その部屋は中世の貴族の邸宅に有りがちな書斎のような造りになっていた。部屋の真ん中に大きな机があって、向かい合って座れるように、部屋の奥側と入り口側双方に椅子が備え付けられていた。壁には大きなポスターが貼られていて、そこには見たこともない言語で十行ほどの文章が書かれていて、それについて、あえて女性に尋ねてはみなかったが、そこにはおそらくこの審問の世界で生活するための作法や規則が書かれているのだろうと推測した。内容を知ったところで、私にはマイナスにしかならないようだった。ただでさえ不慣れなこの世界で、この上、無駄口を叩くなとか、部屋に入るときには敬礼をせよなどと言われたらたまらないので私は黙っていた。大きな黒檀の本棚があって、そこにも様々な惑星から取り寄せてきたと思われる言語不明の蔵書が並べられていた。私はそれについても質問を避けておいた。どうもこの世界は主という特別な存在によって創られていて、内部の詳細について、この女性に聞いてみたところで確かな返事は得られないようだった。
「さあ、お座り下さいな」
温かい声でそう言われたので、私は椅子にゆっくりと腰をかけたが、それと同時に、机の上に大きな、そう、直径50pもありそうな水晶玉が乗っているのを見つけた。そこにはこの館の外の景色が鮮明に映し出されていた。
「なるほど、これを見て、私がこの世界に来たことを知られたわけですね」
「それがなくても、私に備わった能力だけで、侵入者の存在を感じ取ることは出来るんですよ。ただ、数万年に一度のことですのでね、やはり、私以外の魂の来訪というものを、この目でしっかりと確認しておきたいと思いまして」
女性は半ば強がるようにそう言った。無機質な魂と言えども、ある程度、自分の力を誇示したいという感情は持ち合わせているらしい。
「少し、無駄なことに時間を使ってしまいましたかね」
女性はそんなことを言い出した。
「私の話を聞くという程度の任務で、あまりぐずついていると、創造主とやらから、警告のようなものが来るのですか?」
言葉の意図がつかめなかったので、そのように聞き返してみることにした。
「いえいえ、この世界で起こる現象については、すべて私に任せられておりますので、この世界の中であれば、どのような経過を経て死後の魂と意志の疎通を果たそうとも、それは私の裁量に委ねられております。審問に成功とか失敗とかいう概念はありませんのでね。ここへ訪れた魂の行動、それはこの世界に降り立った瞬間からの行動ですが、それはすべて後で書面にまとめられまして、主の元にお届けするようになっておりますのでね」
私は首をせわしなく動かして、何度か部屋を見回した。
右手の壁の側にある棚の上には金や銀や色とりどりの宝石で造られた印鑑がいくつも並べられていた。あれはいつ、どのような局面で使うのだろうか。
「この部屋だけは、人間の世界と少しも違わないようです。なるほど、この場所で私を落ち着かせてから、人間界での話を聞こうというのですね」
私はこの立派な部屋の威厳に、少しも心を乱されていないということを伝えるためにそんなことを呟いてみた。
「死後の存在である、あなたの記憶がいまだに残されているのは、すべてこの世界での審問に、滞りなく答えられるようにとの配慮です。くれぐれもそれを忘れないようにして下さいね」
女性は少し急いでいるのか、私の質問には答えずにそう言った。口調は穏やかなままだった。もっとも、この女性の形をした魂には、怒りや驚きといった感情がインプットされているとは思えなかった。私がこれまで発してきた言葉に対して、驚きや悲しみや好みや喜びや恥ずかしさといった、人間らしい感情を見せたことは一度もなかった。人間の言葉で言えば、まるで面白みのない反応しか出来ない魂だった。
「先ほどのイギリスの労働者のように、私の口もいずれ嘘をつくと?」
「そう思いたくはないですが、あなたも彼と同じ地球人ということで、仲間意識といいますか、まあ、あまり使い慣れていない言葉ですがね、そういうくだらない感情を持ち出されて、『よし、どうせ死後の世界なんだ。自分もこの世界でいい加減なことをしてやろう』などと思われてしまいますと、せっかくあなたの魂をここへ運んできて下さった主への冒とくにもなりますのでね」
