【 さようなら、ってどんな意味なんだろう……? −お題5− 】




――― さようなら、ってどんな意味なんだろう……?


もう随分ね、りん この森の中で殺生丸様と邪見様と阿吽と一緒に暮らしてる。
いつも、一緒で。               
うん、森の中でもいつも同じ森じゃないよ。              

今もね、りん達はずっと旅を続けているんだ。               
殺生丸様がお一人でお出掛けになる事もあるけど、それは ―――             


「いってらっしゃいませ」               

だから、次の言葉は……              

「お帰りなさい、殺生丸様!!」               


さようならなんて言った事がないよ、りん。               
時々、かごめ様がこちらに来られていた時にたまに会って、それから別れる時に、               
「さようなら」って言った事もあるけど、それは「またね」と同じ意味だもの。               
でも……、本当は【違う】意味があるんだよね ―――



りんは今、その意味を殺生丸様の眸の色で読む。              
りんを見詰める、金の眸。               
りんが気が付かなかっただけなのかな?               
本当はずっとこんな色をしていたのかな?              

こんな風に殺生丸様の眸の中にりんだけを映し出されたのは、もう随分前の事。               
あの頃はりん、本当に子どもで。               

今よりもずっとずっと、子どもで。               

殺生丸様の腕の中に居る意味すら知らないままで ―――               

幸せで。               
ずっとずっとこのままでいたいと。              
この暖かさを、               
この力強さを、               
ずっと感じていたいと。


今よりも小さい頃は、花を摘むのが好きだった。               

今は……               

摘まれた花があっという間に散ってしまう、その意味を知ってしまったから……               
散った花は、もう二度とは咲かない。               
その花を摘んだその場所で昨日摘まれる事のなかった花が、今日も咲く。              
いつかは枯れる花だけど、摘まれる事がなかったらその時までは咲き続ける。               


( ――― お前は、野の花 )               


いつだったか、そうあたしの耳元で殺生丸様が囁かれた。              

違うよ、殺生丸様。               
りんは花じゃないよ。               
花みたいに簡単に散ったりしないよ。               


( ――― 野の花は、野に置け、か。私には、出来なかった )               


りんだって摘まれた花が散る事は知っているから、今はもうそのまま見てるだけ。               
そして、またねと思うの。               
またここで、この季節に、またね、って。


りんは花じゃないよ。               
だって花じゃ自分からは動けない。               
りんは……、自分のこの足で、この気持ちで殺生丸様の後を追ったの。               

お側にいたい! ってただその思いだけで。               

もしりんが花だったら、手折られても、すぐ散っちゃっても、やっぱりお側に居たいと、一緒に連れて行ってもらいたいと、そう思う。               
また逢えるかどうか判らないから。               
でもりんは花じゃないから……               

ほら、大丈夫でしょ?               

殺生丸様の腕の中で散っちゃいないでしょ?
りんは嬉しいよ、こうしてくださって。               
りんの中いっぱいに、殺生丸様が存(い)る。               

殺生丸様は…、嬉しくないの……?              

そうして気が付いたの。               
あの殺生丸様の、金の眸に ―――



……りんはね、今「さようなら」の意味を考えているの。               
あれから、数年。               
初めてお逢いした時から変わらず、りんはずっとお側にいるの。               
ずっと、ずっと、一緒なの。               
殺生丸様も邪見様もちっとも変わらないから、               
りんもそのまんまだと、思い違いをしてた。               

熱っぽい体。               
すぐ息が上がる。               
身体を動かすのも億劫で。               
りんは近頃では一日中、夜と言わず朝と言わず殺生丸様に抱かれてる。              



……もう、自分の足では歩けないから。               



殺生丸様のあの金の眸の色の訳は、そう言う意味。
りんがこうなる事をご存知だったから。               
……りんは、良いよ。               

殺生丸様に助けていただいた命と身体だもん。
りんの心も、殺生丸様のもの。               

だから……               

りんは幸せ。               
今、とっても幸せ。               
ありがとう、殺生丸様。               
りんに、こんな幸せをくれて。               


だけど…、りんは言わなきゃいけないんだね。               


……「ごめんなさい」、殺生丸様。               

先に逝くりんを ―――               

許してとは言わない。               
そんな恐れ多い事、りんはちっぽけな人間だから。               

だから悲しまないで、殺生丸様。               
当たり前の事だから。               
咲いた花が、散るのと同じくらいに ―――               



――― さようなら、ってどんな意味なんだろう……



【終】                 


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