【 繰り糸 −くりいと− 1 】
この作品は以前、当サイトに遊びに来て頂いたお客様とスレッド別掲示板にて行っていましたリレー小説の第2弾です。第1弾目は贈呈品のカテゴリーに納めています。今回はリレー小説の雰囲気のままのUPです。
第2弾いきまーす! ぷーにゃん (女性) -2003-09-14 00:28:05
―――― ここの所、奈落の手掛りもなく。
当てもなく歩く事、数日。
旅の状況と同じような、穏やかだった空が俄かに曇り出した。
ジリジリとした空気に代わりに、湿り気を帯びた、ひんやりした強い風が吹き始めると、ゴロゴロと雷鳴も轟きはじめた。
「これは拙いですね。どこか雨宿りのできる場所を…」
言いかけた弥勒の言葉を遮るように、叩き付ける様な大きな音で雷が近くに落ちた。
「ひゃっ…!!」
雷が苦手なかごめを己の腕の内に囲い込んで庇う犬夜叉、気丈夫な珊瑚もさすがに近場に落ちた衝撃に、瞬間、耳を塞いで目を閉じた。
小さくなっていく雷鳴。
「はぁ…、びっくりした。随分近かったよね」
僅かに頬を赤らめて、犬夜叉に「ありがと」と言ったかごめが珊瑚を見遣ると、珊瑚は大きく瞳を開いて、見詰めていた一点に駆け寄った。
「法師様! 雲母!! しっかりして!!」
地面には焦げた跡。落雷まで肩に乗っていた雲母と共に倒れていたのは弥勒だった。
それでは、続きますv 杜 (管理人) (女性) -2003-09-14 12:33:03
何かが焦げるような、独特な臭気。
倒れ伏したまま、微動だにしない弥勒と雲母。
雷に打たれたらどうなるか、科学の知識のない者でもその恐ろしさは良く判っている。ましてや、かごめは…。
( …まさか、弥勒様。そんな事、ない…よ…ね? )
狂乱した珊瑚の姿を呆然と見つめ、恐怖で身動きも適わない。
そんなかごめの心中に気付いたのか、犬夜叉は支えるようにかごめの肩に置いた手に力を込めた。
「…大丈夫、だ。あいつが雷に打たれた位で死ぬようなタマかよ。多分、雷そのものもあいつには当たっちゃねーだろ。この臭い、金属が焼ける臭いだからな」
「あっ…」
一瞬、かごめの頭に弥勒の錫杖の金輪がきらめいた。
頭一つ分高い、それ。
( …そっか、あれが避雷針の代りになったんだ。でも、どうして雲母まで? )
かごめがあれこれ思案を巡らしている間に、犬夜叉は珊瑚の許へ歩み寄る。まだ珊瑚は狂ったように、青ざめた顔の弥勒を揺さぶりつづけていた。
「おい! 珊瑚!! しっかりしろっっ!! お前が落ち着かなくて、どーすんだよっっ!!」
「だって、だって!! 法師様、法師様が〜っっ!!!」
すでに珊瑚の瞳から、焦点が失われている。
それを見て取ると、犬夜叉は有無を言わさず珊瑚の鳩尾へ拳を打ち込んだ。
「犬夜叉っっ!!」
あまりな展開に、かごめが驚きの声をあげる。
「…このままじゃ、珊瑚までどーにかなっちまうからな。おい、七宝っっ!!」
犬夜叉の大声に、今まで眼を回していた七宝が飛び起きる。
「お、おう! なんじゃっっ!!」
「お前は、急いでハチを探してこい。取り敢えず、楓婆ぁんとこ、戻るぞ」
そう言いながら、犬夜叉は忌々しげに空を睨んだ。
――― 明らかに、通常とは異なる「貌(かお)」を見せたこの空の向こうに潜む何者かを見出そうとするかのように。
また、続きます(^^) 杜 (管理人) (女性) -2003-09-21 15:50:54
七宝が連れてきたハチに弥勒と珊瑚、雲母を乗せ、一路楓の村を目指す。
ハチも「悪友」とは言え、一目置く弥勒の大事、その必死さはいつにない移動の早さが物語っていた。
一足先に弥勒たちを村に返し、犬夜叉とかごめは地念児の薬草畑に向かう。
「ねぇ、珊瑚ちゃんと楓ばあちゃんだけで大丈夫かしら?」
犬夜叉の背中で、かごめが問いかける。
「ああ、よっぽどの事がない限り大丈夫だ。気ぃ失ってるけど、息はあったからな」
