(2006.1.21掲載)(2009.7.20更新)(2017.12.10更新)(2019.8.14更新)


 

間違いだらけのフィンランド On paljon virheitä Suomesta

 

 携帯電話のノキアやムーミン,OECD国際教育到達度調査で世界のトップの座を占める国などで知られるフィンランドも言語の特性からか,それとも人的交流の疎遠なためか,不正確な情報や捏造された情報が流れやすい。間違いだらけのフィンランドをご紹介しよう。

このページのもくじ

1.スオメンリンナの意味は「武装解除」でも「平和」でもありません。

2.スロイド(手工科)を最初に学校教育で実践したのはスウェーデン人のオット・サロモンではありません。

3.「東郷ビール」なんてありません。これは日本人が作ったお話です。

4.2重窓のガラスとガラスの間に燃えたろうそくを飾ることはありません。

5.ロバニエミのシンボル,「木こりのローソク橋」は,「サーミの松明をモチーフにした」ものではありません。

6.オッリペッカ・ヘイノネン+佐藤学著 「NHK 未来への提言 オッリペッカ・ヘイノネン『学力世界一』がもたらすもの」 日本放送出版協会 2007年7月25日には勘違いの記述があります。

7.石野裕子著「物語 フィンランドの歴史 −北欧先進国『バルト海の乙女』の800年− 中公新書2456 中央公論新社には間違いの記述があります。

8.竹内 晧著「フィンランドの木造教会 −17,18世紀における箱柱式教会の工法と歴史−」 有限会社リトン には間違いの記述があります。

9.グーグル・マップには沢山の誤記があります。

 

 

 

 

1.スオメンリンナの意味は「武装解除」でも「平和」でもありません。
 「地名にも歴史がある。フィンランドがスウェーデン領だった18世紀にヘルシンキの港の眼前にある六つの島に築かれた要塞は,19世紀にはロシア軍の駐屯地となり,20世紀になってようやくフィンランドに帰属した。要塞は スヴェアボリからヴィアポリへ,ついでスオメンリンナへと名を変えた。スヴェアボリはスウェーデン語で『要塞』を,スオメンリンナはフィンランド語で『武装解除』を意味する。」(出典:ユネスコ世界遺産 「北・中央ヨーロッパ」p.62 スオメンリンナ要塞 講談社)

 でき過ぎた文章だ。まるでフィンランドがロシアから独立し,その時の武装解除にちなんでこの要塞の名を変更したかのように読める。

 また同様に,2006年元旦,17:00〜 NHK総合テレビ「飛行船で巡る世界遺産 −ヨーロッパ6か国 空中散歩−」の中で,前述のようなスオメンリンナの歴史的変遷を述べた後,「スオメンリンナは『平和』の意味である」と断定していた。
 スオメンリンナの解釈に「武装解除」と「平和」の2通りあることになる。しかしながら実は, 「スオメンリンナ」の本当の意味は,こちらです。

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2.スロイドを最初に学校教育で実践したのはスウェーデン人のオット・サロモンではありません。

 現在日本の小学校で教授されている「図画工作」のルーツを遡ると1890(明治23)年,東京高等師範学校教授の後藤牧太がスウェーデン,ネースから移入した「手工科」に辿りつく。当時「スロイド」(スウェーデン語,フィンランド語ではカシテュエ käsityö )という名で全国に広まった。このスロイドを職業教育としてではなく,普通教育として公立小学校に定着させたのはスウェーデン人,オット・サロモンであると全国的に流布され,一般化されている。

 しかしこれも調べてみれば間違えで,フィンランド人,ウノ・シュグネウスがフィンランドの公立小学校で導入したのが世界最初であり,その頃同時期に職業学校を経営していたスウェーデン人,オット・サロモンは,フィンランドに赴いてシュグネウスから手工教育を直伝されたのが真相である。サロモンはその後シュグネウスの方法を発展的に改良・改善し,これで世界に知れ渡たった。後藤牧太はシュグネウスの孫弟子だったのである。サロモンに苦汁を飲まされたシュグネウスに代わり,真実を述べる その詳細は,こちらです。

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3.「東郷ビール」なんてありません。これは日本人が作ったお話です。
 捏造の最高傑作は,「東郷ビール」であろう。「日本がロシアのバルチック艦隊を破ったという日本海海戦のニュースは瞬時に世界中に広まった。特にそれまでロシアに押さえつけられていた国々では大変な評判になった。フィンランドでは「東郷ビール」という名前のビールが売り出された。この後,それらの国々で独立運動が急速に高まっていった。」
 よくできた話であるが,調べてみれば「東郷ビール」というビールはない。東郷平八郎や山本五十六,ネルソン提督,また東郷の敵であるバルチック艦隊司令長官・ロジェストヴェンスキーら24人の肖像画をラベルにしたビールは実際売られていたが,それも1970(昭和45)年から1992(平成4)年の22年間で,フィンランドの独立とは何の縁もない。
その詳細は,こちらです。

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4.2重窓のガラスとガラスの間にろうそくを飾ることはありません。

 「クリスマスが近づくとフィンランドの家々では,窓にろうそくをともします。  フィンランドの家は寒さ対策のため普通2重窓になっているが,この2重窓のガラスの間にろうそくを入れてともし,クリスマスを迎える準備をします。(カンテレのクリスマスコンサートにて)」

 心温まる,良くできた話だが科学的にあり得ない間違いです。 その詳細は,こちらです。

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5.ロバニエミのシンボル,「木こりのローソク橋」は,「サーミの松明をモチーフにした」ものではありません。

 暗い森の中で灯る火はまるでローソクが灯っているように見え,ロマンチックなイメージをかき立てますが,これは「サーミの松明」をイメージしたものではありません。冷え切った身体を温め,コーヒーや食事を温め,光を提供する森林労働者や野戦兵の命の火です。サーミはもともと松明を使う文化を持っていませんし,チェーンソーが普及したのは現代以後のことです。 その詳細は,こちらです。

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6.日本放送出版協会発行 オッリペッカ・ヘイノネン+佐藤学著 「NHK 未来への提言 オッリペッカ・ヘイノネン『学力世界一』がもたらすもの」 2007年7月25日 p.66 のコラム4には勘違いの記述があります。

 「フィンランドでは子どもの居住地から5キロ以内に学校を建設することを法律で定めている」と言い切っていますがそんなことをしたら森中が学校だらけになり,それでなくても人口密度の低い北部地方自治体の財政は圧迫され,維持できなくなります。 その詳細は,こちらです。

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7.石野裕子著「物語 フィンランドの歴史」 中公新書2456 中央公論新社刊には決定的間違いや勘違いが沢山あります。

その詳細は,こちらです。

 大学の教員が書くものはそれなりに権威を持ち,一般の人から見れば「間違いではない」となり,正しいものとして独り歩き始めます。もう少し慎重に願いたいものです。

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8.竹内 晧(タケウチ アキラ)氏著「フィンランドの木造教会 −17,18世紀における箱柱式教会の工法と歴史−」2010年3月28日 有限会社リトン には,沢山の誤りがあります。

 この著書は氏の博士号請求論文(東京大学,博士(工学))となったものを下敷きに書かれた本であるが,東京大学は,6人もの審査員を置きながらこれらの間違いを看過したのは,東大も地に落ちたものです。

その詳細は,こちらです。

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9.グーグル・マップには沢山の誤記があります。フィンランド語を英語読みして悦に入り,「問題の報告」をしても聞き入れる耳を待たないGoogle社の高慢な鼻っぱしを砕いてやりたい。 その詳細は,こちらです。

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