが、要望される品質向上に応じてプラント改良が行われ、この生産実証は蒸留技術を向上させ、世界のトップ技術を維持し且つ蒸留の先端技術の開発に役立っています。


UIC社およびVTA社の蒸留試験

欧州に加えて、米中ロ国、東南アジア、オーストラリア、中南米、アフリカ等、全世界からあらゆる種類の物質の試験依頼があり、UIC社およびVTA社で合わせて既に数万件も試験実績があり、その試験データがノウハウの蓄積にも反映されています。

この蒸留試験へのご参加は歓迎され、毎年、我が国からもユーザーがUIC社およびVTA社の蒸留試験に参加され、その蒸留分離性能にご満足頂いています。また、品質改善、能力向上、プロセスの合理化、トラブルフリーの連続運転等で納入蒸留装置の性能に高いご評価を頂いています。


結論

このように、UIC社およびVTA社では両社プロセス開発センターで優れた研究要員およびプロセス開発技師の試験グループがすべての蒸留試験で希望品質を得て、生産上のプロセ ス工程で熱劣化や付着等の問題が生じないプロセス開発を行っています。また、半端でない多数の準備された構成機器から、特定プロセスに必要な構成機器の組み換えを行って蒸留目的を達成し、蒸留生産に必要な最適運転パラメターを実証し且つトラブルフリーの生産プロセスの開発を行うことが可能です。それにより両社が自負するスケールアップ生産機の性能保証を行うことができます。

これらの実証試験により、生産装置の試運転立ち上げが短時間で済み、直ちに生産に入れることはユーザーにとって大きなメリットとなりましょう。