【 曲 霊( まがつひ) − 翠子・桔梗 】 … 汐崎雪野様
ようやく
お逢いすることが叶いました
古に滅びた名高き御方
ずっと私は
貴女に
訊ねてみたいことがあったのです
今のこの世に撒かれた禍は
もしかするとその元凶は
貴女のせいではないかと
私は
疑っている
正邪を己の魂に取り込み
もろとも体外に弾き出して息絶えた貴女は
もしかするとあの珠に
ご自身の怨念を
同時に篭められたのではありませんか
私が
ともすればふと安穏と過ごしている人々を
嫉んでいるように貴女もかつて
何故己ばかりが
ひと並みの倖せから切り離され
人の矢面に立ち
闘わなければならぬのかと
迷われたことが
あるのではありませんか
四散した魂の欠片が
熔けぬ雪のように降りそそぎ
油の鬼火と変わり方々で燃え上がる様を
この象牙色の死人
己の惑いの罪として慄き眺めてきました
貴女も
そうであったのではありませんか
洞穴の中に吹く僅かな風の口笛が
死しても決して許されることのない
巫女の流涕に聞こえます
それでも
前世の私である貴女よ
浅ましき殻骸をこうして晒しても尚
高貴なる御方よ
貴女の遺志は私の中に受け継がれ
少しでも
霧の中から光を見ようとしている
己の中の魔に打ち勝つことが
少しでも世のために繋がるのであれば
私は私に向かって怨みの残滓を断ち切る矢を放ち
たとえそれが今度こそこの胸を打ち砕くことになろうとも
懼れずに
再び宿敵の前に立ち
それを行いましょう
もう少しです
貴女の魂魄をこの身に引き受け私は弓をひく
仇なす曲霊を討ち祓い
貴女を永の苦しみより解き放って差し上げる
もう少しの辛抱です
私よ
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