研究内容

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2005年4月〜 東京大学大学院薬学系研究科 薬化学教室 助教 > 投稿論文

Measurement of local sodium ion levels near micelle surfaces with fluorescent photoinduced-electron-transfer sensors
Seiichi Uchiyama, Eiko Fukatsu, Gareth D. McClean, A. Prasanna de Silva
Angew. Chem. Int. Ed., 2016, 55, 768-771

 Abstract
The Na+ concentration near membranes controls our nerve signals aside from several other crucial bioprocesses. Fluorescent photoinduced electron transfer (PET) sensor molecules target Na+ ions in nanospaces near micellar membranes with excellent selectivity against H+. The Na+ concentration near anionic micelles was found to be higher than that in bulk water by factors of up to 160. Sensor molecules that are not held tightly to the micelle surface only detected a Na+ amplification factor of 8. These results were strengthened by the employment of control compounds whose PET processes are permanently "on" or "off".

 内容
光誘起電子移動の制御に基づく蛍光センサーを利用して,ミセルが創り出すナノ空間のナトリウムイオン濃度を測定する,という論文です.2008年に,ミセル近傍の水素イオン濃度測定については報告済み (Angew. Chem. Int. Ed., 2008)であり,本論文はその続編にあたります.作動原理や,ミセル近傍においてイオンが濃縮または希釈されているという概念そのものは前報と同じですが,測定対象とするイオンが水素イオンからナトリウムイオンに替わっただけで,研究の進行はとても大変になりました.まず,ナトリウムイオンに対する蛍光センサーはイオンの捕捉部位として水溶性の高いベンゾ-15-クラウン-5環を備えており,合成が大変です.また,この捕捉部位とナトリウムイオンの結合定数が水中でそれほど大きくないため,水素イオンの時には確認できた中性,カチオン性ミセル近傍でのイオンの希釈が確認できず,今回はアニオン性ミセル近傍でのナトリウムイオンの濃縮しか確認出来ませんでした.それでも,ミセル近傍において水素イオンで起きていることがナトリウムイオンでも起きている,ということが確認され,これからのナノ環境計測の方向性を示すことができました.

 ひとこと
前報がAngew. Chem. Int. Ed.の表紙を飾るほどだったので,それに追随してこの論文もAngew. Chem. Int. Ed.へ投稿.結果は二人の審査員ともas isで,投稿してから10日くらいでアクセプトされました.残念ながら二人の審査員がともに最高レベルの評価を付けた際に認定されるVIP(very important paper)論文にはなりませんでしたが,エディターが選ぶhot paperには選出されました.もともとこのプロジェクトは,10年以上前のイギリス留学時に始めていたものであり,その時に半分くらいのデータを取っていました.でも,それだと小さい雑誌にしか掲載できないと思って,センサーの種類を付け足したのが功を奏しました.この5年くらい,温度センサーの論文しか出せていないので,毛色の違う事もやっていることを示せて良かったです.このプロジェクトで若手Aをもらっているので,これに満足せず,もう少し成果をださないとまずいなぁ,という次第です.