【 エピローグ 】



 
 ―――― パタン、と飾りの付いた箱の小箱を閉めた。


 
 開け放した勉強部屋の窓から春風に乗って、薄紅の桜の花びらが二枚三枚と舞い込んでくる。


 
「……夢みたい」


 
 私は鏡の前に立つと、まだ締め慣れないネクタイの結び目を気にしながら、全体の姿を映して見た。真新しい胸の金のエンブレムが、春の日差しに柔らかく反射する。


「かごめー、遅れるわよ。準備は出来たの?」

 階下から、ママの催促する声が聞こえる。

「はーい。今、行くわ」

 私は、何かを吹っ切る様に自分の部屋を出た。

 

「うわっ、ねーちゃん! 本当に高校生みたい!!」
「…みたい、じゃなく、正真正銘の高校生よっっ!!」

 
 最近、ますます生意気になってきた草太の頭を軽く叩く。

「しかし、よう、まぁ…、頑張ったのう、かごめ」
「じいちゃん……」

 
 ……そう、私はほんの少し前まで、戦国時代と現代とを行き来していた。私が十五歳になったあの日から始まった冒険の数々は、今ではまるで夢のようで。

 
 思い出すと、まだ胸が痛い。

 
 あの時代には、大切な人達が居る。
 大好きな犬夜叉も。

 
 四魂の珠の『望み』を叶え、絡み歪(ひず)んでいた事象の事どもをあるべき象(かたち)に正した時、私の役目は終わった。
 私があの時代に留まるのは、また新たな歪みを生んでしまう。
 いつも、心の何処かで覚悟していた事。

 だから私は、皆に元気にさよならして来た。
 本当は泣きたかったけど、泣いて叫びたかったけど、そんなのは私らしくない!

 だって、『胸−ここ−』に皆は居る!!

 自然の摂理を、【時空−とき−】の摂理を無理に捻じ曲げる事の怖れ。
 これから【未来−さき−】の世界を大きく変えてしまうかもしれない。
 だから、もう そうするしか ―――――

 時代が変わる事は、私には判っていた。
 色々悲しい事、辛い事もあったけど、それでもみんな生きてる!!

 
 犬夜叉が、もう大丈夫だからと…、お前に逢えたから、これからも『俺』は『俺』として生きて行く、と言ってくれたから。

 だから、私も頑張った!

 精一杯、『自分の時代』を生きて見ようと思った。
 眩しい空を見上げる。

 
( ねぇ、犬夜叉。私、頑張ってるよ。いつかまた、どこかで逢えると良いね )

 
  * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
 

「かごめ! ほら、入学式遅れるわよ!!」
「はーい。今、行くわ!!」

 いま、一つのステップを登り始めたかごめを応援するように、桜の花びらが付き従う。

 かごめの机の上。


 飾りの付いた小箱の中から、不思議な光が溢れている事に誰も気付いてはいなかった。


 
【終わり?】
 2004.9.15

 


【 あ と が き 】

…犬夜叉の最終回。
終わってませんよね、あれじゃ。
で、勝手に考えたエンディング。本当に【終わらせて】しまうのなら、
こんな感じかと^_^; どーも、Sプロデューサーの掌で遊ばれているよう
な気がします。まっ、これもあまりに短いので、パラレルでありがちな
ネタですが、犬かごファンならこう言うラストがお望みかなと、さらに妄
想オマケです。
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