【 いっぱい教えてね。知らなかったいろんなこと −お題3− 】




――― いっぱい教えてね。知らなかったいろんなこと。


そう言ってりんが、かごめ達の目に前に現れた。
りんは言うまでもないが、犬夜叉の兄・殺生丸と共に旅をしている。
かごめ達にしてみればこの二人の関係こそ、聞きたい所である。

「えっと……、何を教えて欲しいの? りんちゃん」

皆を代表して、かごめが答える。
どこか、警戒して。

……実は、このりんと殺生丸。
すでに一線を越えた、とんでもない関係の二人である。
りんが何も知らないのを良い事にか、相手が相手。
殺生丸が鬼畜であったという事か。

それでも、りんはりんであった。

ただ何も知らないからこそ、とんでもない事を口にする。
だからこその、警戒心。

「あのね、どうして殺生丸様は夜になるとりんの事、ぎゅうってするのかな? って。昼間は手も繋いで下さらないんだけど……」

ああ、やっぱり。
そーゆー方面の疑問。
どうしてかなど、口にする事もないだろう、あの殺生丸では。
不言実行!! な、唯我独尊野郎だから。
かごめのこめかみに小さな痛み。どう、説明したものか……

「……多分ね、昼間は恥ずかしいからだと思う。夜はほら、誰も見てないから、ね」

苦しい説明。
んな訳、ありゃしない!! あの鬼畜野郎はっっ!
自分の気の向いた様にりんちゃんを扱っているだけ。

「そっか〜v 昼の分も一緒だから、あんなにキツイんだ。後ね、殺生丸様、りんの事よく舐めるんだけど、あれはどうしてかな?」
「///////////////」

聞かれたかごめはその様を想像し、真っ赤になって言葉に詰まる。
りんが来た時からそっぱを向いて、犬耳だけ聞き耳を立てていた犬夜叉が、耳の先まで耳を赤くしてぺたりと伏せた。
慌てて珊瑚が七宝の耳を塞ぐ。

「ふん、そんな事!! 犬だからに決まっているだろっっ!!!」

妖怪退治屋としては大の男顔負けの度胸を持つ珊瑚が、それこそ茹でられたタコさながらに顔を真っ赤かにさせて大声をあげた。
頭から湯気が出ている。これ以上、この場に同席させては害があると判断し七宝と雲母を外に出した。

「あっ、じゃ 犬夜叉も舐めるんだ♪」

りんの一声に、ボンっっ!! と犬夜叉の髪も赤い衣も破裂した。

「ば、バカっっ!! あいつじゃあるまいし、んな事するかっっ!!」

犬夜叉の顔は真っ赤かの真っ赤か。
汗を滝のようにかいて、焦りまくりのどもりまくり。
心臓がばくばくいっているのまで聞こえそうな焦り具合。

……りんたちの関係に気付いて、自分も考えなかった訳ではないだけに。

「そうだね、殺生丸様は半妖の犬夜叉と違って正真正銘のお狗さまだもんね。でもおんぶは一緒だよ。かごめ様とは反対だけどね」
「おんぶ? 反対って…?」

かごめの頭に浮かぶクエッションマーク。

「あっでね、その時りんのお腹がものすごく熱くなるんだけど、大丈夫だよね?」


――――― 爆っっ〜〜〜!!!! ―――――


場数を踏んでいる弥勒以外、そこに居た者全員が、この一言で悶死した。

「あれ? 皆 どうしたの?」

ぷすぷすと煙を立てて、轟沈している三人を見やり、弥勒を見上げるりん。
涼しげな顔で白湯を啜っていた弥勒が、にっこりと返事を返す。

「りん、そーゆー事は殺生丸殿に尋ねなさい。経験のない者に尋ねたところで答えにはなりますまい」
「……うん。殺生丸様、答えて下さるかな?」
「お前が尋ねるのであれば、きっと丁寧に教えてくれる事でしょう」

そう答えた弥勒の雰囲気は、ほんの少しだけど殺生丸がりんにだけ見せる表情にも似ている様な気がして……

「判った。りん、もう殺生丸様の所に戻るね」

何も判った訳ではないだろうが、得心したように笑顔を浮かべるりん。
野に育ってもちゃんと礼儀を弁えた娘。
弥勒に向かって頭を下げると待たせてあった阿吽に乗り、疾く心のままに彼の主の下へ駆け戻る。



その夜。
かごめ達に尋ねた事と同じ事を殺生丸に尋ねたりんは、朝まで眠らせてはもらえず……。

りんの問いの答え。
それは「言葉」ではなく、りんが肌で理解する事。

その為に、重ねる夜の数 ―――



――― いっぱい教えてね。知らなかったいろんなこと。


(以下、オマケv)








―――― ねぇ、どうしてそんなに強く抱きしめるの? 殺生丸様?


さやかな夜風。
木々のざわめき、満天の星。
いつものように緑溢れる大地を褥に、綺羅を散りばめた群青を天蓋に。

広大な世界の中の、たった二人。
遥か天空の片隅に、針で突いたような小さな光。
一度眼を外せば、永遠に見失ってしまいそうな小さな光。

だからこそ ――――

( ……お前が何処へも行かぬように )

……? 変な殺生丸様。 りん、ずっと殺生丸様と一緒に居るって決めたんだもん。どこにも行かないよ?

りんがそう言ったら、もっとぎゅっと抱き締められた。
何処にも行かないって言ってるのにね。

それから……


――― 殺生丸様。りん、ってどんな味?

――― いつも舐めて、お味見してるでしょ? 甘いの? 辛いの? それとも苦い?

――― りんも舐めてみたんだけど、よく判んなかった。


( …………………… )


りんの肩越しに覗き込まれた殺生丸様のお顔。

あれ? 殺生丸様、いつもと眼の色が違うって言うか…、もしかしてりんの事、バカだなって思ってらっしゃる?

うん、バカかも知れない。知らない事がいっぱいあるもん。
ええい、ついでだから言っちゃえ!

あのね、殺生丸様。りん、あんまりおんぶって好きじゃないみたい。
ううん、おんぶされるのは好きだよ。
おっきな背中って気持ちいいもん。
でも…、りんが殺生丸様を『おんぶ』するとお顔が見えないし、お腹が熱くなるし。
重たくはないんだけど、身体の中にずんと来ちゃうから、やっぱりキツイかな。

( ――― これは、嫌か? )

う〜ん、それが嫌っていうより、お顔が見えないのが嫌みたい。

( そうか、ならば…… )

殺生丸様はそう仰って、りんの身体をお膝の上でくるりと回された。
りんのお腹の中も。
ああ、でもやっぱりこっちの方が良い。
ちゃんとお顔が見えるもの。
熱いのは変わらないけどね。

――― 殺生丸様、りん 熱いよ。

( ……お前が、熱くするからだ )

――― 違うよ。りんが熱いのは殺生丸様が熱くするからだよ。

( ……判らぬか? )

――― う…ん。

( ならば、お前が判るまで…… )


殺生丸様はそう仰ったけど、りんはもっと判らなくなって……。
だって、りんの身体 もっともっと熱くなって頭も身体の芯も蕩けたみたいになって、何も考えられなくなっちゃったんだもん。

判りたい気もするけど、判らなくてもいいやって気もする。
ずっとこうしていられるなら、それで良いよ。



……このまま、【時−とき】が止まると良いね、殺生丸様 ――――


【完】


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