軌跡~-_科学と旅_-~

プログラムオフィサー制度の現状

The Story and Present State of Program Officer System


競争的資金とPO制度の状況


 日本におけるPO制度の導入は欧米に倣ったものである.そこで,まず,米国および英国における競争的資金とPO制度について簡単に紹介した後,日本の制度について説明する.なお,特に参照を明示しないが,各国の情報としては,総合科学技術会議(CSTP)のWebサイトに掲載されている資料や科学技術白書(平成20年版)[2],科学技術振興調整費成果報告書[3],JSTのプログラムオフィサーセミナーのWebサイトに掲載されている資料に基づくものも多い.


《 欧米の状況 》

(1)米国における競争的資金とPO

 米国政府支出の研究開発投資額は,少し古いが2001年度で850億ドル(当時の為替レートで換算すると約11兆円)であり,そのうち競争的資金は約300億ドル(3.9兆円,35.3%)である.この投資額は現在,1割ほど増加している.

 競争的資金の主な種別としては,Grant,Cooperative Agreement,Contractがある.Grantは提案型の研究を幅広く助成するためのものであり,日本の科学研究費補助金に相当する.Cooperative Agreementは資金配分機関(FA)立案の研究を他の研究機関と共同で行うためのものである.Contractは指定の研究開発を委託するものであり,日本の科学技術振興調整費に相当する.

 資金の配分は,NSF(National Science Foundation)やNIH(National Institutes of Health),DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency),NASA(National Aeronautics and Space Administration),DoE(Department of Energy)等,いくつかの独立した機関が担っている.各FAでは,多数のPOが公募審査等にかかわる業務を行っている.なお,終了した研究の事後評価は,大きなプロジェクトを除き,実施されていない.以下では,代表的なFAとして,NSFとNIHを取り上げ,それぞれの特徴を簡単に説明する.


◇NSF

 NSFはライフサイエンス以外の基礎研究を主に担当する.約700名のPO・PDが配置されているが,約半数は終身雇用ではなく,“Rotators”と呼ばれる大学や研究機関,企業等からの派遣である.Rotatorsも,2〜3年任期で大学から出向してPOを務める教授(常勤)や非常勤の者等,多様である.いずれも,担当分野の博士号を取得しているか同等の研究経験を有する.研究資金配分額は約4,000億円であり,このうちGrantが75%程度を占めるが,教育にも15%程度を支出している.

 NSFのPO(“Program Director”と称する)は,公募プログラムの設計(必要性・目的,所要予算額,期間等の設定)を行い,NSFの承認を経て公募を開始する.提案(申請)に対しては,Peer Review(メールレビュー,パネル審査,あるいはその両方)により審査を行い,その結果を踏まえて自ら決定した採択案を担当のDivision Directorに勧告し,承認を得る.POはこれらの公募・審査業務以外にも,研究進捗管理,研究コミュニティとの交流を行う.


◇NIH

 ライフサイエンスを担当するNIHは,約30の研究所やセンタ(Institutes or Centers (IC))から成る.PO・PDは全体で約1,100名が配置され,そのほとんどが終身雇用の常勤である.また,いずれも博士号を取得しているか同等の研究経験を有する.研究資金配分額は約2兆4,000億円であり,このうちGrantが約8割を占める.

 NIHにおけるGrantの公募審査は2段階で行われる.まず,提案書はCenter of Scientific Review(CSR)に集約され,そこに配置されたScientific Review Administrator(SRA)がPeer Reviewによる一次審査を取り仕切る.SRAはPOの一種であり,提案の内容に応じたStudy Section(SS)への振分け,Reviewerの選任,審査会の運営,提案者とのコンタクト,一次審査結果リストの作成等を行う.この結果は,担当のICに送られ,各ICに配置されたProgram Director(PD)の取りまとめにより,二次審査が行われる.PDは審査会に同席することもある(一次審査会がICで行われるケースもある).PDは,Scientific Merit Reviewによる一次審査結果を確認するとともに,目標達成の可能性・研究費額の妥当性・各ICにおける優先度等種々の観点から採択候補リストの順位を調整する.そして,このリストを,専門の研究者やNIH高官に加えて弁護士や患者団体等の一般人から成るNational Advisory Councilに諮り,採否の最終決定がなされる.PDはこれらの公募・審査業務以外にも,研究進捗管理,研究コミュニティとの交流やNIHの施策立案も行う.


(2)英国における競争的資金とPO

 2000〜01年度の英国政府支出の科学技術予算は6,527百万ポンド(当時の為替レートで換算すると約1.2兆円)であり,そのうち競争的資金は1,519百万ポンド(約2,900億円,23.3%)である.投資額は現在,8%ほど増加している.

 英国では分野ごとの8つのResearch Council(RC)が資金配分を行っている.POは全体で約300名であり,RCによってさまざまに呼称されるが,“Program Manager”と称されることが多い.一例として,RCの1つ,Biotechnology & Biological Sciences Research Council(BBSRC)におけるGrantの公募・審査は,外部レビュア4名が提案にコメントを付けるExternal refereeingと,Research Committeeによるパネル審査の2段階により行われ,POはこれらの運営を取り仕切る.採否は,Strategy Boardの承認を経て最終決定される.


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