軌跡~-_科学と旅_-~

小中学生を対象としたロボット競技会と総合理科教育

A Robot Contest for Children and Comprehensive Science Education


理科教育に向けて


 これまで述べたように,FLLは,ロボット競技だけに留まらない総合的な科学教育プログラムである.本章では,FLL2005及びFLL2006の参加チームにコーチの一人として関わった体験に基づき,競技会の模様を紹介すると共に,理科教育の展望を述べる.

FLL大会の模様

(1) 大会の概要

 FLL世界大会(World Festival)は,毎年,米国で開催されている.FLL2005世界大会は,2006年4月,3日間の日程でアトランタにて開催された.この大会には,世界各国から選抜された82チームが参加したが,うち,米国チームは53であった.これは,FLLが米国を中心に発展してきた歴史から,米国内の各州の代表が参加しているからである.日本は,FLL2004から参加し,国内予選を経て世界大会に代表1チームを派遣したが,FLL2005以降,2チームずつ派遣している.FLL2005には,全世界で,31カ国,7,460チーム,60,000人以上の子供達が参加したという.

 FLL2005から,ヨーロッパでも世界大会が開催され始めた.こちらの方は,米国チームの数が少ない分,アトランタ大会よりやや規模が小さい.日本は,ヨーロッパ大会にも,アトランタ大会とは異なる2チームを派遣している.

 日本大会は,初年のFLL2004ではわずか16チームの参加であったのが,FLL2006では108チームに拡大しており,FLL2005からは地区予選と全国大会の2階層となっている.

(2) FLL2005世界大会の模様

 筆者らの関わったチームは,FLL2005世界大会(アトランタ)に出場した.国内予選終了後,プレゼンテーション内容を翻訳し,子供達にはとにかく暗記してもらって臨んだ.以下では,各項目についてのトピックスを紹介する.

■リサーチ・プレゼンテーション(図-16
 日本では常識的な,序論・本論・結論といったプレゼンテーションを行ったところ,その場で審査員から,子供達の活動内容や体験(本論)よりも独自のアイデア(結論)を中心にプレゼンテーションすべきであった,という意見を述べられた.評価基準に応じたプレゼンテーションの戦略が重要である.

■テクニカル・プレゼンテーション
 説明を用意して臨んだものの,話し始めるとすぐに審査員から,「実際に動かしてみろ」と言われた.「百聞は一見にしかず」ということであろうが,形式に囚われない審査という印象を受け,子供達はリラックスして説明できたようである.また,ここでも,他チームのロボットにはないユニークなアイデアの部分に質問が集中していた.この評価の観点は,関連する賞(Award)の種類にも現れており,日本大会ではテクニカル・プレゼンテーション賞のみであるのに対し,本大会ではInnovative Robot Award,Robot consistency Award,Programming Awardの3種が設定されていた.

■チームワーク・プレゼンテーション(図-17
 前述のように,プレゼンテーションという形態ではなく,実技試験のような,その場で課題を実施する形態であった.この項目に関しては,FLL主催者側も悩んでおり,質疑応答のみの形態等,毎年種々の方法を試しているようである.チームワークの評価とは,本来,チーム活動全体を対象とするものであり,ある意味では,プロジェクト管理に関する評価とも言える.これを限られた時間で評価することは,確かに難しい.内容報告を聞いて判断するか,成果(リサーチ・プロジェクトの結果とロボット競技の得点)によって判断するか,縮図を見て評価するか,しばらく試行錯誤が続くかもしれない.ちなみに,日本大会では,プレゼンテーション形態である.

■ロボット競技
 全般的に,歴史ある米国チームが強かった.ただし,ロボット競技では,中国の2チームが全て満点を獲得していたのが,強く印象に残っている.なお,米国チームの中にも満点を獲得したチームがいくつかあった.

■交流
 各チームは,”ピット (Pit)”と称する,3m四方程のスペースを与えられ,そこに各国・チームにちなんだ,趣向を凝らした飾り付けを行う.そして,各チームのピットを相互に訪問し合い,記念品を交換する等,交流を深めていた.また,4〜5チームがまとまってスーパーチームを作り,協力してロボット競技を行う”Alliance Expo”が行われる(図-18)等,交流のための企画も用意されていた.国際感覚の醸成には有効である.
 なお,最優秀賞は,米国チームの一つが受賞した.

(3) FLL2006の状況

 FLL2006からは,ロボットにNXTタイプのマインドストームの使用が可能となったが,日本大会で使用していたのは,数チームのみであった.国内の発売時期がやや遅かったのと,前年の資産(ロボット本体及び制御プログラム)を有効利用することが得策と考えたチームが多かったものと思われる.FLL2005の場合と同様に,小学生のみのチームに比べ,中学生を含むチームはやはり強い.

 FLL2006日本大会においては,これまでは公開されていなかった各項目の評価基準と得点の内訳(審査員用の採点シート)が,参加チームに対して事前に伝えられた.得点の内訳は,世界大会(米国)ではこれまで公表されていないが,評価項目・基準については,詳細な内容が米国運営団体のホームページに掲載されている.

 また,メンター/コーチがプレゼンテーションの場に立ち会うこと,及びロボット競技のステージに登ることが認められなかった.全てを子供達だけで行うことを徹底するためとのことであるが,教育プログラムにおいてはメンター/コーチにもそれなりの役割があり,議論のあるところであろう.なお,FLL2005世界大会では,立ち会いはもちろん,プレゼンテーションでは(ボランティアの通訳は付いていたが)質疑応答時の補足説明やビデオ撮影も認められていた.

 全国大会(Japan Open)は地区予選を勝ち抜いた22チームが参加して3月に行われた.(図-19) ロボット競技の最高得点は398点であり,FLL2005が350点であったことを考慮すると,日本の実力は着実に向上してきている.

 世界大会は,2007年4月中旬にやはりアトランタで開催された.筆者らの関わっているチームは,5月中旬にノルウェーで開催されるヨーロッパ大会に出場することとなっている.(注:本大会に参加したが,その模様に関しては,FLLOEC 2007 のページをご覧いただきたい.)

 なお,FLLのロボット競技やプレゼンテーションの映像は,YouTubeに世界中から数多く投稿されている.

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図-16  リサーチ・プレゼンテーションの模様 (FLL2005)
図-16  リサーチ・プレゼンテーションの模様 (FLL2005)

図-17  チームワーク・プレゼンテーションの模様 (FLL2005)
図-17  チームワーク・プレゼンテーションの模様 (FLL2005)

図-18  アライアンス・エキスポの模様 (FLL2005)
図-18  アライアンス・エキスポの模様 (FLL2005)

図-19  FLL2006日本大会の模様
図-19  FLL2006日本大会の模様