「そう…」
ひょこっと、かごめの傍らから七宝が顔を出す。
「で、地念児の所でどんな薬を貰うつもりじゃ?」
「そう…ねぇ。火傷の薬と気付けでしょ。後、使えそうなものならなんでも」
「おう、とにかく急ぐぞっっ!!」
掛け声一つ。
犬夜叉は速度を増した。
…胸に兆した疑念は内(うち)に秘めたままで。
楓の村に帰り着き、小屋の中へ弥勒を運び込む。
今だ目覚め様としない弥勒の傍らには、同じく目を閉じたままの雲母。
「…楓様。このまま二人とも目が覚めなかったらどうしよう?」
普段は気丈な珊瑚が、見てもいられない程、心配のあまり憔悴しきっている。
「珊瑚、お前も休め。そのままでは、お前まで倒れてしまうぞ」
眠り続ける一人と一匹に、出来るだけの手当てを施しながらそう楓は声をかけた。
勿論そんな言葉、聞く耳など珊瑚は持っていない。
一族を皆殺しにされ、弟まで奪われた珊瑚にとって雲母は唯一の『家族』そして弥勒は、新たな――――
しかし、誰も気付かぬうちに異変は進みつつあった。
こっちも週間連載〜(*^^*) 杜 (管理人) (女性)
-2003-09-27 12:30:52
仲間の大事、と地念児は秘蔵の薬草を惜しみもなくかごめ達に与えた。
それらを抱え、村へ急ぐ犬夜叉達。
かごめは犬夜叉の背で、先程から気になっていた事を口にした。
「ねぇ、犬夜叉。あの雷、自然のものかな?」
「…どうして、そう思う?」
「うん…、なんだかね、私達を狙っていたような気がして…」
「お前も、気が付いていたんだな」
「やっぱり…」
二人が押し黙る。
間に七宝が口を挟む。
「オラたちを狙っていたなら、なんで一撃だけで引き上げたんじゃろ?」
「…邪魔をされたからだろう。狙われていたのは、珊瑚だ」
「珊瑚ちゃんが!?」
「ああ、それを弥勒と雲母に邪魔された。弥勒の野郎、自分の錫杖を空に投げて雷(いかずち)を避けようとした。そうしたら『あの光』は明らかに、錫杖に当たる前に方向を変えやがった。まあ、変え切れずに、当たったのもあったがな」
…だから、気になる。
どうして、弥勒と雲母は目覚めない?
一体、弥勒と雲母の身に何が起きたのか?
( …うぅっ、か、体が…、動かない。わ、私、は… )
針で突いた程の意識が、暗闇の中から浮かび出る。
体の感覚がない。
…『自分』と言う存在が、何か『異質』な容器(いれもの)に押し込められたような感じがした。
参加させてください。 ヨモギ (女性) - 2003-09-27 21:43:47
暗い暗い闇の中。浮遊感に包まれているのに重苦しい体。
鉛にでもなってしまったのだろうか?
それとも最初から鉛で、人間だと思い込んでいただけなのかもしれない。
俺みたいな奴がマトモな部品で出来ている方が不思議だ。
定まらない意識。
それでも不快感だけは鮮明で。
「法師様…」
珊瑚は先程から魘(うな)されている弥勒の額に、何度も落としてしまった水に濡らした布を根気よく乗せる。またすぐに落としてしまうだろうけど。楓は邪気を感じると出て行ったきりだ。
珊瑚は溜息を付いて腹をさすった。犬夜叉に殴られた場所がまだ、少し、痛む。
意識が戻った直後、珊瑚は犬夜叉の頬を思いっきり引っ叩いた。
犬夜叉があたしを殴ったのは正しかった。だから力一杯張り倒した。
あたしなりのありがとう。罪悪感を持って欲しくなくて。
かごめちゃんはオロオロしていたけど犬夜叉には伝わったと思う。
「法師様!」
急に腕を掴まれた。相変らず意識は無い。
それでも、まるで溺れた者が必死に浮遊物に縋るかのような滅茶苦茶な求め方。何を恐れているのだろう。
「法師様、痛い!」
握り返してあげたいという気持ですら潰してしまう程の力。
思わず振りほどきかける。
「大丈夫、大丈夫だから」
それでも珊瑚は逃げずに弥勒の頭を掻き抱く。
大丈夫、大丈夫だと呟き続ける。弥勒に言っているのだろうか?
