【 己のものをどうしようと文句を言われる筋合いはない −お題12− 】
――― 己のものをどうしようと文句を言われる筋合いはない。
ねぇねぇ、ちょっと聞いて!?
私の知り合いって言うか、親戚って言うか…、義妹? 義姉?
まぁ、そんな立場の女の子が居るのね。
そりゃ、とっても可愛い女の子でね、なあんて言うのか、もう純粋無垢って感じの子なの。
ただねぇ…
この子のダンナがちょっと問題でね。
何をしているのやら、ふらふらほっつき歩くような放浪癖のある奴なの。
ん〜、それだけじゃないわね。
とっても俺様主義で、何を考えているか判らなくて、冷酷だし、最凶だし。
そりゃ…、見てくれはイケメンよ。
クールビューティそのもの。
だけど、あの性格じゃね。
あんな奴をダンナになんて、私なら丁重にお断りするわ!
現代なら犯罪だけど一応結婚もしたし、家族も増えたんだから何処かに落ち着けば良いのにねって、私は思ったの。
だからね、この前森の中で偶然会った時に言ってやったのよ。
「…ねぇ、殺生丸。あんた、りんちゃんをどうするつもり? 小さな子どもたちまで引き連れて、何時まで住所不定でほっつき歩くつもりなのよ!?」
その答えが、あれよ! あれっっ!!
もう、話にならないわっっ!!!
――― あ〜あ、どうしてこうもお前は腹芸の出来ぬ奴なのか。
お前の、その百面相の様に変わる表情を見れば、この先に誰が居るのか自ずと知れると言うもの。
聡いかごめ様が気付かぬ訳も、ありますまい。
お前の嫌がる方へ、嫌がる方へと歩を進めれば、ほら! お出ましですな。
…相変わらずの、無表情。
あっ、いや。
これは、失言。失言。
常に冷静であられるのは、それだけ大物である証ですな、殺生丸殿。
それに、また…
先頃会った時よりも、尚 愛らしい。
その奥方と双のお子。
余程、満たされた時を過ごされているのでしょう。
人の子の身で、人で無いものに添ったりんと半妖の子等。
戦国の荒んだ人界から隔たられ、その様は御伽噺の一幅の画(え)のよう。
りんがかごめ様や我が妻・珊瑚を姉と慕っているのを知って、ここで待っていたと言う所でしょう。
ほら、嬉しそうに楽しそうに女達の井戸端会議が始まりましたよ。
ああ、また!
お前がそんなにバツの悪い顔をする必要もないでしょう。
いい加減お前もこの状況に馴染みなさい、犬夜叉。
…なんでだ?
なんで、こんな所に奴がいるんだ!?
お前の連れを見れば、お前が『何を』したか思い知らされ、こっ恥ずかしくて穴にでも入りたくならぁ!!
近頃では、もうその件で俺がかごめに責められる事は減ったが、それでも…な………
やっぱ、拙いだろーがっ! それはっっ!!
ガキにガキ産ませて、どーすんだっっ!?
それも、しれ〜とした澄ました顔しやがってよ。
それに、それに…
お前を親父と纏わりつく子どもたち。
お前に良く似た天生丸と、俺に似た……
気持ちの落ち着かない俺を尻目に、井戸端会議をやっていたかごめがずぃ、と奴の前に出る。
わっ、馬鹿! かごめっっ!!
虎の尾を踏むような真似、するんじゃねぇ!!!
「…ねぇ、殺生丸。あんた、りんちゃんをどうするつもり? 小さな子どもたちまで引き連れて、何時まで住所不定でほっつき歩くつもりなのよ!?」
…言っちまったよ。
これで、奴がどう出るか。
たら〜り、たら〜りと冷たい脂汗が、背中を流れる。
なっ!? なんと言う口を聞く娘じゃっっ!!
戦国一の大妖と誉れ高い殺生丸様に対して!
ええぃ、命知らずなのにも程があるっっ!!
だが…
まぁ…
そのぉ…
…ワシも聞いては見たかったんじゃ。
殺生丸様が、これからりんを如何なさるのか?
御子達をどう育てられようとされているのか?
…殺生丸様のお子。
紛れもなく、りんが産んだのは殺生丸様のお子である。
それがどう言う意味を持つかは…
人間である犬夜叉の母の元に通い、半妖の犬夜叉を成した父君・闘牙王様に対して、思う所がおありだった殺生丸様。
それ故に、かつては犬夜叉の命すらも芥(あくた)のように思っておられた。
誇り高く、半妖を忌み、人間を嫌う ―――
殺(さっ)する為に、生きておられるようなお方…
それが、どうしてっっ!!
どうして、りんなんじゃっっ!?
何故、殺生丸様のほどのお方が、りんのようなちんくしゃな人間の小娘に、それもまだ年端もゆかぬ者に手を出されたのかっっ!?
この邪見、最大の謎に御座いますっっ!!!
りんは、無邪気で幼くて、だけど芯のしっかりした娘で、なにものもありのままに受け入れてしまうような素直で温かい、物を知らぬバカ娘。
だが、だからと言って殺生丸様がお手をお付けになられるなどとこの邪見、夢にも思わず、思わず……、え〜ん、え〜ん
(…邪見、思考支離滅裂)
あれ? どうしちゃったのかな、かごめ様。
りんの事で、殺生丸様を怒ってらっしゃるの?
大丈夫だよ、かごめ様。
りんの居場所は、殺生丸様の傍だから。
ちっとも辛くないよ。
大好きな殺生丸様と子どもたちと邪見様と阿吽と ―――
ずっとずっと旅を続けても。
屋根のあるお屋敷に住みたいとも、豪華な調度品も何もりん、いらない。
どんなに立派なお屋敷でも、この大空の青さには敵わない。
どんなに豪華な調度品でも、殺生丸様には敵わない。
――― 大事なのは、『その時』を一番好きなものたちと過ごせることだから。
今のりんは、殺生丸様について行く事から始まったんだもん。
だから、これからも殺生丸様についてゆくよ。
かごめ様、心配してくれてありがとう。
でも、大丈夫!!
殺生丸様も、仰ってくださったから。
ちゃんとりんの事を、お傍に感じて下さっているから。
りんは殺生丸様のものだから ―――
――― 己のものをどうしようと文句を言われる筋合いはない。
【終】
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【 あとがき 】
…最近ますます殺生丸を喋らせなくなりました^^;
殺生丸に語らせる事なく殺生丸を語る、と言う奇妙なスタンスが面白い
というか、一つのチャンレンジというか、そんな感じなのです。
まぁ、私がおしゃべりな殺兄が苦手、と言うのもありますね。
同じ内容でも殺生丸が言ってしまうと、その言葉はそこまで。
それを、まわりの者の口から言わせると、+αが加わるような気がするのです。
今回は冒頭と文末に入れた、お借りしたお題の
「己のものをどうしようと文句を言われる筋合いはない」
だけが、殺生丸の言葉。これだけだと、殺生丸の存在は希薄でしょうか?
オムニバス形式で書いたので、1本の読み下し文として読むには纏まり
が悪い文章ですね。
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