【 夢を見たよ。あのね、あれ? なんで、泣いてるのかな? −お題9− 】
――― 夢を見たよ。あのね、あれ? なんで、泣いてるのかな?
夢の中はね、寒い冬だったの。
でも、りんは寒くなかった。
いつも、側に居てくれる人たちがいるから。
あっ、人 じゃないね。
だって…
殺生丸様も、邪見様も、阿吽も…
『妖怪』 ――――
りんだけ、違う。
…そんな夢を見たのかな?
だから、泣いてるのかな?
なんじゃ、りん。
お前は、自分の見た夢も覚えてはおらんのか。
夢は、夢。
起きている今が、真(まこと)じゃろうが。
わしの方こそ、現実(いま)を夢じゃと思いたいわい!
もう少し昔、殺生丸様とわしだけで旅をしていた頃がまるで夢のようじゃ。
あの頃は…
本当に静かじゃったな。
ねぇ、りんはここにいてもいいんだよね?
ずっと、ずっと一緒でいいんだよね?
今更何を言うんじゃ、りん。
わしらの側の他のどこに、お前の行く所がある?
それに、お前はもうここより他にどこにも行けぬじゃろうて。
殺生丸様がお前を手放す筈もなかろうからのぅ。
それにわしも、お前にゆかれては困る!!
わしだけに押し付けてくれるなよ、いいな? りん。
…相変わらず、騒々しい。
これらに付き合わねばならぬのか。
我の眸に映る者ども。
昔からの乗獣であった、阿吽。
何時からか付き従うようになった邪見。
それから…
天生牙の試し切りにした、りん。
更に ――――
「りん!」
「りんっっ!!」
響く幼き二つの声。
「父上!」
「父上!!」
…未だ馴染まぬ、その呼び名。
「殺生丸様、邪見様がまた子ども達のおもちゃになってます」
「放っておけ。壊れはせぬ」
拾った時より、余り変わらぬ姿なのに ――――
「…悲しい夢でも見たのか? 昨夜は」
「ううん、りんも良く覚えていないの。でも、悲しいんじゃないと思う」
りんは私を見、それから私の背後の小さき者たちを見やる。
すとんと、りんの胸に落ちたもの。
今では当たり前になってしまった、とても大切なもの。
「…ここでは、りんが人間でもそんな事、関係ないんだって。りんが幸せな事には変わりが無いから」
「りん…」
「人間って不思議だね。嬉しくても、涙が出るんだよ」
りんが見た夢は、今の現実。
だから…
―――― 夢を見たよ。あのね、あれ? なんで、泣いてるのかな…?
りん、こんなにも幸せなのにね。
ね、殺生丸様v
【終り】
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【 あとがき 】
そろそろサイト開設3周年の記念作品をと考えていて、そういえば昨年の記念作品はりんちゃんの懐妊話だったな、と。
ついでに、111111HIT記念には「双子」の話も書いたし…、でその流れの小話です。
今回は無難にほのぼので纏めましたが、一歩間違うとまた死にネタになりそうな根暗な管理人なのでした
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