それとも自分自身に言聞かせているのだろうか?
苦しい息が耳にかかる。
速くなっていく鼓動は法師のモノか自分のモノか?
震えているのはどっちだろう?
「大丈夫、大丈夫だから、落ち付いて。しっかりして!」
楓様、早く帰ってきて。
犬夜叉でもかごめちゃんでも七宝でも雲母だってかまわない。
誰かあたしに大丈夫だと言って。こういう言葉は人に言って貰った方がいい。自分で何回も使うと効果が減ってしまう。
必死な珊瑚は気付かなかった。
背後に忍び寄る静かな影を。耳まで裂けた口と長い舌を持っていたが、其れは大丈夫という言葉を吐き出す為にあるモノではなかった。
僭越ですが、私もお仲間に入れてください れっかぽん (女性)
-2003-09-29 17:30:37
「法師様、落ちついて!」
珊瑚の呼びかけも耳に入らないかのように、弥勒は弾けるように身を捩る。思いがけない力に引きずられ、珊瑚は彼諸共夜具の中にどっと倒れ込んだ。
まるで自分が弥勒を押し倒しているような姿に狼狽し、珊瑚はせめて自分の重みが彼に負担を掛けぬよう、少しでも体をずらそうと努めた。
だが、そんな彼女の努力を嘲笑うかのように、男の腕はますます力を増す。
ぜいぜいと熱い息が腹にかかる。
弥勒の指先に更なる力が籠もり、珊瑚の唇から微かな苦鳴が漏れた。
「ほ……し、さま」
「に……げ」
密着していなければ届かないほど、微かな声。
だが、確かにそれは法師の口から漏れたものだ。
「え、何?」
続きを聞き取ろうと珊瑚が屈み込んだ、その瞬間。
シャッ!
頭上僅かの空間を、何かが鋭く薙いだ。
「……!」
反射的に首を竦め、同時に右腕を振り上げる。
袖が内側から裂け、小振りの仕込み刀が飛び出した。
キンッと硬質な音が響き、珊瑚の腕に急激な負荷がかかる。
粘液質の熱いものが、ぽたりと頬を濡らした。
「……雲母?」
仕込み刀に鋭い牙を絡ませているのは、家族同然に可愛がっている己の僕(しもべ)だった。
「雲母。 お前、どうして?」
「ぐ……う」
近々と見上げる目はいつもの朱とは異なり濁ったように赤く、糸状にすぼめられた光彩も暗赤色に染まっている。 歯茎まで剥き出した口は大きくぱっくりと裂け、ちろちろと長い舌が蠢いていた。涎が溢れ、口端から幾筋も糸を引いている。
(いつもの雲母じゃない)
一体何がどうなっているのか。
さっぱり判らないながらも、自分と弥勒が非常に危うい状況なのは確かだ。
妖怪の雲母を相手に、力比べで勝てるつもりはない。ましてや今の自分は、法師を庇って体勢を崩したままの上、片腕一本で巨大化した猫又の体重を支えているのだ。
歯を食いしばった珊瑚の喉元に、また少し熱い涎が降り注ぐ。
―――― どうする。 腕を振りぬくか?