「私は彼のような複雑な人間ではありませんよ。聞かれたことには正直に答えます」
「それなら、いいのですが…。まあ、主も含めまして私どもは人間の心を読むことも出来ますから、あなたが嘘を交えたとしてもたちどころにわかるのですが、なぜ、これほどまでに私が嘘を嫌うかと申しますと、時間のことなのです」
「この世界にも時間の概念があるのですか? 魂がここに滞在できる時間が決められているのですか?」
「いえ、いつまでいていただいても結構ですが、問題は記憶なのです。主の配慮によって、あなたの記憶を人間の時のままにしてありますが、あなたの肉体はすでに消え去っておりますから、記憶をそのままで維持しておける期間にもやはり限界がありまして、そう長い時間は維持していられないのです。もう少し時間が経ちますと、今ははっきりと思い出せるあなたの記憶も、少しずつ失われていき、本当に子供の頃体験した強烈な出来事や妻や恋人、父母の名前程度しか思い出せなくなるでしょう。さらに時間が経ちますと、あなたの記憶は完全に失われまして、魂そのものがこの世界から離脱していくことになります」
「記憶が消えてしまうと、私は感情も無くなってしまいますから、それを良いことにあなたたちがどんな行動に及んだとしても、それを止めることも非難することもできず、ただ、何の希望も受け入れられないまま、次の世界へ送られてしまうか、あるいは最悪の場合、約束は反古にされてこのままこの世から抹消されてしまうのを待つだけ、かもしれませんね」
「そこまで悪い方向に考えなくても大丈夫ですよ。記憶が消えてしまった場合は、次の人生の記憶を差し替えで入れて、自動的に次の世界へと送られることになるでしょう。ただ、この世界で審問するという、この世界の目的が果たせなくなってしまいますのでね。ここからはなるべく、嘘は交えないで、正直に答えていって下さいね」
「さっきまでは、すでに自分が死んでいるという現実が受け入れられずに戸惑ってしまいましたが、ようやく、あきらめがついたようです。今では私も、前世のことはすっかりあきらめましたよ」
「そろそろ、魂の状態でいるという、今の感覚にも慣れていただきましたか?」
「ええ、もう大丈夫です。しかし、ここに実際に来てみると、不思議な感じがするものです。私は今、人間の感情と、中間の世界で生きる魂の気持ちという二つを兼ね備えているわけです。思えば、人間界にも死という概念がありましてね。人間たちは死ぬということを、ほぼ毎日のように、主に夜眠る直前ですがね、それを頭に思い浮かべまして、いつか必ず来るその現実に脅えながら暮らしているわけです。今日は身体の調子は良かったが、明日は心臓発作を起こして倒れるかもとか、道を歩いていて、運悪く衝突事故に巻き込まれるかもとか、ですね」
「それは、魂が、自分もいつか必ず消滅するということを心の奥底で認識していて、今の世界、まあ、あなたで言えば地球ですか、そこになるべく長く留まりたいと日々念じているということですか?」
「ええ、そうなんです。人間の心から死の影を消し去ることは出来ません。しかし、毎日死を思いながら暮らすというのも苦痛ですからね。事あるごとにそれを思い出していたら、仕事も遊びも面白くありません。そこで、人間界にはそれを和らげるための、様々な組織や制度があるんです。保険会社や宗教といったものですけどね。いや、私はそれだって馬鹿馬鹿しいと思っていましたよ。だって、ちゃんと思い通りに身体が動くうちから、死を思ってたくさんの奉仕をして、次の世界での栄光のことまで考えながら暮らすなんてね。コインを入れれば即座に回りだすメリーゴーランドとは違うんですよ。目に見えない、あの世にある場所に対して、いくら投資したところで、自分に対して確実な成果が返ってくるかはわからないのに、目に見えないものに祈りを捧げるなんて私には出来ませんでしたね。中にはね、自分のお金、ああ、あなたに言ってもわからないでしょうね。自分の人生の価値を決める基準、これを財産と言うのですが、これを寄進してまで、あの世での、つまりこの世界での栄光を勝ち取ろうなんていう考えの人までいまして、しかも、人間の世界ではそういう人の方が崇められる傾向にありました。私はそういう結果を伴わない抽象的な行為は一切せずに、自然のままに人生を終えたつもりです」
