【 第1期拍手SS 】




― 殴 ―


パッシーンッッッ       !!



辺りに響き渡る、小気味良いこの音。
狙い通りに的中した時の、この手に感じる痛みと振動と熱さ。
異様な程に、胸を騒がせる。

……やばいなぁ。

癖に、なりそうだよ。どうしよう…?


ああ、この痛み。この熱さ。
何故に、こうも気持ちが昂ぶるのでしょう?

快感、ですね。もうすでに。
仕方ありますまい。愛しい女子の手になるならば。


はいv しっかり、癖になっております。








― 甘 ―


りんね、朝 起きたらあっちこっち赤くなってる事が良くあるの。
で、それを見た邪見様がね

「お前は、【甘肌】だから虫が寄る」

なんて言うの。
……虫、じゃないんだけどなぁ。でも……
そうかなぁ、と思って自分でも舐めてみたんだけど……、よく判んない。

……でね、判んないから聞いてみたんだ、りん。


そうしたら、何にも言われずに、朝まで舐められちゃった。


やっぱり、甘いの…かな? りん。






― おもい ―


「よく食べるのねぇ、かごめ」

そう言ったのはママ。久しぶりに戻って来た現代で。
そりゃ、体力勝負だもん! 二つの時代を掛け持ちしてるんだから!!

学校の体育の授業の後で。
妙に女友達の視線が痛い。

「ねぇ、かごめ? あんた、病弱なはずよね?」
「う、うん。そう…、だけど」

そうは、いいながらもかなり苦しい言い訳だと自分でもそう思う。
日焼けしないように気をつけていても、滲み出る血色の良さは隠せない。
徒歩での移動や弓を引く練習や実戦などで、確かに身体も引き締まっている。
痩せているのと、引き締まっているのでは印象は大違いだ。
あはは、あははー、とどうやって誤魔化そうかとしていたら……
いきなり、ニュウウゥゥーと 


「きゃあぁぁぁ〜っっ!!!」

後ろから、思いっきり胸を掴まれた。

「ほらね。元々が可愛い顔してるのに、こんな身体じゃ凶悪すぎるわ」
「な、な、なにが、凶悪なのよっっ!!」

私は慌てて胸を押さえると、顔を真っ赤にしてそう叫んだ。

「だって、悩殺もんじゃない、そのスタイル。あまり年頃の男の子の側には行かない事ね。罪作りだわ」

女友達たちは、楽しそうにそう言うと更衣室を後にした。思ったよりもかごめが元気なのに安心しての、この騒動。
だが、まぁ…、げにすさまじきは女の集団。


確かにね、私だって気付いていたわよ。自分の『胸』が、年齢以上に豊かなのは。
それが弓を引き絞る為に鍛えられた胸筋のせいなのか、他に理由があるのかは知らないけど。
そんな言葉が、頭に残っていたのか背負われた犬夜叉の背中。
いつもより上体を浮かしていたら、さっそく怒鳴られた。

「しっかり掴まってろっっ!! かごめっっ! 走りにくいだろーがっっ!!!」

……ねぇ、犬夜叉。
あんた、ほんっとうに感じてないの?
私、初めて会った頃から変わってない?

……そう、思っていたら 

「なぁ、かごめ。お前、最近……」

ドキッ、とした。

( えっ? 何? なんて言ってくれるんだろう )

そう、少しだけ期待して。


「重たくなったな」


「おすわりっっっ〜〜〜〜〜!!!」


こんな奴に期待した私が馬鹿だったわっっ!!






― 輪 ―


ゆらゆらと、揺れる金色の尻尾。小さな手には、所在無さ気にくるくると回している草の葉。

「はぁぁ、どーしてオラが居るとあんなに機嫌が悪いんじゃ? 犬夜叉の奴」

それに、いつもならオラを庇ってくれるかごめも妙に赤い顔をして、ソワソワしとったが…。

( う〜、判らんっっ!! 『大人』になると言う事は、隠し事が増えると言う事なんじゃろか?)