腕の角度を変えて、刀を一気に振りぬく。 顎の蝶番を切り裂いて逃れれば、そのまま体勢を立て直すことが出来るだろう。
だが、それをすると雲母自身は無事では済まない。
重傷か、下手をすれば命に関わる傷になる。他の誰でもない、あたしの手によって。
冷静な退治屋の性と愛猫を愛おしむ心が鬩ぎ合う。
躊躇する珊瑚の下で、弥勒の体が大きく痙攣した。
「法師様!」
こんな時にと唇を噛む珊瑚の真横を掠め、男の手が伸びた。その手の先に紙片が握られていることに珊瑚が気付いた、その時。
「ぎゃうっ!」
苦鳴が聞こえ、珊瑚の腕に掛かっていた負荷がすっと消えた。
猫又が巨大化の変化を解き、体を丸めて藻掻く。
その体に貼り付けられたものは、妖力封じの札だった。伸ばした腕をぱたりと落とし、法師の体が弛緩する。
「雲母! ……法師様」
「きら……は、……じょう、ぶ」
中腰の姿勢で男を抱えたままおろおろと猫又を見下ろす珊瑚の耳に、微かな声が届いた。
「お……は、操られて……。 おさ……る……だけで、せい……い……
…ぱい」
「操られているって?」
「そ……うだ」
たったこれだけの言葉を継ぐだけで、弥勒の体からは大量の汗が噴き出している。痛みに耐えるように呼吸を整え、男は再び口を開いた。
「こえ……が」
「声が?」
オウム返しに呼びかける珊瑚の頬を、震える指がなぞる。酷く熱い感触だった。
「……おまえ……を、殺せ……と」
いよいよ盛り上がってきました!! 杜 (管理人) (女性) -2003-10-06 17:49:13
「法師…、様? 一体…、なにっ、くっ…!!」
珊瑚の頬をなぞる弥勒の指が、不意に万力のような力で珊瑚の細い首筋を絞め始めた。
「さ…、さん…ご。し…、仕込みを…、使え」
ギリギリと、骨が軋む音がする。
目の前が赤くなり、やがてすうぅと、暗転して行く。
仕込みを使えるのなら、疾うに使っている。
そう、雲母の時に。
ましてや、弥勒相手では絶対 ―――
「お…、俺…に、お前…を、殺させ…る、なっっ!!」
弥勒の瞳には、己の内裡に巣食う「何者」かとの死闘をを覗わせる、苦渋に満ちた色があり、珊瑚の細い首を縊り切ってしまいそうなその両手を、かろうじて押し留めていた。
だが、それもいつまで持つものか ――――
それに珊瑚が気付いた時、あまりの恐怖にもう声さえあげられなかった。
締めつける弥勒の手をもぎ放そうと、珊瑚の手が弥勒の手にかかっている。弥勒の目の前には、珊瑚の仕込み刀の冷たい光。
意識のあるうちにと、弥勒はその刃の上に己が項(うなじ)を差し出した。
すっ、と細い糸のように赤い線が走る。
( いやーっっ!! 法師様っっ!! )
…このままでは、珊瑚が弥勒に縊り殺されるが先か、弥勒が己の首を掻き切るのが先か。
ヒュンッ!!
風を切って飛び込む一本の矢。
それは狙いを違わず、弥勒の右の腕に深々と突き刺さる。
一瞬、締め付ける手が緩んだ隙に珊瑚は弥勒の項に当たっている仕込みを下へ降ろした。
( ごめんっっ!! 法師様!! )
返す手で鋭い突きを鳩尾に叩き込み、体勢が崩れ前屈みになった所を首の後ろ、「ぼんのくぼ」辺りを強打した。
まかり間違うと、息の根を留めかねないが一気に叩き臥せておかないと、却って弥勒にも負担を掛けると判断したのだ。
「大丈夫かっっ!! 珊瑚!!」
邪気を感じる、と表に出ていった楓が小屋の入り口で矢を番えて構えていた。
「楓様…」
「ふう、間一髪じゃったな。一体何があったのじゃ?」
そう尋ねられても、珊瑚にも答え様がない。
言える事は、弥勒の手にかかりそうになったと言う事。
弥勒が自分の命を投げ出してまで、珊瑚を助け様とした事。
弥勒の内裡(うち)に潜む、忌々しい『敵』
その弥勒に封じられた雲母の内裡にも。
全ては珊瑚を狙っていた。
今週はちょっと更新、遅れ気味 (^^; 杜 (管理人) (女性)-2003-10-15 16:35:04
雲母は弥勒の札に封じられ、弥勒は珊瑚に叩き伏せられている。
――― 誰が予想しただろうか?