私はそこで一度言葉を止めて、あの世の人間に出会ったら聞いてみたかったことについて質問をすることにした。
「それで、実際はどうなんです? やはり、人間界にいた頃に善行を重ねていた人の方が死後の世界では良い目に会えるんですか? それとも、善人や悪人に限らず、役割を終えたすべての魂は同じように扱われるのですか?」
「それは魂の価値についての質問ですか? あなたもこの中間の世界に来られて感じていらっしゃるように、魂には一切の差別はありません。中間の世界などと呼ばれますが、実際に暮らしていける世界ではありませんでね。次の人生への通過点でしかありません。損も得も、その両方の概念がありません。ただ、見送られるだけです」
女性はマニュアルでも読み上げるように硬い口調でそう答えた。
「すると、やはり、英雄だろうが、貧民だろうが、善行者だろうが、不心得者だろうが、死んでしまえばみんな同じように扱われるということですね?」
「ええ、その通りです。そんなことは地上の世界でも周知だと思っていましたけどね。英雄というものが地上でどれだけ偉いか知りませんが、ここではどの魂もまるでちっぽけな存在ですよ。何の権限も持っておりませんからね。自分は英雄だった、政治家だったと偉ぶられても騒がれても、何の特権もお渡し出来ません」
「なるほど、やはりここは無機質ですね。実は、人間界では魂の世界に対する認識は全くないんです。つまり、どういうことか、人間には死後の世界のことを考えられないようにしてあるんですな。人間の思考が考えられる限界というのは、人が死ぬまで、坊さんが枕元まで来てお経を唱え始めるまで、どの人間に対してもそこまででしか評価出来ないのです。あの世まで新聞記者に追いかけられた人はかつてありませんからね。ですから、人間どもは口を揃えて、『この世では善行を施さねばいけない。さもないと、あの世で報いを受ける』とか『あいつはろくでもない人間だ。あんなやつは死後の世界で地獄に落とされるに決まっている』などという文句が横行していましてね。まあ、一種の負け惜しみにも取れるんですが、みんな想像力を働かせて、この死後の世界というものを神格化することで、それを抽象的な概念に変えて、自分の今が少しでも優位になるように使っておるわけです。死後についての自分の考えを本にして大儲けを企む人間まで後を断ちませんでね」
「そうでしたか。人間界に降りてしまいますと、魂の世界での記憶は真っ白に消えてしまいますのでね。そこで、失った記憶を取り戻すべく、人間である皆さんは様々な想像を働かせて死後の世界を良いものとして創りあげ、自分の肉体が消滅してしまうという、精神的な苦痛を和らげようとしてらっしゃるわけですね。ですが、先ほども申し上げました通り、魂というものは無数の世界に無数に存在しまして、その一つひとつが地上でどのような善行を施そうと、あるいは悪行を働こうと、それをいちいち主の方では称賛したり裁いたりとは管理しきれませんのでね。あなたもその辺りはすでに理解されていると思いますが、ああ、無限という数はいかんともしがたいものです。人間の方々は抽象的にその意味を理解しているだけでしょうが、我々天界の存在にとっても、その壮大な意味をとても把握しきれないのですよ。ですから、ここを訪れる各々の魂が、それぞれ口を開かれて、地上で何人を救った、あるいは、残酷にも何人を殺したなどと申されましても、ここでは星が一度瞬くたびに無数の魂が人間界に降り立ち、また、星が次に瞬く時には同じほどの数の魂が人間界から戻って来られますのでね。そこには、一切の優劣の概念はありませんね。ここから見れば、行き過ぎていく魂たちは、みんなにこやかに笑っているようにも、また、さめざめと泣いているようにも見えます。様々な表情の魂が通り過ぎて行かれますが、ここにおりまして、我々の目からその光景を見ますと、絶え間無く降り注ぐ雪景色のようでして、それはもはや一つの絵画のような景色です。ですから、この中間の世界では魂に存在意義を見出だすことは出来ませんね。魂の価値に優劣を付けたいのであれば、それは人間界の中だけでやって頂きたいのです」
