【 これほどに奇妙な生き物を他に知らない −お題8− 】
――― これほどに奇妙な生き物を他に知らない。
とてとてとてと、背後から付いてくる小さな足音。
何の気まぐれか、魔が差したのか。
薄汚い、非力な人間の小娘。
私が、人でないものである事は承知しているだろうに。
魂消えた骸(むくろ)に、その命を呼び戻したのは私だが。
羽化したばかりの雛のように、
なんの疑いも無くついてくる。
お前は人間。
そう、その筈 ―――
温かな笑み。
快(こころよ)いその声。
黒い瞳に映るのは…
これほど奇妙な生き物を、私は他に知らない ―――
――― 変てこだよね、邪見様って。
りん、殺生丸様に助けて頂いてからしか知らないけど、
それでも判るよ?
邪見様って、物凄く物凄く殺生丸様の事が好きなんだよね?
そうじゃなきゃ、あんなに踏み潰されても蹴り飛ばされても、何百年もお供に付いて歩くなんて事しないよね。
えっ、りんもそうだって?
りんは踏み潰されたり蹴り飛ばされた事はないもん!
『お勤め』は時々あるけど、それもそんなに痛くないし嫌じゃないし。
あっ、もしかして、邪見様って…
虐められて嬉しい性格だとか………
…やっぱり、変てこだよ、邪見様。
か〜っっ!! 誰が変てこじゃ!
変てこなのはりん、お前じゃろうが!!!
あの殺生丸様に対し、怖れもなくお側に侍るとは!
ん? いや…、りんだけが変なんじゃないのぅ…
ほれ、あの犬夜叉にくっついとるあの娘!
巫女らしからぬ、あの奇妙な成りをしたかごめもじゃ。
何が良くて、あんな成りそこないの半妖なんぞとつるんでおるのか。
つるんでおるというか、ありゃただの仲ではあるまい。
人間の娘に手を出される辺り、
親子・兄弟よう似ておるわい!
それをなんとも思わんとは…
まったく、変なのはかごめやりん、お前たちの方じゃ!!
――― だ〜れが、変ですって!! えっ、邪見!
こんな森の奥で女の子の声がするから来て見たら、
いきなり変人扱い!!
思わず、踏み潰しちゃったわ!
そりゃね、私も最初は犬夜叉の事、
変な奴だって思ったわよ。
犬耳だし、頑固だし、ケンカっ早いし。
…二股だしね。
でもね、今じゃそれはそれでも良いの。
大切なのは、今 一緒に居られるって事だもの。
りんちゃんもそうじゃないかな…
絶対、変なんかじゃないからね!! 私たち!
けっっ、変なのは変だぜ。
お前等、みんな。
だけど、一番変わったのは…
殺生丸、お前。
あんなにも人間を毛嫌いしていたお前が、
役にも立たないあんな小娘を連れ歩き、
自分の身の危険も省みず、護り抜く。
…そんな奴だったか、お前って。
戦慄の貴公子。
戦国一の大妖怪。
残虐無慈悲な、冷酷野郎。
それが、お前だったよな。
俺がかごめに出会ったように、
お前はりんと出会い…
そして、俺達は変わった。
俺達を変えちまった、かごめとりん。
奇妙なもんだな、女って。
なぁ、そうだろ? 殺生丸。
俺は、これほどに奇妙な生き物を他に知らない ―――
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