おまけ

科学界の悲報?それとも朗報?

2014.02.19

共同研究の打ち合わせのために第二の故郷,イギリスのベルファストに来ています.こちらに来ると,東大の薬学部では考えられないくらい歓待を受けるので,自分がよく分からなくなってきます(苦笑).週末には小さい食事会が催され,10年前にポスドクで所属していたクィーンズ大化学科の新しいスタッフと意見交換もできました.日本には僕より年上の研究好きな人があまりいないので,とても良いリフレッシュとなりました.

さて,最近の科学界の話題はSTAP細胞の論文に関する様々な疑惑.僕としてはそもそもなぜ,最初の時点であんなにマスコミがとりあげたのか,がよく分からないんですけど,日本人てすごく非現実的な話にだまされやすいんだなぁ,と改めて思いました.論文が間違い(最悪は捏造)かどうかはまだ結論を出すべきではないですが,僕でも邪険にされるNatureのエディターと30才の今まで大した論文も出したことのない人が対等にやりとりを出来るわけないので,共著者の誰かが強い影響力を持っているはず.なのに,その裏ボスが全くなりを潜めていて,その30才の人ばかりが取り上げられる.恐らく自己顕示欲の強いその人,と担ぎ上げたい裏ボス(理研も含む)の意志がぴったりマッチングして今回みたいな(僕には異様にしか見えない)事態になったんだと思います.でも画像の使い回しとか不適切な画像処理をしていたことは間違いないようで,科学者にしては随分手癖の悪い人達だな,という感想です.でもそれは記者会見とかの雰囲気で分かるんですけど,メディアも一般人もコロコロとだまされすぎです.

そのSTAP細胞の騒ぎに隠れてしまっていますが,東大薬学部関係者も不適切な活動が止まらないようです.
「国主導のアルツハイマー病研究で改ざんか」朝日新聞2014/1/10
「告発メール転送,厚労省職員処分へ」朝日新聞2014/2/14
これ,詳細は新聞記事を辿って頂きたいのですが,不思議と朝日新聞だけ異常に執着していて上の2つ以外にも定期的に記事になってます.僕からしてみるとプロジェクトリーダーがデータ改ざんの嫌疑をかけられる時点でもうアウトなんですけど,今の教授にはそういうのを避ける矜恃は無いみたいです…ただ単に部下のコントロール能力が欠落しているのかもしれませんが.でも,これ厚労省や東大が調査するみたいですけど,今の厚労省や東大に自浄作用なんてないので全く時間の無駄ですよね.責任逃れの好きな人達が落としどころをどこにしようかなぁ,なんて適当に決めてるだけですから.

「福山研より溶媒/不純物ピーク除去NMRチャートを訂正する旨のCorrectionが多数」化学ポータルサイトの見出しより
こっちは尊敬していた福山研からの不適切行為で触れにくいんですけど,そこで目を背けたら僕じゃないので.これ,NMRスペクトから溶媒とか不純物のピークを画像処理で消していた,っていうことなんですけど中学生や高校生じゃあるまいし,なんでこういう事態になるのか,さっぱり理解出来ないです.馬鹿な学生が勝手にデータをいじくり回している(その場合,問題は学生の倫理観の低さとスタッフの管理能力不足になる)のか,倫理観の欠落したスタッフの主導のどちらが原因なのか.これはOrg. Lett.誌のみの訂正なので,他の雑誌に発表した論文でも同様の不適切行為が行われていることは間違いなく,それらをどうするのか.また,今回の訂正はOrg. Lett.誌の主導なのか,研究室による自発的なものなのか.もう信頼は失っているので,それを少しでも回復するべく,全貌を説明して欲しいと思います.にしても,このラボ,就職先は製薬会社ばかりで,そりゃ分野は違っていてもノバルティスでああいう問題が起きるのもうなずけます.

とまあ,今の研究界は右も左もこんなのばかりです.この世界にいると,こういう悪事はごくごく一部どころか,まともなラボを探す方が苦労する,というところまで来てしまってます.そもそもスタッフはもっと科学に対して謙虚にならなければいけませんよね.そして性善説によるラボ運営を一切やめるべきです.「こんなことをするとは思わなかった」みたいなボスの言い訳,「こんなにリーダーシップのないボスだと思わなかった」と同じだと気づかないんでしょうか.でも4年生で研究室に配属されてから,いやその前をさかのぼっても「研究者としての倫理」を学ぶ授業は皆無なので,そこが欠落している人が多いのは致し方ないのかもしれません.こういうのは視力の劣性遺伝と同じで,代を重ねるにつれ悪い方に寄っていくでしょうから.

こういう事例を見るにつけ,自分の潔癖さを改めて素敵だ,と思ってしまう訳ですが,僕がある程度良いジャーナルに論文を通せるのも,大きめの予算に難なく通るのも,その誠実さが効いているのかもしれません.そういうことをもっと後輩に伝えられれば,おかしな悩み方をする研究者は少なくなるかもしれませんね.日本全国どこでも「誠実な研究者とは」というタイトルで講義をしますので,要望があればぜひ呼んで下さい.

さて長くなりましたが,最後に告知を.僕,学会やシンポジウムでしゃべるのが好きじゃないので,依頼講演とか招待講演をなるべく避けてきたのですが,奈良女時代の後輩にお願いされてしまったので,化学会のシンポジウムでしゃべることにしました.ちょうど,先端計測のプロジェクトが3月で終わるので,温度ネタのまとめにしようと思います.もし化学会に参加される方で興味がありましたらぜひ時間を見つけて聞きに来て下さい.有意義な時間になるよう,公演後のディスカッションも積極的に行いたいと思っていますので,よろしくお願いします.
セッション名「次世代の創薬技術開発に向けた医工薬連携」 3/27 13:30より