研究内容

15 自然に細胞内へ導入される蛍光性温度センサーです 詳細

2005年4月〜 東京大学大学院薬学系研究科 薬化学教室 助教 > 投稿論文

Cationic fluorescent polymeric thermometers with the ability to enter yeast and mammalian cells for practical intracellular temperature measurements
Toshikazu Tsuji, Satoshi Yoshida, Aruto Yoshida, Seiichi Uchiyama
Anal. Chem., 2013, 85, 9815-9823

 Abstract
An accurate method for measuring intracellular temperature is potentially valuable because the temperature inside a cell can correlate with diverse biological reactions and functions. In a previous study, we reported the use of a fluorescent polymeric thermometer to reveal intracellular temperature distributions, but this polymer required microinjection for intracellular use, such that it was not user-friendly; furthermore, it could not be used in small cells or cells with a cell wall, such as yeast. In the present study, we developed several novel cationic fluorescent copolymers, including NN-AP2.5 and NN/NI-AP2.5, which exhibited spontaneous and rapid entry (<20 min) into yeast cells and subsequent stable retention in the cytoplasm. The fluorescence lifetime of NN-AP2.5 in yeast cells was temperature-dependent (6.2 ns at 15 degreeC and 8.6 ns at 35 degreeC), and the evaluated temperature resolution was 0.09-0.78 degreeC within this temperature range. In addition, NN-AP2.5 and NN/NI-AP2.5 readily entered and functioned within mammalian cells. Taken together, these data show that our novel cationic fluorescent polymeric thermometers enable accurate and practical intracellular thermometry in a wide range of cells without the need for a microinjection procedure.

 内容
2012年にNature Communicationsで報告した蛍光性温度センサーに細胞内への移行能を付け足しました.これにより,マイクロインジェクション法の適用が困難である酵母細胞に対しても,温度計測を行うことが可能になります.前報では蛍光性温度センサーのイオン性ユニットとしてアニオン性のユニットを用いていましたが,それをカチオン性のユニットに替えることで,細胞内への速やかな移行能が備わりました.一般的な導入条件として室温,10分程度で蛍光性温度センサーが酵母細胞へ導入されます.温度計測の感度に関しては,以前の蛍光性温度センサーを踏襲しており,温度依存的な蛍光寿命を測定することで,温度分解能は最高で約0.1 degreeCに達します.開発した蛍光性温度センサーは,酵母細胞だけでなく動物細胞に対しても有効であり,非接着性のMOLT-4細胞や接着性のHEK293T細胞に対しても利用できることが分かっています.

 ひとこと
Anal. Chem. 2.5 vs 0.5 (1人はmajor revision)でアクセプトでした.さすがにしっかり取り組めばこのクラスの論文は難なく通すことができます.
 最近は,一つの論文を発表することに,かなりの長い年月がかかりますが,この論文は2010年頃より開始したキリンホールディングス(現キリン)との共同研究の最初の成果になります.その頃は,僕以外の研究者が研究室に誰もいないような状況でしたが,そんな中,キリンの研究員である辻俊一君が,2009年のJ. Am. Chem. Soc.に報告した細胞の温度計測に関する論文に興味を持ったとかで,上司と二人で話を聞きに来たのがきっかけでした.
 何より外から興味を持たれたことにうれしく,相談された共同研究を前向きに進めたかったのですが,聞けばまだ辻君は当時26才になるかならないかのひよっこなので,「人に任せずに自分でセンサーを合成する」という条件を伝えたのが,今となっては懐かしいです.びっくりするような話ですが,辻君の目を捉えて離さなかった論文(J. Am. Chem. Soc.)のデータを出した郷田さん(現コーセー)は,辻君と同期であって,そういう同い年から同い年へと時間的な重なりが無く研究が引き継がれて発展していくのはとても珍しいのですが,先日顔合わせパーティーをしたらこの二人は誕生日まで全く同じことが判明しました.性格は似てないので,クローンではないと思うのですが,いやはやこれだけ優秀な後輩が同じとある日に生まれたというのは,気持ちがわるいです.ここまで来ると偶然では無いんでしょうね…
 話がだいぶそれましたが,この研究はキリンの社内からもそれなりに評価されているようなので,引き続き共同研究を進めることができそうです.最初の一報を世に出せたのを機に,思い切って生物寄りの方向に舵を切るつもりなので,今後の展開を要チェックです.