【 ほとんどいつも背中しか見えないし、それだって見えなくなっちゃうことがある。でも… −お題11− 】





―――― ほとんどいつも背中しか見えないし、それだって見えなくなっちゃうことがある。でも…


絢爛な春は行き過ぎ、森の中は柔らかな光に透ける緑に溢れる。
初々しい香りを放ち、しなやかに軽やかに皐月の風に翻る、木々の若葉たち。

今もまた、りんの目の前を光が弾ける。

光を弾くのは若葉ばかりではなく、りんが幼い頃から見続けてきた白銀(ぎん)も同じ。
木陰に揺れるその光を追って、出逢ってからずっと今まで旅をしてきた。

( そうだよね、りんを導いてくれる『光』だもん )

りんは眩しそうに、そしてどこか嬉しそうにその光を見つめた。
りんの前を行く、丈高い人でないものの背でさらりと流れ、風に舞う白銀の髪を愛しそうに。


* * * * * * * * * * * * * *


出逢って間もない頃は、この光が見えないと途端に不安になった。

置いて行かれるんじゃないか。
また、独りになっちゃうんじゃないか。
村に居た頃のように ―――

…いや、違う。

置いて行かれるのが嫌なんじゃない。
独りになるのが嫌なんじゃ…

そう…
出逢ってなければ、思いもしない。
誰か他の人なら、何処かで置いて行かれても、独りぼっちにされてもきっと平気。
諦める事も知っている。
どうしようもない事があるって事も。


嫌なのは…


今なら言えるよ、あの時の気持ち。

りんは、初めて逢った時から殺生丸様の事が大好きだったんだって!
だからあんなにも一生懸命に殺生丸様の背中を追いかけたんだって!!

いつも背中しか見せてくれなくて
いつもりんを置いてお出掛けで
滅多にお声をかけてくれる事もなかったけど

それでも良い。

りんの世界を照らすのは、殺生丸様だけだから!!


   * * * * * * * * * * * * * *


――― 背が、温かい。

何時からか、そこにあるこの温かさ。
背を取られる事も、取らせる事もさせぬ私が ―――

この温かさを何と言うか、私は知らぬ。
煩わしさと隣り合わせにある、この感情。

煩わしくて…、安堵する。
今 お前の瞳に映ってるのは…


いつまでも続けばいいね、こんな風に。


りんの前を殺生丸様が行かれて、りんはその後をずっと付いてゆくの。
春の花を追い、夏には滝の水しぶき。
秋は紅葉に埋もれ、そして ―――

冬には…

包まれる白銀。
とっても温かくて…
そんな冬を幾度も繰り返して。

肌寒い春先に、初めてその金の眸にりんだけを映し出されたあの夜の事が、もう随分と昔のよう。
何も知らなくて、何も分からなくて、ただただ縋りついた。
白銀の光を体いっぱいに受け止めて。


幸せって、こんな風な事を言うのかな?

今でもりんに一番良く見せるお姿は、その後姿。
それだって、しょっちゅう何処かに行っちゃうけど。
でもね、大丈夫!

りん、もう不安になったりはしないよ。
りんの中いっぱいに、殺生丸様の光があるから。
りんの中からきらきら、きらきらそれは零れて…


「りん、何を笑ってんだ?」
「さっきあげた花のせいだろう?」

自分より幼い声が足元から聞こえてくる。
視線を落とすと、自分を見上げてくる二つの白銀。
その声に、にっこり微笑む。

( ねっ、殺生丸様 )


――― ほとんどいつも背中しか見えないし、それだって見えなくなっちゃうことがある。でも…


【終り】

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【 あとがき 】

春の日の、殺ファミリーの一情景。
野にあって、それが自然体なそんな雰囲気が出せたらなぁと。
それぞれの中にある、「光」みたいなもの。
手に取ってしまう事は出来なくても、触れて感じる事の出来る何気なく大切なものかもしれない、りんちゃんや子どもたち。
少しは殺生丸も自覚して来たのかも知れません。

もちろん、りんちゃんは言うまでもなくv


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