「そう、その通りなんです。確かにこの中間の世界ではどの魂も一緒です。強い者も弱い者もいない。みんな、死後は同じような態度を取っていることでしょう。身体という強固な概念を失ったわけですからね。しかし、人間の世界では生まれた境遇、才能、貧富などによって、生命の価値に大きな差があるのです。まかり間違えて、いったん、貧困の世界に生まれ落ちてしまいますと、そこからはい上がるのは至難の技です。言い換えますと、ほぼすべての人間が貧困に生まれ、不運を背負い続けて生き、自分のものにした女のささやかなる微笑みの中に、ようやくちっぽけな幸せを見出だし、いや、いずれはそれにすら満足出来なくなり、貧困のままに苦労を繰り返して死ぬということが地球上ではまさに延々と繰り返されているのです。人間の歴史とは、まさに不幸の歴史です」
「ふむ、それはあなたが生きていた地球という世界が、理不尽だったというわけですね?」
女性は私の説明が半ば納得出来ないというように、そっけなくそう聞き返してきた。
「いえ、人間の世界はいつも同じです。どの星で生まれようがやることは一緒です。つまり、搾取と殺戮。そして、力を持つ者による弱い者いじめ。そんな情けない考え方が、何百年の時を経ても成長をしないのです。時代を巡っても次々と必然的に起こる、富を巡る争いは、結局のところ、貧富の差を拡げるだけなんです。生み出された魂は、互いに認め合うことをせず、互いの欠点を見つけては憎み合い、生命のある限り永遠に戦いを続けるでしょう。まあ、私もここまできちんとしたことを言えるようになったのは死んでからです。生きている間は支配者に操られるがまま、筋違いの理由で他の国に生きる人間を妬んだり、恨んだりする凡庸な人間でした。しかし、死んでから気がついたのです。そうか、魂が地上を離れ、自分の存在が星の世界に紛れてしまえば、人間とはなんてちっぽけなものなんだ。一度死んでしまえば、元の純粋無垢な魂へと戻ってしまえば、英雄だろうが凡人だろうが同じだ。死を間際にして、大勢の人が自分のために流した涙も、どうせすぐ地面に染み込んで忘れられてしまう。どんなに悲惨な死も、時に流されて夜空に輝く水晶のような一粒の涙に変わってしまう。ああ、俺は土だ、砂だ、水だ、石だ、虹だ、涙だ、そして、ほんの一瞬の星の光だ」

話しているうちに、思わず感慨にふけってしまった。そのうちに我に返り、一つのことを思い出して女性に話しかけた。
「そういえば、この屋敷の外に一匹の黒い猫がいまして、何をする気もなさそうに、のんびりと歩いていたのですが、あれも一つの魂ですか。あなたが飼っているんですか?」
「猫…、猫というのは聞き慣れませんね。黒いといいますと、四つ足で歩く生物のことですか? ああ、あれはロペッタといいまして、そうですか、地球にもあれに似たような生物がいるのですか。あれは魂ではなく、魂の型紙だけで動き回る存在なんです。存在するのは外観だけなのです。中身は入ってません。この世界で、あれだけは私が想像したものですね。四本足で歩く生物を形式的にロペッタと呼んでいるんですが、あれはこの世界に新たな侵入者があったときに、その人をここまで案内する役目を持っているんです」
「ロペッタというのですか。四本足で歩いて、言葉を話さず、人間によくなつくのであれば猫と変わりませんね。地球では黒猫は魔性の存在なんです。人に呪いをかけたり、主人の不幸を他人になすりつけたりするのです。他の動物とは異なる特別な存在です。あなたの好みであのような色と形に創ったのですか?」
