【 振り返れば、なぜ視線がぶつかるのか −お題18− 】



 

――― 振り返れば、なぜ視線がぶつかるのか。


寒さもいよいよ厳しくなってきた。

今までならば、小さなりんの身柄一つ。
己の懐に抱え込んで一冬過ごせば、然程難もなかったものを。

気がつけば、己の背中に注がれる増えた視線の数。

「……殺生丸様、此度の冬はどのように過ごしましょうか?」

恐る恐る、そう伺いを立てるは子等の圧力に…、いや『力』そのものかも知れぬが、それに負けた邪見。『母』大事な子等は冬の寒さに凍え始めているりんを気遣い、いまだ居住を定めぬ私を敵視している。

考えなかった訳ではない。
訳ではないが……

少し前の季節、そう思いこの冬の棲みかをと検分に出た時のあの騒動。

冬の寒さよりも、『あれ』の方が数倍性質が悪い。
どうしたものかと思案しつつ 、いつの間にか習い性になってしまった寒さに震えるりんの体を己の妖毛の中に包み込む。

ぶつかる四つの幼い視線が、今度は鋭く突き刺さる。


( ……ふん。りんが絡むと父を父とも思わぬ子等よ )


そう、それは……

母を母とも思わぬ、己同様に ―――


「あの…、殺生丸さま……」

腕の中のりんが、もごもごと口ごもる。
なぜか、ここしばらくはこの調子。

何か言いたい事があるようなのだが、姦しさがなりを潜めて思わせぶりに視線を絡める。

「……言いたい事があれば、そう申せ」
「えっと、でも……」

顔を赤らめ、瞳を潤ませ……
よからぬ熱でも出しておるのか、一際『花』が香りたつ。

「珍しい事もあるもの。お前からの誘いとは ―― 」

私の言葉に、りんが耳まで真っ赤にする。
子等の耳が一斉にそば立つ。

この世の始まりよりの、天地(あまつち)の理(ことわり)。
陰陽交わりて、全ての和となす。

隠すつもりもなければ、隠さねばならぬものでもあるまい。
そのお陰でお前たちがこの世にあると言うに、その咎めたてるような目つきはなんだ?


「お前たちは、ついてくるな」

そう言い置いて、りんだけを抱え空を翔ぶ。
こうでもせねば、二人だけで話す事もままならぬとは……

冬空の高みは、さらに寒く凍てつくようだ。
ひしと抱きつくりんの手の力の篭り様に、それを感じる。

こうしてみれば……

確かに、それなりの成りにはなったか。
お前を失くす怖さに、手折った時から変わらぬ営み。
気がつけば、求めるのは私ばかりで ―――

お前は私に逆らわぬ。
どれほど激しく求めようと、拒む術さえ知らぬ。

否、性愛の意味すら知らぬまま、お前は『母』になったのだな。
それだけに……

( ……熟した、と言う事か? お前から私を求めてくれるのか? )

それを、確かめたく。


「……ここでなら、邪魔は入らぬ」

ひそとした、そこはこの冬の宿りにしようかと検分した館の一つ。

「殺生丸様…、あの、りんね……」

りんの声は消え入りそうに小さくなる。
それを黙って、先を促すように視線を送る。

「あの…、赤ちゃん欲しいなって……。殺生丸様の……」

うん? と、意外な答えに思わずりんの顔を見る。
真っ赤になって、恥いて小柄な身体をますます小さくして ―――

( ……いきなり、そこに話が飛ぶのか? その前は、どうするつもりだ。 )

女の考える事は判らぬ。
今も天生丸・夜叉丸の二人の子を授けておるのに、その上にか?
欲しいと言われて、石でも拾ってその腕に抱かせるような訳にはゆくまい。
その前に、成すべき事を成せねばと。

やってない訳でもないのだが ――――

「……どうすればそれが手に入るか、お前はもう知っているな?」

こくりと、りんが頷く。

ふむ。
どう言う風の吹き回しか知らねどお前がそこまで言うなら、いつもより可愛がるのもまた一興。


我らより、他に誰も居らぬ館の中に ―――

艶めく啼き声。
私を癒す、夜啼鶯。

高く、低く。
弱く。強く。

その声に煽られて、何度挑んだ事であろう。
お前もまた、怯みもせずむしろ挑むかの如く、その身をしなわせて私を包む込む。

この様な目交わいは、あの子等が生まれてより久しく。
あの頃よりも尚、旨味を増したりんの身体であれば飽く事も知らぬ。

朝まで抱き続け、りんの望むままに情を注ぎ……
そして ―――

ぐったりと疲れた身体をどこか満たされたような風に私に凭せ掛け、りんが楽しげに語る。

「ねぇ、殺生丸様。りんね、今度は女の子がいいなぁ」
「女?」

その『女』の一言が、妙に胸に引っかかる。
……どこかで、何かの警鐘が響く。

「うんv 女の子! 殺生丸様がいっぱいりんの事可愛がってくださったから、きっとりんのお腹にやや出来てるよね!!」
「 ……………… 」

なにか……、そう、影を感じて ―――

「へへっv 前は知らなかったから出来なかったけど今度はね、ちゃんとお世話してあげるからね、って」
「……誰が、そう言った?」

聞きたくはなかった、その話。

「うん? 勿論、お義母上様だよ!! 小さな子が二人も居て、それでお腹も大きいんじゃ大変だって。野住まいも出来る時と出来ない時があるだろうし、大体女の大事が男に判る訳もないからって……」

……あれの口車に乗せられたのか、りん!!

そして据え膳を喰ってしまったのは、私。


――― 振り返れば、なぜ視線がぶつかるのか。


私の背後に感じる、金の視線。
そう、それは……

【おわり♪】


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【 あとがき 】

時として、「女同士」の結束って男女間の感情よりも強い場合もあったりしてv
このシリーズ(?)の殺兄は、微妙な所でヘタレ系のコミカルキャラですので、こーゆー展開もありかと^_^;
と言う事で多分(笑)殺ファミリーにもう一人、新しい家族が増えそうな予感です♪

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