おまけ

『あの日』の感想

2016.02.07

はやくも今年も2月.自分の研究環境も緩やかに,でも,劇的に変化しています.その辺をしたためるのは次の機会にして,今回は小学生以来の読書感想文を書いてみます.選んだ本はもちろん小保方晴子著『あの日』です.

僕としては,研究者とは対極にあるような小保方氏が,この騒動をどのように回顧しているのか,とても興味があるので,本の発売が発表されるやいなや購入を決めました.当日は測定の合間に無理をして,お茶の水の丸善,三省堂を巡ったのですが,どちらも売り切れなのか販売の形跡が無く,三軒目に入った書泉グランデで最後の1冊を見つけ,これは思いの外,売れているのかもしれない,と感じました.余談ですが,数日後に大学生協の書籍部を訪ねたところ,まだ『あの日』が平積みされて残っていたので,東大の人にはこの本に対する嫌悪感があるのかもしれません.

小保方氏の本を購入するのには賛否両論あるようですが,僕自身は,小保方氏は希代のエンターテイナーだと思っているので,楽しませてもらった分の対価を払う(=本の印税が彼女に入る)のは全く嫌ではありません。むしろ望むところです.講演会があるならお金を払ってでも参加したいし,そして質問攻めにしたい(笑).

本は前半が大学時代からハーバード大のポスドク生活について,後半がSTAP騒動についての回想録となっており,二部構成をとっています.本を読み始めてすぐに,あの幼稚な実験ノートや記者会見の受け答えと比較して,あまりに文章がしっかりしているのに驚きました.ゴーストライターでは無く,本人が書いたという事なのですが,なぜ博士論文の再提出も満足に出来ない人が,このように(一見)筋の通った長文を書けるのか,違和感だらけなのですが,後半(STAP騒動)部分の話は,実際に本人が経験しなければ記述できないような研究世界の闇(どこにでもある本当のことだが,一般人には想像も出来ないような事柄)が書かれており,他の作家がいたとも思えません.おそらく,小保方さんは研究で身を立てるよりも,このようなゴシップ本を出版することにエネルギーを使いたい人なんだと思いました.

前半部分を読んでまず感じたのは,研究者としてとにかく質が低いなぁ…という事です.大学からポスドクまでの研究者としてのトレーニング期間において,研究者が感じるような悩みや惑いが一切書かれていない(苦笑).一方で,友達との友情話のようなまったく研究に関係ない事ばかり書いてある.例えば,同期と比較して,実験技術が劣っているのではないか,テーマ設定が甘いのではないか,自分の研究テーマは本当に意味があるのか,などなど,下積み時代はとにかく葛藤の連続なのに,そういう記載がほとんど見当たらない.投稿論文が不採用になった話など,自分ならそれだけで数時間は語れるのに,「あの日」ではさらっと流されている.研究への思い入れが全然感じられない…これでは「ああ,この人研究の世界に紛れ込んじゃった別の世界の人なんだなぁ」という残念な感想しか浮かびません.これでも学振DCに通っているというのが異常ですが,まあ化けの皮がはがれたのか,PDや海外学振は通ってないようなので,やはり5段階評価で言えば1,よくて2程度のレベルの人材だ,という事が僕の結論です.

後半のSTAP騒動についての記載は,8割程度は事実なんだろうと思います.小保方氏のように質の低い研究者がNatureに論文を通すコツやしきたりが分かっている訳はないし,実験の正しい進め方さえ把握しているとは思えないので,「若山さんや故笹井さんのただ言うことを聞いてただけ」は,本当だと思います.全く認められることのなかった若山・小保方論文が,政治力を持ちたい故笹井さんの手ほどきによってNatureに掲載されるまでに大きく化け,STAP騒動の引き金になったこと,さらに,捏造問題の発覚後,笹井さんをよく思わない勢力によって壊滅へのストーリーが展開されたことも,この世界ではどこにでもある政治的展開です.そういう点で,捏造論文をNatureに発表する機会を実質的に作った笹井さんが,責任をとって自殺した,というのは筋の通ったハッピーエンドであるように感じています.むしろ僕にとっては研究レベルの低い小保方氏と,それを見抜くことも出来ない恐らく同レベルの若山氏が供にしらばっくれ合ってるように感じています.結局,類は友を呼ぶ,訳です.

こう言っては元も子もないのですが,僕自身は,理研に優秀な研究員なんてほとんどいない,と昔から思っています.イギリスでポスドクをしながら次の職を探していたときに,理研の募集要項までは取り寄せたものの,どうも周りの人や組織の質が低そうだから応募を見送ったという経緯もあります.結局,まとめとしては,「研究者を名乗る非研究者達の壮大な茶番劇」はまだまだ続きそうだな,という感想です.このコーナーにも昔から何度も書いていると思いますが,ほとんどいないんですよこの世界に研究を心から愛する研究者って.

最後に少し違った視点になりますが,日本のメディアの「無意味に人を持ち上げてどん底までたたき落とす」という残虐なやり口には賛成できません.効果的にいじめるために,わざわざレベルの低い人を一旦持ち上げてその気にさせておいて突き落とす.子供のいじめ業界から見ると,とてもいいお手本になりそうです.でも,今回の騒動は,理研やメディア(いじめた側)には大きな誤算がありました.それは小保方氏のバイオハザードに出てくるゾンビ並の生命力です.いじめられた側の反撃がこれで終わるはずも無く,第二弾,第三弾と長きにわたり手記のような形で情報が一方的に発表されるでしょう.まだまだ楽しませてもらえそうです.