研究内容

17  詳細

2005年4月〜 東京大学大学院薬学系研究科 薬化学教室 助教 > 投稿論文

A cationic fluorescent polymeric thermometer for the ratiometric sensing of intracellular temperature
Seiichi Uchiyama, Toshikazu Tsuji, Kumiko Ikado, Aruto Yoshida, Kyoko Kawamoto, Teruyuki Hayashi, Noriko Inada
Analyst, 2015, 140, 4498-4506

 Abstract
We developed new cationic fluorescent polymeric thermometers containing both benzothiadiazole and BODIPY units as an environment-sensitive fluorophore and as a reference fluorophore, respectively. The temperature-dependent fluorescence spectra of the thermometers enabled us to perform highly sensitive and practical ratiometric temperature sensing inside living mammalian cells. Intracellular temperatures of non-adherent MOLT-4 (human acute lymphoblastic leukaemia) and adherent HEK293T (human embryonic kidney) cells could be monitored with high temperature resolutions (0.01–1.0 °C) using the new cationic fluorescent polymeric thermometer.

 内容
これまで我々の研究グループが行ってきた生細胞内の温度計測には,プローブ濃度や光源の強度に依らない測定パラメータとして,蛍光寿命を推奨してきました (Nature Commun., 2012; Anal. Chem., 2013; PLoS ONE 2015).
本論文では,プローブ濃度や光源強度に依らない測定パラメータとして,初めて二波長における蛍光強度の比を採用し,従来用いてきた蛍光団(ベンゾフラザンやベンゾチアジアゾール骨格)に加え,環境非依存的な蛍光団であるBODIPY骨格をも導入した蛍光性温度センサーを開発しました.これにより,高価な蛍光寿命顕微鏡が無くても,普通の蛍光顕微鏡で細胞の温度を計測することが可能になりました.

 ひとこと
研究には,自分の理想を具体化するものと,周囲の理想を具体化するものに分かれると思いますが,この論文は自分としては珍しく後者に相当します.個人的には,蛍光寿命の方が蛍光強度比より測定パラメータとして優れている,と思っていますしそれは今でも変わりません.ただ,蛍光寿命を測定パラメータとしてしまうと,細胞内温度に興味をもつ多くの科学者が,その測定装置がないために研究の進展を諦めてしまう,という事を認識するようになりました.折しも,JSTで採用して頂いていた先端計測機器分析プログラムの目標が,「多くのユーザーに使用される汎用性の高いツールの開発」とありますので,それに採択されている以上,蛍光強度比を利用する蛍光性温度センサーを開発するのは必然なのかもしれません.そういう背景から取り組んだプロジェクトですが,それでも少しだけ抵抗してまして,結果がほぼ出そろったあたりで近い研究者に話したところ,利用価値がものすごく高そうだから,JACSやAnal. Chem.に投稿してみたら?と薦められることもあったのですが,自分としてはこんな蛍光寿命を強度比にしただけの内容では「新規性は無い」と思っているので,最初から自分がこれまでに筆頭著者として出してきた中で最も低いランクの雑誌(Analyst)に投稿しました.色々忘れないように.こういうところ,相変わらず頑固なんですよね…(苦笑).蛇足ですが,汎用性ありますのでフナコシから市販されています.

フナコシ株式会社 : http://www.funakoshi.co.jp/contents/63287