【 焔−ほむら− 】




明るい太陽の光の下に晒された肌を、きららかな水しぶきが飾り、濡らしてゆく。
その様に ――――



……なぜか、苛つく。


山深い、滝場での事。
己の他、誰がいた訳でもない。
幼く、無知であるがゆえになんらの警戒心すらも持たずに、裸身を渓流に浸しただけの事。


にこやかな笑顔で。



その情景が、我の内裡(うち)の火種であるか ――――




とうに忘れ果てた屋敷の片隅。
全てを暗闇の中に閉ざし、見えるもの見るものもなく。
卑小でひ弱な人間の小娘は、深い闇に沈む。


娘の目に見えるものは、この私だけ。


私の前には、一糸纏わぬ全裸の娘。
夜毎その身を朱に染め、鮮赤色から暗紫色までの花弁をその肌に飾る。
私だけの、野の花よ。
夜毎に咲いては、朝には枯れ果てる。
朝の光でまた芽吹き、日中の陽光の中で伸びやかに息づく。


何も知らぬゆえに、何も怖れず。
ただ、ただ己が身に受け入れてゆく。



では、こうすればお前に判るだろうか?
この私の胸に巣食う、焼け爛れそうな思いが。



狂った思いで、娘の手足を緊縛し床に転がし ―――
手には妖火が燃え盛る、松明が一本。
ゆっくりと、娘の瑞々しい幼い肌を焼いてゆく。


「いやっー!! 熱い、熱いよっ! 殺生丸様!!!」


じじじっと肌が焦げ、肉の焼ける臭いがする。
背中から肩、わき腹を巡ってまだ肉の薄い太腿。
陽に焼けてはおらぬ真白な内股は、とろりと蕩けるように丁寧に焔で炙る。
目にした者が、その酷さで二度と見たくはないように。
膨らみのない胸元も、やはり同じようにこの焔で炙る。


毎夜与える愛撫と同じ手順で、娘の肌に残す所有の刻印の代わりに、もっと消える事のない痕を刻み込む。


「…せっ……、しょう…ま……、り…ん……、いけな…こ……」


叫び続け肌を肉を焼かれ続けたりんは、もう瀕死の態。
私の足元には、焼死体の如きりんの姿。
滑らかな肌に幾つも散らばる夢の残滓と、新に焼き付けた肉色の大輪の花々。
これほど酷い姿もあるまい。
今のお前の姿なら、何処の誰をも目を背け見ようとはするまい。
お前もまた、その姿を外に晒す事を避けようほどに。



そう、それで良い。
そう、それで…



りん、お前はこの私のもの。
私だけのもの。



お前の美醜など、取るに足らぬ事。
お前がお前でありさえすれば。
焼かれた痛みなど、この私が慰めてやる。
痛みの代わりに、体が蕩けるほどの快感を。


お前の肌を焼いたこの妖火よりも熱いものをお前の胎内(なか)にねじ込んで、胎内からも焼いてやる。
お前が真っ白な灰になるまで。


そうすれば、お前にも判るだろう。
私を捕らえて離さぬ、この焔の熱さを ―――




狂おしいほどの



この焔の熱さを ――――




【終】





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