13 光分解しにくい環境応答性蛍光団 詳細
Environment-sensitive fluorophores with benzothiadiazole and benzoselenadiazole structures as candidate components of a fluorescent polymeric thermometer
Seiichi Uchiyama, Kohki Kimura, Chie Gota, Kohki Okabe, Kyoko Kawamoto, Noriko Inada, Toshitada Yoshihara, Seiji Tobita
Chem. Eur. J., 2012, 18, 9552-9563
■ Abstract
An environment-sensitive fluorophore can change its maximum emission wavelength (lambda_em), fluorescence quantum yield (phi_f), and fluorescence lifetime in response to the surrounding environment. We have developed two new intramolecular charge-transfer-type environment-sensitive fluorophores, DBThD-IA and DBSeD-IA, in which the oxygen atom of a well-established 2,1,3-benzoxadiazole environment-sensitive fluorophore, DBD-IA, has been replaced by a sulfur and selenium atom, respectively. DBThD-IA is highly fluorescent in n-hexane (phi_f=0.81, lambda_em=537 nm) with excitation at 449 nm, but is almost nonfluorescent in water (phi_f=0.037, lambda_em=616 nm), similarly to DBD-IA (phi_f=0.91, lambda_em=520 nm in n-hexane; phi_f=0.027, lambda_em=616 nm in water). A similar variation in fluorescence properties was also observed for DBSeD-IA (phi_f=0.24, lambda_em=591 nm in n-hexane; phi_f=0.0046, lambda_em=672 nm in water). An intensive study of the solvent effects on the fluorescence properties of these fluorophores revealed that both the polarity of the environment and hydrogen bonding with solvent molecules accelerate the nonradiative relaxation of the excited fluorophores. Time-resolved optoacoustic and phosphorescence measurements clarified that both intersystem crossing and internal conversion are involved in the nonradiative relaxation processes of DBThD-IA and DBSeD-IA. In addition, DBThD-IA exhibits a 10-fold higher photostability in aqueous solution than the original fluorophore DBD-IA, which allowed us to create a new robust molecular nanogel thermometer for intracellular thermometry.
■ 内容
最近の自分の研究において多用している環境応答性蛍光団であるDBD骨格の酸素原子を,硫黄原子やセレン原子に変えた蛍光団の光化学・光物理特性です.酸素原子を硫黄原子に置換したDBThD骨格は,DBD骨格とほとんど同じ励起波長,蛍光波長,蛍光量子収率,環境応答性を示す一方で,光分解収率のみ0.1~0.2倍程度となることが分かりました.セレン原子に置換したDBSeD骨格は,励起波長,蛍光波長ともにDBD骨格と比較して長波長にシフトし,蛍光量子収率も低下しました.以上の結果より,特に蛍光性温度センサーへの応用に際しては,従来利用しているDBD骨格より,本論文で報告したDBThD骨格の方が望ましいと結論づけました.実験としては,一般的な,吸収スペクトル,蛍光スペクトル,蛍光寿命の測定に加え,リン光スペクトルや光音響信号の測定も行っています.
■ ひとこと
Chem. Eur. J. 2 vs 0のminor revisonでアクセプトでした.この論文は内容過多な面があり,切れのある仕事,とはならなかったのですが,久しぶりにFull paperに取り組むことが出来て充実感は残りました.
そもそもこの研究は2008年に発表した論文(J. Phys. Chem. B)で,ベンゾフラザン骨格と溶媒分子との水素結合部位を決定するために,DBThD骨格やDBSeD骨格を合成したことに端を発しています.簡単な実験によって,ベンゾフラザン骨格の酸素原子は水素結合に関与していないことが分かったのですが,せっかく合成したのだからと当時学生であった郷田さん(2008年修士卒)にDBThD, DBSeD骨格の蛍光特性を調べてもらうことにしました.当初はDBSeD骨格がDBD骨格と比較して長波長の蛍光波長を示すことに注目していたのですが,郷田さんの卒業後,共同研究先の群馬大学で研究を進めてくれた木村君(2012年修士卒)や吉原博士によって,DBThD骨格が光褪色耐性に優れることが分かり,そちらをメインにすることにしました.
Chem. Eur. J. の発行元であるWileyは,二人の審査員が共に上位5%の質にあると判断した投稿論文をVIP論文として印刷するのですが,自分的にはまあまあそこそこと思っていたこの論文があやうくVIP論文になりかけたのにはびっくりしました(一人が上位5%,もう一人がその次の評価でした).ごく簡単にですがAngew. Chem. Int. Ed.をはじめとする姉妹誌でも紹介されたし,自分が思っているより重要な論文なのかもしれません.
それにしてもこの研究に取りかかった5年前頃は,兵糧攻めの如く「学生を内山に接触させない令」が当時のボス(教授)より発令されていて,毎年5人ずつ四年生が入ってくるにもかかわらず,何年も新しい学生を付けられない時期でした.だからそうなったという訳では決してありませんが,最終的に共同研究先である群大所属の木村君の修論のテーマとして形になるとは,なんとも言えない気持ちです.研究の出来ない人が権力を振りかざしても結局研究は止められない,という好例でしょう.共同研究先の飛田研に深く感謝すると共に,無能な政策を取り入れて不毛な戦いを挑んできた元ボスを改めて糾弾しておきます.