「かごめー、こっち、こっち!!」

校門の正面、クラス分け表の前にはあゆみを始めとする三人組。実を言えば、幼・小・中と同じなので、高校まで一緒と来るともうこの友人達との縁は一生ものなのだろうと思う。

それはまた、得がたい宝物で……。

「ほら、かごめ! あんたは1組だって!!」
「皆は?」
「私は3組。でも絵里と由加は7組で一緒なのよ。良いなぁ」

 進学したばかりの、期待と不安。
 初めての学校。
 見知らぬ顔ばかりの、クラスメート達。
 誰もが思う、ちょっとした心の戸惑い。

「おお〜いっっ!! こっちに貼ってあるぞっっ!!」
「俺のクラス、どこか見てくれっっ!!」
「俺もなー!」

 かごめ達の後ろで急に大きな声がしたかと思うと、どん! と誰かがぶつかってきた。

「もうっっ!! 気を付けてよ! 痛いじゃない!!」

 きつい声を出したのは、由加。

「あ〜、そんな所にぼーっと突っ立ってる方が悪いだろーがっっ!!」
「まっ、なんですって!!」

 売り言葉に買い言葉で、険悪な空気が漂う。
 何も入学式の前に…、とかごめが間に入ろうとした。

 と、その時 ――――

「あーっっ!! あんた、バカ久保っっ!!!」

 素っ頓狂な声を出したのは、あゆみ。

「えっ? あゆみ、この人知ってるの?」

 そう問いかけるかごめの視界のスミには、このあゆみ言う所の「バカ久保君」の友人達が近付いて来ていた。

「かごめ、忘れちゃったの? ホラ、幼稚園の時、いつも四人一緒でバカばっかりやってた悪ガキどもがいたじゃない!」

 そう言われても、そんな事があったような…、で記憶が定かではない。


「そーか、お前ら……、あの時のクソ生意気な女四人組かよ!!」
「どーした? 久保。でっかい声出して」
「あっ、剣也! こいつら、幼稚園の時のあのイヤ〜な女四人組だぜっっ!!」
「あ〜ん、なんだって?」

 横着そうに制服のポケットに手を入れたまま、剣也と呼ばれた少年がずい、っとかごめの前に歩み寄った。


( …あ、れ…? この顔、私 知ってる?? )

 
 霧のかかったようなその記憶に重なる、『何か』とても大切な事のような……。

 
「……お前、かごめ、か? あの、神社の娘の?」

< 
 ―――― なぜか、ドキっ とした。

 
「…え、ええ、そうよ! それが……」

 そう答えると相手は、さも嫌そうにこう吐き捨てた。

「ちぇっっ!! 初っ端からこれかよっっ! 折角、小・中とイヤな顔見ずに済んだってのによっ!!!」

 どかっーんっっっ!!!

「あんたねぇ!! 初対面の…、って本当は初対面じゃないかもしれないけど、それでもいきなりそんな事言う訳っっ!?」
「そうそう、そうやっていっつも噛みついてくるんだよな、お前!」
「言わせてるのは、あんたじゃないっっ!!!」

 かごめと剣也の剣幕に、それぞれの連れ達は唖然とそのケンカの様子を見ている。

「……あ〜あ、やっぱり始まったわね。あいつらと、私達四人の中では一番派手なケンカをしてた二人だから」
「うふふ、まあぁね。あの二人の勢いで対立していたような感じもあるものね、私達」
「私、今 思い出したんだけど、あの二人のケンカの切っ掛けって、なんだかと〜ってもくだらない事だったのよね」
「え〜、なんだったっけ? 私、忘れてるわ」
「あ、私も!」
「子供の頃にはありがちな事よ。ホラ、あいつ苗字が『大神』じゃない? で、かごめが神社の娘でしょ? 誰か忘れたけど、マセガキの一人が、『お前ら、ふーふみたいだな。神様と巫女さんで』って、言ったのがそもそもの始めよね」

 ぷぷぷっ、と残りの二人が吹き出した。

「あ〜、私も思い出したっ!! そうそう、それで剣也が『誰がこんな女、嫁さんにするかっっ!!』って言ったのに、今度はかごめが切れて…」
「……確か、こう言ったのよね。『こんな女で悪かったわね! 私だってあんたがお婿さんだなんて、絶対イヤっっ!!』って。後は、取っ組み合いの大ゲンカ」

 ますますレッドヒートしている二人を見つつ、それぞれの連れ達は密かに思う。

( ……あの頃と、ち〜っとも変わってないじゃん。まったく何やってんだ? この二人??? )

 

 ……そう。
 派手なケンカ。
 お互い、大嫌いだと喚きたて…、だけど、どこか……。

( 変なの、私。すっかりこいつの事なんて忘れていたのに、なんだか物凄く良く知ってるみたいな……。気のせいよね? )

 
 そして。

 
 かごめは、自分の『心』が何かを予感している事を感じていた。
 剣也がポケットに突っ込んでいたままの手を出した、そのはずみに何か小さなものが転がり落ちた。

 きらりと春の日差しを反射させ、黒く透き通った瞳のような ――――

 
( えっ!? )

 

 

 

 あの時。

 

 戦国時代に別れを告げた、あの時。
 骨食いの井戸まで送ってくれた犬夜叉は、おもむろに自分の首に掛かっていた言霊の念珠を引き千切った。
 今までなら決して切れる事はなかった、その念珠。
 私には、それが切れてしまった『絆』のように見えて…、悲しかった。


( ホラ! 半分持って行け、かごめ )

 ぶっきらぼうにそう言って、犬夜叉は私の手に半分にした念珠を零した。

( ……犬夜叉? )


( こいつは、俺とお前を繋ぐ『絆』だ。だから、お前が半分持ってろ! 必ず、また逢えるっっ!! )

 
 ああ、本当にそうだね! 犬夜叉!!
 こんな形で、こんなに側に!!

 

 ――――― 人はこれを、『奇蹟』って言うんだよね。きっと!!


 
【完】
   2004.9.17.


 


【 あとがきの後書き^_^; 】

まぁ、その〜アニメ放送最終回、と言う事もあり特別バージョンですね。かな〜りご都合主義な展開でありがちな話ですが、大目に見て 下さい。(ペコリ)
実際の所、まだまだ最終回には程遠い最終回だったのですが。
こう来ると、ほんとに終わりかな? との遊び心で。

また、こんなに幸せな終わり方にもならないだろうな、との予想もあるのですけど…、私的には。

ん〜、でも現代で『人間な犬君』の話では、萌えが下がります、私。『戦国御伽草子犬夜叉』と言う世界が持っている、あの独特な雰囲気が好きなんでしょうね(^^)




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