おまけ

パラダイムシフト

2012.5.6

新年度を迎えて1ヶ月が経ちました.最近はNature Communicationsに発表した論文の反響を楽しんだり,一年限定の科研費(萌芽)に採択されたのでその実験を開始したり,と充実した日々を過ごしていたのですが,また適当に所属研究室を変えられて,「一体どれだけたらい回しにするつもりなのー?」と憤りも感じています.そんなにコロコロ所属を変えるなら,いっそのこと所属研究室の数の多さをギネスブックに申請できるくらい頻繁に変えてくれても良いのに,と思ったりもします.実際には,研究内容や研究場所は一切変わってませんので,ご用の方々はくれぐれも混乱しないで下さい.学部の対応はこんなモンです.至らずに済みません.

今回のタイトルにしたように,そろそろ研究界にもパラダイムシフトが起こって,少しはまともな研究社会が形成されて欲しいと願っています.そんな中,悪が駆逐される,という点においてはこの春に大きな前進がありました.僕は,昔から「捏造」行為を働く偽研究者の生態に強く興味を持っているんですけれど,この春にすごい大物が告発されたようです.分野が全く違うのでこれまで知らなかったんですけど,我が東大の分生研の超大物,加藤茂明元教授こそその人です.この元教授,ERATOを始めとする巨額予算を取りまくっている他,CellやNatureなどの業績も申し分なく,知る人ぞ知る(元)超大物研究者だったようですが,それらを始めとする論文をよく調べてみるとデータの不正流用(コピー)が出るわ出るわのお祭り騒ぎ.さらに個人的に感心してしまうのが,この元教授,学会などが企画する研究者の倫理面の啓蒙活動を積極的に行っていたというから,もうこれはヘタなお笑いを超える衝(笑)撃の展開と言えるでしょう.

本人は3月末に教授職を辞任してしまったようで,その潔さにいくらか溜飲を下げる部分はあるものの,どれだけの研究者が不正に関わり,どれだけの予算が不正論文に使用されていたのかを明確にすることもなく,実家に帰ってしまうというのは,それまでに浴びてきた賞賛の対価としては不釣合な責任の取り方だといえます.

僕の感覚としては,研究者たるもの,疑惑を持たれる時点で即アウト.というのも,普通に研究成果を発表している限り,疑惑を持たれるなんてことはまずありません.今現在も,大学や学会が真実を明らかにするために,委員会の名の元に調査がされていると思いますが,こういう疑惑に「疑わしきは罰せず」なんていう激甘な裁定を下す大学や学会には,もはや研究機関としての役割は認められません.

今までの同種の不祥事に対する処分をみると,私大の方が厳格に処分を下すようですが,国立大学や学会みたいな公的な機関は,そもそもこういう事態にオロオロするだけで,形式だけの調査に終始してしまいます.もちろん予算の出所である文科省,学振,科技団あたりの行政機関がしっかりと事実を明らかにし,その上で責任を追求すればいいのですが,これらの行政機関も輪をかけてだらしなく,裏でこっそり手打ちされるなあなあな結論での幕引きにはいたく失望させられます(この辺は元々所属研究室の問題で経験済みです!).

僕のような純粋な研究大好き人間からするととても残念なことですが,東大のようなトップクラスの研究機関では,研究欲ではなく名誉欲(それとも政治欲?)に溺れている人が多いため,こんなケースはざらにあると確信しています.敢えてリンク先を書くことはしませんが,インターネット上には捏造研究者の告発サイトがあり,告発されるべき研究者がずらずらっとリストアップされています.

そして研究界の闇は,こうした目に触れるもの以上に深い印象です.例えば,今回の加藤元教授のケースはかなりの大物であることから,交流のある研究者は大学内や所属学会内に多々いるはずですが,そういう周囲の研究者も,捏造という一線を越えていないだけで,もはや研究者とは言えない錆びた目しか持っていないので,身近な人の研究への冒涜行為を見抜けないのです.以前に工学部で起きたセルカン問題の時に,どこぞの誰かが「こんな事は他のケースでは無いんですが・・・」なんて間抜けなコメントをしてましたが,まあそういう人達には一生見抜けない問題でしょう.

今回のようなふざけた元教授の愚行(捏造をしたというよりは,実行犯の部下をイエスマンなばかりに過信して,結果的に大捏造グループを形成し,本人はしたり顔でデタラメな科学を世に広める)には特に腹が立つので,毒のある文章になりましたが,もっとも僕自身,最近は大物と呼ばれる研究者に疑問を抱くことがめっきり多くなっています.

それは,論文審査でのこと.Chem.Lett.のような日本の英文誌でない限り,日本人の研究グループの論文を審査することはまれですが,欧米の有名誌からも審査の依頼が全くないわけではないんです.名前は出しませんが,化学の世界で名の知れた研究者(研究グループ)の論文でもとんでもないのが結構あるんです.研究に対する姿勢として無茶苦茶なのが.恐ろしいですよ,化学会とか薬学会でよく見る研究グループの裏側が垣間見えるようで.

やっぱり帝大の教授くらい偉くなっちゃうと,生の実験データなんてどうでもよくなっちゃうんでしょうか?でもここまでひどい現状だと,近いうちに何らかの暴走が引き金となって研究界が激変し,結果として一転正常化する雰囲気も少なからずあります.こんな時代だからこそ,王道は地道にコツコツですかね・・・僕がそんなことをいう時代がまさか来るとは,世も末です.