仲間が仲間を封じるなどと言う事を。
もし、この場を敵に襲われたら、戦力は通常の半分にも満たないだろう。
いや、もしこの一人と一匹が『敵』に回ったら…。
考えるだけでも恐ろしい。
珊瑚と楓は、一刻も早い犬夜叉達の帰りを待っていた。
「ただいま、楓ばあちゃん。弥勒様と雲母の様子はどう?」
帰りつくなり真っ先に、尋ねる事はそれ。
犬夜叉は、小屋に入るなり異変を嗅ぎつけていた。
小屋の中の空気に混じる、微かな『血』の臭い。
この臭いは ―――
「弥勒の野郎に何があった、珊瑚。」
まだ青ざめた表情で弥勒を見つめる珊瑚に、そう問いかける。
「珊瑚ちゃん?」
頭を振り、頑なに口を閉ざす珊瑚。
替わりに答えたのは楓。
「…殺されかけたんじゃよ、法師殿にな」
「 ――― !! ――― 」
「…じゃ、雲母も、か?」
「ああ、そうじゃ…。」
今まで押し黙っていた珊瑚が顔を上げると、悲痛な思いで声を上げる。
「 ――― 違うっっ!! 法師様や雲母があたしを狙ったんじゃないっっ!! 法師様や雲母の内に何か潜んでるんだ。法師様は『それ』からあたしを守る為に、自分の命も捨て様とした!!」
ピーンと張り詰めた空気。
凍てついたような時間。
「…やっぱり、な。なんかおかしいと思ったんだ。最初(はな)っから珊瑚、狙いはお前だったんだ」
「…あ、あたし? あたしが、どうして?」
「犬夜叉…」
「弥勒と雲母は、お前の身代わりになったんだ。それがどう言う事か判るか?」
「あたしの、身代わり…?」
…つまり、もしそうなっていたら仲間を襲っていたのは、このあたし?
―――― 奈落に操られている、弟の琥珀のように。
「い、いやっっ!! そ、そんな事、絶対っっ!!」
奈落の仕業なのか、それとも『妖怪退治屋』としての珊瑚に恨みを持つ輩の遺恨によるものなのか。
「…とにかく、弥勒様と雲母をこのままにはしておけないわ。どうにかして内裡(うち)に潜んでいるものを、引っ張り出さなくちゃ」
「ああ、それはそうだ。だが、その方法が見つかるまで、どうするんだ?」
「どうする、って…」
そう、目覚めた弥勒を抑えようとすれば、下手をすれば今度はこちらがやられてしまうかもしれないのだ。
『風穴』で。
そうならないとは、誰にも言えない。
目覚める前に、何か手を打たないと ―――
「…よし、判った。犬夜叉、法師殿を連れて来い。決着が付くまで法師殿と雲母は、『岩屋』に封じ込めておこう」
意を決したように、楓はそう言うと小屋を後にした。
楓の言葉に従い、気を失ったままの弥勒を犬夜叉が担ぎ上げ、変化の解けた雲母を珊瑚が抱きかかえる。
楓は滅多に人が近づかぬ社殿の裏の杜に入り込み大きな岩の前に立った。
古びて何時の物とも判らぬ注連縄が掛かっている。
楓はそれを、切らぬようそっと外した。
「犬夜叉、これを開けい」
「なっ、この岩をか?」
「ああ、そうじゃ。『人』にも『妖怪』にも開ける事適わぬ『神の岩戸』じゃ。一度この中に入らずんば、中からは神であろうと出る事は適わぬ。お前ならば、『半妖』のお前ならば出来るであろう」
楓の隻眼には確信に満ちた光がある。
…そう、犬夜叉は。
「私も手伝うわ。対した力にもならないかも知れないけど、犬夜叉一人じゃ、大変だもの」
そう言うと、呆然としている犬夜叉の手を取り岩に手を掛ける。
じりじりと動き出す岩。
それはこの二人が『何者』であるかと言う事を暗示していた。
【2へ続く】
TOPへ 作品目次へ