(2017.12.29掲載)


 

竹内 晧氏著書の間違い

 

 竹内 晧(タケウチ アキラ)氏著「フィンランドの木造教会 −17,18世紀における箱柱式教会の工法と歴史−」2010年3月28日 有限会社リトン には,沢山の誤りがあります。

 この著書は氏の博士号請求論文(東京大学,博士(工学))となったものを下敷きに書かれた本であるが,東京大学は,6人もの審査員を置きながらこれらの間違いを看過したのは,近年の論文の質の低下(執筆者も審査員も)と通じたところがあるのではないでしょうか。

 詳しく見ていきましょう。

 

11p.  16行目 ヴィープリ(フィンランドの西端の港町)

 ヴィープリはこの当時はフィンランド領内にあり,フィンランド東端の港町です。
 フィンランド語でViipuriと書き,1939年の冬戦争後ソ連に割譲され,現在はロシア領です。スウェーデン語ではViborg(発音:ヴィーボリ)と,英語ではVyborgと表記する。サンクトペテルブルクから北西に約130kmの距離にある。

 

16p.  8行目 炉を用いて煙で部屋を暖める

 部屋を暖めるのは,あくまでも炉・窯です。下の《参考》をご覧ください。

 寒くなり始めた夏の終わりに大量の薪を一日中燃やし続け,炉・窯(耐火レンガで出来ています)を暖め,レンガに蓄熱させます。この時は,部屋が酸欠になりますのでドアを開いておきます。(夏の間も料理やパン焼きで炉・窯を使っていますので一年中火が絶える時はありません。)一度温まればその後レンガから放熱され,食事の用意で朝晩少量の薪を燃やして熱を追加します。

 長谷川清之氏著「フィンランドの木造民家」1987 井上書院 p.103 では,

「石を熱することによって周りの空気を暖める輻射熱による暖房が主となる」

とあるように,部屋は温まった炉・窯から放射される輻射熱で,寒い冬でもシャツ一枚で快適に生活することができます。これは煙道のない家屋でも煙道付きの家屋でも同じです。

 この二人は友人同士ですが,竹内氏は友人の本も読まずに,理解していないことになります。

 サヴトゥパ(煙家屋)の炉・窯には煙道がありません。そのためサヴトゥパの煙は,(暖かいため)天井近くに滞留し,人の背丈ほどに煙が充満して来たら,腰を屈めて歩いたそうです。そしてもうこれ以上我慢できないという限界が来たら,天井の開口蓋から洞丸太の木管を通して煙を排出すると同時に,窓の高さにある換気口を開けて一酸化炭素中毒を予防するため換気します。
 この時冷たい外気が入ってきますので一旦室温は下がりますが,換気口を閉じればやがて窯の輻射熱によって部屋は暖められ,半袖で過ごせるほどの暖かさが翌朝まで続いたということです。

 

16p.  29行目 軒高も低く抑えられている

 Raija Järvelä-Hynynen SEURASAARI Kuvakirja ulkomuseosta p.8の31行目には,次のような記述があります。

Huoneen huomattava korkeus onkin tyypillinen savutuvan tunnusmerkki.
訳:部屋の驚くべき高さは,典型的なサヴ・トゥパを示唆する証拠でもある。

 排出する時間的間隔を長くするために天井部分を高く取って,煙の収容量を大きくする訳です。だから軒高も高くなるのです。

 

134p. 図版出典 8行目 図d サヴトゥパ俯瞰図の出典:Teppo Korhonen

 Teppo Korhonenから引用したことになっていますが,この図はNiilo Valonen,Osmo Vuoristo著 SUOMEN KANSANRAKENNUKSET 1994 Museovirasto p.97 にある Annikki Vormala 女史が描いた図(1975)です。

 

134p. 図版出典 10行目 図e

 出典は,Strzygowski, J.: Early church art in Northern Europe となっていますから教会芸術の本ではないでしょうか。教会芸術の本にこの図が掲載されているとは考えにくいです。そして図e(p.17にあり)はサヴトゥパではありません。
 その証拠に炉・窯の上にレンガの煙道が直立して屋根から突き出ており,煙道付き炉・窯であることが分かります。またサヴトゥパのように煙をため込む必要もないので天井も低く作られています。ひと目見ただけで分かる簡単な図を間違えるなんて信じられません。

 

 

《参 考》

 冬,マイナス30度にもなる極寒とほぼ一年中暖房の途切れることはないフィンランドで生活するには,炉,窯などの暖房器具と建物の構造は切っても切れない関係にあります。それらを解説したページもご参照ください。

拙稿「フィンランドにおける木造住居の発達」

拙稿「暖房・炊事器具の発達」

拙稿「家屋と間取りの発達」