カミキリ撮影法


● アプローチ編

 カミキリの撮影は、対象と出会うところからはじまります。なんとなく野山を歩いてもカミキリと出会う機会はあまりありません。まずは撮影したい種の生態を知ることからはじめましょう。
 その種の幼虫がどんな樹木や草に寄生し、成虫になってからはなにを食べているのか(何も食べないものもいます。)、成虫の主な活動時間帯は、雌雄の出会いや産卵行動はいつ、そしてどんなところで、等々その種の生活史を知ることが出会いのヒントになります。
 以下は、私なりの撮影スタイルを1待機法、2徘徊法と便宜的に区分して紹介していますが、現実的には1と2を組み合わせて行うこともあります。

1 待機法

(1) 花で待つ
 ハナカミキリやトラカミキリの仲間などは花粉や蜜を食べるものが多いため、生息地にある適当な花で飛来を待つ方法です。
 早春はカエデ類やサンショウ、その後はナシやズミ、初夏はウワミズザクラ、ガマズミ、ミズキ、クリ、盛夏からはシモツケ類、セリ科、ショウマ類、ノリウツギ、リョウブ、ヌルデなどです。カミキリは小さい花が房状につく植物が好みのようです。
 今が盛りとばかりに咲き誇り、他の昆虫も多く集まっている日向の花が多くのカミキリを惹きつけますが、ヒメハナカミキリの多くやヌバタマハナカミキリなど種によっては日陰に咲いている花を好むものもいます。
 花に集まるカミキリの多くは、日中の気温が上昇するにつれ飛来数が次第に減ってきます。その時の気象条件により差異があるものの、一般的に昼頃までが多くのカミキリを観察・撮影するのに最適な時間帯になります。これにも例外があり、夕方に多くやってくる種もあるので固定観念を持たずに観察してみましょう。

(2) 生きた樹木や草で待つ
 シナカミキリクロニセリンゴカミキリなどトホシカミキリ族のカミキリは、生木の葉や蔓を後食します。種によって好みの木や草が違いますが、生息地周辺にあるハルニレやオニグルミなど生木や草本(その種の食樹・食草である場合が多い。)の近くで待つ方法です。
 例えばヘリグロアオカミキリヒゲナガシラホシカミキリは、ハルニレなどの若い葉を好むので、ひこばえの多い木の周辺で待機していると出会うチャンスが広がります。

(3) 材の周辺で待つ
 山地にある土場(伐採した木を山積みにしてあるような場所)や薪材を置いてあるところ、林のなかの倒木、立枯木、ソダ(山林整備などで伐採した下草の細い枝や蔓など)は産卵のため各種カミキリのメスが多く集まってきます。(オスもやってきます。)
 材には伐採したばかりのものや、幹の表皮が剥げ落ちた古いものまでさまざまです。
 カミキリは種によって新鮮な材を好むもの、腐朽の進んだ材を好むもの、中間的な材を好むものなど、これもさまざまです。伐採後半年ぐらいまでの材を好むものが比較的多いようですが、アラメハナカミキリクロオオハナカミキリなど、相当腐朽の進んだ立枯木を好むものもいます。
 自然状態での倒木や立枯木はそれなりの経年変化をたどりますが、人為的に伐採された材はいずれ何らかの形で利用(撤去)され、または一部がそのまま放置されます。
 このため私はカミキリの成虫が出現する前の春先、自分のホームグランドの山林を見て廻り、特に新しく伐採された材がある場所をあらかじめチェックする、いわゆる下見することを心がけています。
 これだけのことをしておくだけで、シーズンに入ってからは優良な材のある場所で待機し、極めて効率的に目的のカミキリに出会うことができます。
 材に飛来する時間帯は種によって異なりますが、午前中より午後の方が比較的多く、ハンノアオカミキリキモンカミキリなど、好んで夕方に飛来するものもいます。
 また、クロカミキリヒゲナガカミキリなど、夜間に活動する種も土場や薪材周辺に集まってくるので、積極的に夜間も出かけてみましょう。
 土場や薪材のある場所はほとんど私有地なので、立ち入る際は是非所有者に断りましょう。大抵快く応じてくれます。

2 徘徊法

 待機法が後食や産卵場所など期待できる有力ポイントでじっと待つ方法でしたが、ポイントが広く薄く散在する場合はひたすらそのポイントを探し歩く方法が有効になります。
 例えばゴマフキマダラカミキリビロウドカミキリニセビロウドカミキリヤハズカミキリなどは、昼間は枯れた葉の中に潜んでいることが多いので、生木にある葉のついた枯枝を丹念にチェックしていくと発見することができます。
 特にゴマフキマダラカミキリは、この方法以外なかなか発見できないカミキリです。
 秋に新成虫が出現し、ヤマブドウ、ウド、ハリブキなどの枯葉の中に潜み、後食もするホンドアカガネカミキリやコブヤハズカミキリ族のカミキリも林道や登山道脇にあるこれらの枯葉をチェックすることで発見できます。



