軌跡~-_科学と旅_-~

小中学生を対象としたロボット競技会と総合理科教育

A Robot Contest for Children and Comprehensive Science Education



競技内容

(a) フィールド

 ロボット競技は,周囲を高さ10cm程の壁に囲まれた一畳程のフィールド内で行われる.このフィールド上にほぼ同じ広さの「フィールドマット」が敷かれ,その上に後述のミッションを構成する各種の障害物(Mission Models)が設置される.これらの障害物もレゴブロックを用いて組み立てられる.フィールドの一角には40cm平方(実際には,スタート時のロボットの高さも40cm以下に制限されている)のベースがあり,この部分が,ロボットのスタート位置となる.フィールドの概観を図-4に示す.同図の右手前にベースがある.競技会では,図-5に示すように,このフィールド2面を点対称の関係となるように並べ,2チームの対戦形式で行う.

(b) ミッション

 競技では,9つのミッションが設定される.それらは,所定の箇所を押したり引いたり,物体を移動したり,回収したりするものであり,その遂行により得点が与えられる.得点は,ミッションの難易度に応じて設定されており,全てのミッションを完遂すると400点となる.以下に,FLL2006におけるミッションについて説明するが,その年のリサーチ・プロジェクトのテーマ(FLL2006では"Nano Quest")にちなんだ内容となっている.

■個々の原子操作 (Individual Atom Manipulation)
 揺れる台の上に,背の高い白い原子と背の低い赤い原子とが,各8個交互に並んでいる.このうち,3個以上の白い原子を台から落とすものである.ただし,赤い原子を落とすと,無得点となる.(図-6

■におい (Smell)
 におい分子(小物)2個をある場所から指定の場所に移動するものである.もとの場所から出すだけでも,ある程度の得点が与えられる.(図-7) 図の奥にあるピザの皿から手前にある顔まで移動するが,一旦ベースに持ち帰ってもよい.

■耐染みの織物 (Stain-Resistant Fabric)
 黄色い傾斜台に入っている8個の不純物(小片)を落とし,下の籠に入れるものである.籠は,ベースから運ぶ必要があり,指定の位置に置かねばならない.傾斜台を空にするだけでも,ある程度の得点が与えられる.(図-8) 図では籠が見えていないが,傾斜の右側にカバーで覆われている.

■原子間力顕微鏡 (Atomic Force Microscopy)
 磁石で接続されたバーを台から切り離すものである.(図-9) 図は切り離された直後の状態を表す.

■自己組織化 (Self-Assembly)
 障害物の端にあるバーを押すものである.(図-10) 図の奥の方に見える下向きのバーを向こう側から押している.

■賢い薬 (Smart Medicine)
 バッキーボールを骨まで運び,所定の場所に落とすものである.(図-11) 図はちょうど落とし終えた状態を表し,左側にボールが見える.

■ナノチューブの強さ (Nanotube Strength)
 トラックを押してリフトに載せ,底部のバーを押してリフトを持ち上げるものである.(図-12) 図はリフトを持ち上げる直前の状態を表し,バーはロボットの下の位置にある.

■分子モーター (Molecular Motor)
 ATP分子(小物)を障害物まで運び,所定の枠内に落とすものである.(図-13) 図は,左側の黒枠の中に落とそうとしている様子を表す.

■スペースエレベーター (Space Elevator)
 図-5に示すように,2つの競技フィールドの中心に配置されたエレベーターの下部の足を両チーム側から押すことにより,人が乗っている籠を降ろす(反対側の籠を揚げる)ものである.したがって,このミッションは,対戦相手も遂行しないと得点とはならない.そこで,一方のチームのみが何らかの手段により強制的に籠を降ろす(揚げる)ことも許容されている.(図-14) 図は足を押した状態を表すが,同時に,右側のアームにより強制的に手前の籠を揚げようとしている.

(c) ロボットの操作

 各ミッションの遂行では,ベースからロボットをスタートさせ,障害物のところまで走行した後,所定の操作を行い,ベースに戻るようにする.その後,次のミッションのためにアタッチメントを交換し,次のプログラム番号を選択し,再びスタートさせる.(図-15) こうして,2分30秒の制限時間内でのミッションの遂行により獲得する得点を競う.なお,ロボットを操作できるのはベースの中だけであり,トラブルのためにロボットを回収する等,その他の場所で手を触れた場合には,ペナルティ(減点)が課せられる.

 ここで,ミッション数9に対し,ロボットのコントローラ(RCXタイプの場合)にダウンロードできるプログラム数は5までしかない.したがって,この差を吸収する工夫が必要となる.たとえば,同一のプログラムで複数のミッションを遂行できるようにアタッチメント等を製作する,一度に複数ミッションを遂行する,スタート時にタッチセンサを押しているか否かを読み取り,その値に応じて対応する処理を行うようプログラム中で分岐する,等の工夫を行う.

 プログラム上の制約への対策のみでなく,できるだけ短時間で多くのミッションを遂行するためにも,ミッションの遂行順序が重要なポイントとなる.また,一度に複数のミッションを遂行したり,交換時間短縮のためにアタッチメントを共通化したりすることも重要である.たとえば,図-10に示す"自己組織化"のミッションは,奥の方に少しだけ見えている"分子モーター"のミッション(図-13参照)に引き続いて遂行している.

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図-4   フィールドの概観(FLL2006)
図-4  フィールドの概観(FLL2006)

図-5  競技会でのフィールド配置
図-5  競技会でのフィールド配置

図-6  「個々の原子操作」ミッション
図-6  「個々の原子操作」ミッション

図-7  「におい」ミッション
図-7  「におい」ミッション

図-8  「耐染みの織物」ミッション
図-8  「耐染みの織物」ミッション

図-9  「原子間力顕微鏡」ミッション
図-9  「原子間力顕微鏡」ミッション

図-10  「自己組織化」ミッション
図-10  「自己組織化」ミッション

図-11  「賢い薬」ミッション
図-11  「賢い薬」ミッション

図-12  「ナノチューブの強さ」ミッション
図-12  「ナノチューブの強さ」ミッション

図-13  「分子モータ」ミッション
図-13  「分子モータ」ミッション

図-14  「スペースエレベータ」ミッション
図-14  「スペースエレベータ」ミッション

図-15  ベースにおけるロボット操作
図-15  ベースにおけるロボット操作