もしかしたら、死後の世界にも、黒い猫から美的なセンスを感じ取る人がいるのかと思い、私はそう尋ねた。
「私は人間のような感情を持ちませんから、好みというものはありませんが、この世界の暗い色に馴染むように創ってみました。もちろん、感情を持たせることも、話すようにも出来るのですが、この世界は私一人の住家です。どんな印象的な出来事も私だけのものです。ですから、他の生物との意志の疎通は必要ないと考え、あのような状態にしてあります」
「では、あのロペッタというもの以外はすべて創造主が作ったのですか? この館も? 庭に飾られていたバラの花も? 空に光る星々も?」
「その通りです。ここは主が必要に応じて創られる、無数の箱庭のうちの一つです。この館も、その周りの風景のすべてが主がデザインされました。もちろん、この私という存在も主が考えられて、お創りになられたものの一つですね」
「では、結局のところ、あなたとは何者です?」
私は身を乗り出して、唐突にそう尋ねてみた。ここまで来たからには、記憶のすべてを消されて次の世界へ送り込まれる前に、せめて、この女性の正体だけでも突き止めたいと思った。
「私は主によって選び出された特別な魂から直に事情を聞くために作成された魂です。主は大変に忙しい方ですから、主の代わりに死後の人間の相手をする存在と言った方が良いでしょうかね」
「では、あなたを創った、この世界の主人にあたる人物は何者ですか? 彼はいつどのように生まれて、どこに住んでいて、どうやって一人で成長して、その無数の世界とやらを創ろうと考えたのですか?」
こんな無作法な質問をしても、女性の顔は赤くなったりしないし、目を尖らせたりしないし、感情を乱すようなところもなかった。彼女はどんな質問にも声色を変えずに淡々と答えてくれた。
「あなたも主によって創りだされた一つの魂に過ぎないのに、どうして、それほど主の正体や主のなさることに興味を持たれるのかはわかりませんが、我々一介の魂には、主がどのような生命体なのかを推測できるような知性は備わっておりません。それは地上に住む人間たちも、この世界の魂も同じことです。私にそれを聞かれても何もわかりません」
私はその言葉を素直には信じなかった。私のようなちっぽけな魂に死後の世界の真実を簡単に語るわけはないし、この女が嘘をついていて、主人から尋ねられたらそのように答えろと教え込まれているのかもしれなかった。
「しかし、少なくとも、あなたは地球や他の天体に生きる生物よりは、その主という人物に近いところにいるはずですよ。何しろ、我々地球の生物は生きる目的も与えられないまま、さあ、がんばって生きろと地上に放り出されて、自分で生きる意味を探し、自分の使命を探し、居場所を探し、結局のところ、それがわからないままに生き絶えてしまう者さえ無数にいることでしょう。それでも、そんな不幸な生物が同じ場所に蟻のように、塵のようにいる中で、人間たちは懸命に人生を送っているのですよ。ところが、あなたには一応の使命が備わっている。ここを訪れる魂から事情を聞くという使命がね。いわば我々より後の世界を統べる魂です。生まれてからずっと独りで生きているというのも特異なことです。それは、私とあなたが同列ではなく、あなたが主により近い場所に生きていることの証明ではないですか?」
「いえ、それはあなたの思い違いです。私とあなたは役割や生きている場所こそ違いますが、元々の型紙は同じです。私もあなたも主の意志によって同じように生まれたのです。それぞれの魂には存在する理由があります。あなたにも主から授けられた目的があったはずです。生きている間にそれを果たせたかどうかはわかりませんけどね」
このような特別な権限を与えられた魂と、凡庸な人間であった私のような存在が、同列だとはとても思えなかった。ここでようやく気づいたのだが、彼女の話が脳の中心にたどり着くまでに時間がかかるようで、人間界にいた時よりも他人の話を理解するのに時間がかかるようだ。






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