● 機 材 編

1 カメラ

(1) APSデジタル一眼レフ
 レンズ交換ができるため、標準マクロから望遠レンズ用として私が最も多用しているカメラです。
 カミキリの撮影では種によって暗い場所で撮影しなくてはならないことが多く、ストロボを使うケースがあります。日中のストロボ撮影のデメリットは、背景が暗くなり、あたかも夜間に撮影したような写真になりがちなことです。
 ストロボを使用して背景も自然な明るさになり、さらにある程度の被写界深度(ピントの合う前後の範囲)を得るには高感度に強いことが必須条件になります。
 その意味で撮像素子の大きなAPSデジタル一眼レフは、暗い部分から明るい部分までなだらかな階調が再現でき、高感度でもノイズの発生や白飛びが少ない画像が得られる大きな利点があります。

(2) フォーサーズデジタル一眼レフ
 主に8mm(35ミリ版で16mm相当)の魚眼レンズ用に使っています。
 APSデジタル一眼レフに比べ撮像素子が小さいため、被写界深度が深いことを活かした撮影に使用しています。

(3) コンパクトデジタルカメラ
 旅行や登山など、機材をなるべく少なくしたいときのサブ機として使うことが多いカメラです。
 高感度にするとザラつきが目立ち、また、明暗の差が大きい条件では白飛びなど画質が低下するため、撮影条件がよい場合に限って、このカメラの何よりのメリットである被写界深度が深い特性を活かせるような使い方を心がけています。
 1〜2センチまで被写体に近づけるマクロ機構、レンズはズーム域で広角側が24mm程度のものを選んでいます。
 好条件であれば素晴らしい描写をしてくれるカメラです。

2 レンズ

(1) 魚眼レンズ
 カミキリの生息環境まで写し込んだ写真を撮りたい場合に使用しています。

(2) 標準、望遠マクロレンズ
 アップの写真、背景をぼかした表現をする場合に使用しています。

(3) 超望遠レンズ
 高所の葉裏にとまっているトホシカミキリ族や立ち枯れの高い場所にいるカミキリなど、対象に近づけない場合に使用しています。
 通常は100〜400mmレンズで間に合わせていますが、カラフトホソコバネカミキリの撮影では600mmレンズを持ち込んだこともあります。しかし、重装備の割には全く成果が上がりませんでした。


3 ストロボ関連

(1) 内蔵ストロボ
 光の豊富な場所にいるカミキリはほんの一部で、夜行性のものや伐採枝の陰、葉裏など暗い場所にいることがほとんどです。カメラの感度を上げたり三脚を使用して手ぶれを防ぐこともできますが、どうしてもエリトラのディティールが損なわれてしまうため、やむを得ずストロボを使用するケースが多くなります。
 最も手っ取り早いのが内蔵ストロボを使う方法で、魚眼レンズを除くほとんどのレンズの撮影領域をカバーしてくれます。

(2) 外付けストロボ
 葉を後食するトホシカミキリ族などの撮影では高所にいるケースが多いため、内蔵ストロボでは光量不足になりがちです。その場合、威力を発揮するのが外付けストロボです。ガイドナンバーが30以上のものを選べば、ほとんどの撮影に対応できます。  

(3) デュフューザー
 1灯ストロボによるフラッシュ撮影では、どうしても陰影が強く出てしまいます。屋内ではバウンス撮影という手もありますが、野外ではできないので光を拡散しやわらげるためデュフューザーを使用します。
 市販品がたくさんでていますが、フィルムケースを半分に切って内蔵ストロボに被せるなど手製のデュフューザーをつくるのも一興です。咄嗟の場合はハンカチやティッシュでも代用できます。
 

4 その他

(1) ヘッドライト
 夜間の探索では必需品です。あくまで発見するための道具として考えた方がよく、強い光を嫌う種もあるので、撮影時は光量を弱めるなどの配慮が必要です。

(2) 脚立・踏み台
 花上や葉裏など高い位置での撮影には絶大な威力を発揮します。わずか10p高いだけでもアングルの自由度は飛躍的に向上します。
 ただし、足場の悪い急斜面などで使用する場合は、ロープで転倒防止措置をするなど安全対策には万全を期してください。



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