大学のあり方
だいぶ昔の話になりますが,今年のノーベル医学生理学賞の一人はiPS細胞の山中教授でした.マネージメントに特化するスタンスに少し違和感は残るものの,将来性やインパクトに文句のつけようもなく,論文発表からわずか6年での受賞というのも納得です.関係者の方々,おめでとうございました.
ところで当の山中教授よりも脚光を浴び,恍惚の表情を浮かべていたのがiPS細胞を初めて臨床応用したはずの,森口さんです.残念ながら,大嘘がばれてしまいましたが,この騒動こそiPS細胞が祭り(パチンコでいうならフィーバー?死語・・・?)である証拠.この分野は何でもありの入れ食い状態なのです.
話の本題はここからです.森口氏のようなハッタリによってキャリアを確立しようとする人は,この世界では珍しくありません.驚いたのは,今回のように何の実験的証拠も持ち合わせられない人が,東大の正規の研究員(ポスドク)だったことです(びっくりその1).そして,さらに驚かされたのは,例の騒動後,森口氏をすぐにクビにして事態の終息を図り,当人を雇っていた医学部の助教(三原とか言う人らしい)や医学部が何の責任も取ろうとしないことです(びっくりその2).出身である医科歯科大の教授も含め,全ての関係者が「森口氏」によってだまされた被害者を演じている,というわけです.
この一連の出来事は,マスコミで報じられている以上に,複雑な要素が絡んでいる思います.まず,森口氏を雇っているプロジェクトは,内閣府の最先端・次世代研究開発プログラムという,若手研究者がもらえる中でも最もレベルの高い研究助成です.従って,「(何かの間違いで)東大にもそんな人が紛れちゃった」ではなく,「東大の,そして学術的にトップレベルにあると認められた研究プロジェクトに,森口氏のような人が(普通に)いる」んだと思います.自分も大きな研究予算のリーダーになっているので,状況はよく分かります.優秀な研究者はみんな定職に就いているので,いざ自分の研究が最先端であると認められ多額の予算がついたとしても,やる気も能力的にも一枚も二枚も劣る在野の研究者(ポスドク)を探すしかないのです.一つの研究プロジェクトに優秀な研究者を集めにくい,というこのジレンマをどう乗り越えていくか,国の予算を使っている研究者に突きつけられた課題です.
そして,我が薬学部と同様に医学部でも,いや恐らく東大はどこでも,結局何か不都合があったときに切られるのは身分が下の人間です.こればかりは変えようがない.捏造をした森口氏がクビになるのは当然としても,論文の共著者やプロジェクトリーダーも等しく研究者(そしてリーダー)の資格に乏しい,ことは明白です.なぜ,この三原助教や医学部の上層部は,自分から謝罪するという研究者としてのプライドが無いんでしょうか・・・普段は上の立場で偉そうにしているくせに,こういう時にその常勤教員がだんまりを決め込むなんて,いやはや大学というのは恐ろしい組織です.いやでも過去の経験を思い出させられました.
自分の元所属研究室の研究費不正問題があったときに,実際に問題を起こした教授より,な~んにもしていない(=だから悪い?)自分の方が切られそうになったので,この状況も手に取るように分かります.当時は,自分に不都合が起きないように色々な情報を掴んで武装しておいたから,まだ今のような,抹消寸前のアングラ組織扱い,で済んでいる訳です.先日,東京新聞の紙面上に,所属研究室の教授による研究費不正使用を告発したら,研究室からだけではなく学部から村八分扱いになって研究を進められない程の嫌がらせを受け続けている金沢大医学部の准教授の話が載っていましたが,そりゃそうなるでしょうよ,と.その辺の正義が国立大学で通用しないなんて,もはや常識です.
それにしても自分に関して言えば,学部から粗末な扱いを受ければ受けるほど,日に日に外部研究者から研究面を評価されていきます.これ,何の皮肉でしょう?(笑).図らずも,今の薬学部が研究組織でない事を証明しちゃっていますね.先日も,面白い成果を出している研究グループとして,JST理事長による直々の研究室訪問を受けました.来てみたらこんな抹消扱いの研究者(研究室)だったということに,笑っちゃうのですが.うちの学部も若い教授をはじめとして個人個人ではいい人もいるんですけど(中には気にかけてくれる人もいます),組織にまとまると保身に終始しますよね.日本的組織の腐敗ここに極まれり,なので,もっともっと研究成果を出し続けて,文科省や政治的なルートを使って学部に喝を入れるとしましょう.下は見て見ぬふりをするけれど御上の声にはすぐひれ伏すでしょうし.これぞ内山流世直し.頑張るぞっ!