みゅ〜、とオラの横で聞こえる鳴き声。

「なんじゃ、雲母。お前も邪魔者扱いされたんか。まったく、自分勝手な奴らばかりじゃ!!」

はぁぁ、とオラが溜息をつき。
みゅ〜、と雲母が鳴き。
はああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜、特大の溜息がどこからともなく聞こえ……。

「うん? なんじゃ。今の声は?」

眼の下の草むらをよくよく見れば、枯草色の塊が背中を丸くして蹲っている。

「邪見…? もしかして、お前もか?」

七宝の声に、その塊の背中がびくっと震え、恐る恐る振りかえる。

「どうして、お前らがここに居るんじゃっっ!!」

そう言って不毛な問いをしたと気付き、またも溜息。

「のう、邪見。なんでこうも邪魔者扱いされねばならんのじゃろ?」
「ふん! そんな事!! お前らが『子ども』だからじゃ!」
「そーゆー邪見も、お邪魔虫じゃろっっ!!」
「ワシのは、『大人の配慮』じゃ!! お前らと一緒にするなっっ!」

言い合っていたのも、しばしの間。不毛さ加減にやり切れなくなり、やがては溜息の二重奏。
夜空に月も高く登り、そろそろ頃合かと腰を上げる七宝と雲母。

「なんじゃ、もう行くのか」
「うん、ああ、そうじゃ。月が高くなったら戻って来いと言われておる」
「……そうか、良いのぉ」
「邪見、お前はまだ戻らんのか?」
「ワシが戻れるのは、明日の朝じゃわいっっ!! まったく、殺生丸様と来た日には……」

ほんの少し、邪見の苦労を垣間見た気がする。確かに、何にも判らん人間の娘と、自分勝手・傍若無人を絵に描いたような主の世話をせねばならないのだから。

「大変じゃな、邪見。お前も頑張れよ」

邪見にしてみれば敵対する側の者ではあったが、かけられた言葉が嬉しくて、ついホロリと。

「……そうじゃな。お前らもめげるなよ」


…こうして、当事者同士の知らない所で広がる【輪】もある。






― 月下氷人 ―


「のう、朴仙翁。儂等の役目もそろそろ終わりそうじゃな」

樹齢千年を経た老木の根元に、手にした酒をかけながらやれやれと言った風情の貧相な妖。
その傍らには、これまた極小の杯で酒を飲んでいる蚤妖怪。

「そうじゃのう……。二百年前にあやつ等の後見を頼まれた時は、どうなるかと思うたがのぅ」
「まったくじゃ! お館様も無理難題を残して逝かれて……。ほんに、のう」

くつくつと、辺りの大気を震わす様に、朴の大樹が笑う。

「……【犬】は人に懐(つ)くもの。あやつ等の親父殿がそうであったようにの。これもまた、性(さが)じゃ」

深い森の奥で、得体の知れぬモノらが酒を酌み交わし。

「まぁ、な。犬夜叉は前科があるからよ、人間の娘が相手でも不思議はねぇけどよ」
「真に持って、その通りじゃ。しかし、ワシはびっくりしたぞ! まさか、あの殺生丸の相手が……」
「そう言うな、って。却って似合いかも知れねぇぜ? 何を考えてるか判らんあいつらしいってな」

不思議と穏やかな空気が流れ 

「……会ってみたいものじゃのぅ、その娘らに」

この地を動く事叶わぬ、翁の言葉。

「……会わせてやらぁな、朴仙翁。まぁ、もうちぃ〜と落ちついたらな」
「ああ、そうじゃ。このワシが見ても気立てのよい娘らじゃ。ほんにあの兄弟には勿体無いほどの」
「そうか、それは楽しみじゃ。気を長ごうして待っとるぞ」

高砂の媼(おうな)を外して、翁ばかりの三人組。
それでも願うは、その手に託されし子等の御幸なり。


人の倫(みち)、妖の倫に外れようとも、それがまた【新たな】未来(みち)になると信じて。

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