研究内容

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2005年4月〜 東京大学大学院薬学系研究科 薬化学教室 助教 > 投稿論文
A cell-targeted non-cytotoxic fluorescent nanogel thermometer created with an imidazolium-containing cationic radical initiator
Seiichi Uchiyama, Toshikazu Tsuji, Kyoko Kawamoto, Kentaro Okano, Eiko Fukatsu,
Takahiro Noro, Kumiko Ikado, Sayuri Yamada, Yuka Shibata, Teruyuki Hayashi, Noriko Inada, Masaru Kato, Hideki Koizumi, Hidetoshi Tokuyama
Angew. Chem. Int. Ed., 2018, 57, 5413-5417

 Abstract
A cationic fluorescent nanogel thermometer based on thermo-responsive N-isopropylacrylamide and environment-sensitive benzothiadiazole was developed with a new azo compound bearing imidazolium rings as the first cationic radical initiator. This cationic fluorescent nanogel thermometer showed an excellent ability to enter live mammalian cells in a short incubation period (10 min), a high sensitivity to temperature variations in live cells (temperature resolution of 0.02–0.84 8C in the range 20–40 8C), and remarkable noncytotoxicity, which permitted ordinary cell proliferation and even differentiation of primary cultured cells.

 内容
世界初となる「ナノゲル調製に使えるカチオン性ラジカル重合開始剤」を開発し,それを用いてカチオン性ナノゲル状の蛍光性温度センサーを合成しました.得られた蛍光性温度センサーは,従来通り,微小の温度変化に対して鋭敏な蛍光応答を示し,カチオン性であることから細胞内に自発的に侵入できる特徴を備えていました.さらにこの蛍光性温度センサーは,細胞毒性を示さず,細胞分裂や分化を全く阻害しないことが分かりました.本成果により,長時間の細胞内温度計測が可能になるほか,開発した新規カチオン性ラジカル重合開始剤を利用することにより,新しい機能性ナノゲルの開発の可能性が広がりました.

 ひとこと
Nature Chemistry エディターリジェクト → Nature Communications エディターリジェクト → JACS エディターリジェクト → Angew. Chem. Int. Ed. 2 vs 0 Minor revisionでアクセプト.久しぶりに難産の論文で,実験の企画をしてから,論文になるまで7年以上かかりました.なぜ,このようなオリジナリティーのある論文を,いとも簡単に専門家でないエディターがリジェクトしてくるのか,未だに納得できませんが,開始剤の合成から細胞実験まで,少し広範囲の内容を詰め込み過ぎて構成がぼやけてしまったのかもしれません.なんとかNature Chemistryに通したくて,色々画策したのですが,それも実りませんでした(でもNatureの本社には潜入しました!).また,簡単に通ると思っていたJACSにもあっけなく蹴られる始末で,これは激流とも言われる時代の変化について行けず,旧式の研究スタイルを取っていたのが原因と思われます.何と言ってもこの仕事は新しいカチオン性ラジカル重合開始剤の開発がキモです.今はばらばらに散っている,自分,東北大の徳山さん,当時助教の岡野君,そして当時研究員の河本さん,の4人が一瞬集ったことで生まれた成果です.東日本大震災に見舞われて,実験が中断したことも,今となっては懐かしい思い出です.