国際会議に参加して
温度センサーの論文を今年初めに公表したのを受けて,2年ぶりに国際学会ツアーを敢行しました.先週は韓国を訪問し,中1日の強行日程で今週はポルトガルに来ています.その日程も最終日の夜を迎え,あとはぐっすり寝て長い長いフライトに備えるだけになりました.
論文になっているので当たり前といえば当たり前ですけれど,今回発表した細胞内の温度計測に関する成果は評判が良く,些細なケチさえも一切つけられず,ただただ賞賛の詞を浴びるのみでした.内容の目新しさもそうですけれど,論文を書くときに「これでもか」というほど構成を考え抜いたので,スキの無い仕上がりになっているというのも,その一因でしょうか.
「既に論文を読みました」だけでなく「(その論文を)文献紹介しました」なんて声も聞かれ,研究者にとって教科書のような礎の論文を書いてしまったなぁ,と改めて悦に入りました.個人的に,生細胞のイメージングには全く思い入れが無いんですけど,余計な先入観を持たなかった事が却って良い結果を招いた好例かもしれません.
ところで,ここポルトガルのようなのんびりとした国に来ると,やはり日本の研究環境はもはや異常だ,と思わされます.何をもって異常と言うかは難しいんですけれど,大量のお金や労力を科学政策につぎ込んでるくせに,発展よりも衰退,進化よりも退化にわざわざ邁進してるイメージです.もっともっと物事はシンプルに考えればいいんだと思います.これは好き,これは嫌い,これは意味がある,これは意味がない,など,研究者になった自分の感覚を信じて常に自分に正直でありたいものです.
それとも関係して,最近,何事もすぐにタブー化する日本人の二面性気質と,情報過多社会は非常に相性が悪いように感じています.人間一人の出来る事は元来もっとわずかで,そして多様なはずだと思います.仕事で使う分には仕方ないんですけど,インターネットからの情報は90%以上無意味なものであり,むしろ無意識にだだ漏れで入ってくる多くの情報により仕事の質が低下する恐ろしさを感じています.別の言い方をすれば,画一的な知識と引き替えに生き物としての五感を鈍くするばかり,です.今の時代,研究に限らず,仕事やプライベートでうまくいかない人は,情報中毒にかかっているのではないでしょうか.色々な事を同時に考える能力なんて殆どの研究者にはないのですから,もっともっとシンプルに課題を設定したいものです.
研究者って「色々な場所に行けて良いですね~」って言われます.でも本当はそんな事より,普段本郷のラボにいる時に,延々と自分の好きな事(研究)をしてる事実の方がはるかに幸せで嫉妬されるべき事だろうと思っています.この学会参加で,細胞内の温度分布計測については一つの区切りになりましたので,また帰国後,面白い成果を目指して実験を開始したいと思います.