研究内容

8 二種類の環境を同時にモニターできる全く新しいタイプの蛍光センサー 詳細

2005年4月〜 東京大学大学院薬学系研究科 薬化学教室 助教 > 投稿論文

Multiplexing sensory molecules map protons near micellar membranes
Seiichi Uchiyama, Kaoru Iwai, A. Prasanna de Silva
Angew. Chem. Int. Ed., 2008, 47, 4667-4669

 Abstract
Multiplexing fluorescent sensors that simultaneously target proton concentration and polarity move to micellar nanospaces, self-regulate their positions, and report their pKa values and wavelengths, which are controlled by their local environments. Such sensory functions enable maps of proton gradients near micellar membranes to be drawn.

 内容
水素イオン濃度と極性を一度に評価できる蛍光センサーを開発し,それを利用してミセル近傍の水素イオン濃度をマッピングしました. 中性の親水性部をもつミセルでは,内部に近づくほど水素イオン濃度が単調に減少していますが,アニオン性の親水性部をもつミセルでは,静電引力によってミセル表面付近の水素イオン濃度が局所的に上昇していたり,カチオン性の親水性部をもつミセルでは,静電反発によってミセル内部の水素イオンが極端に少なくなる様子を捉えました.

 ひとこと
Science reject → Nature reject → Nature Nanotechnology reject → JACS reject → Angew. Chem. Int. Ed. publish as is でアクセプト. とにかく時間がかかりましたが,ポスドク時代のメインテーマをようやく形にすることができました. この論文はたくさん蹴られましたけど,新しいコンセプトを詰め込みすぎていて論文の視点を決めるのに一苦労でした. Angew. だけすんなりアクセプトされたように映りますけど,JACS を 1 vs 2 でリジェクトされたときに,もうこの形は通用しないと思って,イントロを別視点のものにすべて書き換えました. その甲斐あってのアクセプトです. ここ数年目指していた「Nature 系に載せる」という目標はあえなく失敗しましたけど,Angew. の表紙を飾ったり,Nature で紹介されたり(じゃあせめて審査に回せよ!ってつっこみたくなりますけど)と少しは前進しているかも,とそれなりに納得できる部分もありました. テーマ自体は留学先のボスである AP のアイデアで,僕が結構好き放題にアレンジしてしまった(蛍光団をナフタルイミドからベンゾフラザンに変えたりとか)んですが,自分事ながら,やっぱり己の役割を正しく理解できている人達の研究チームは強いな,と思いました. どういう立場になっても,常に適切な貢献をしていきたいものです.