格差社会に生きる
新年明けましておめでとうございます.
振り返ってみると2011年はいまいちな年でした.1998年に生涯最初の論文を発表して以来,2010年まで毎年コンスタントに出してきた論文を途絶えさせてしまいました.日本語の解説記事も招待講演もゼロ.震災の影響がほんの少しはあったとしても,自分自身の反省材料も多々ありました.自分なりに原因を把握しているつもりなので,今年は違った姿を見せられるよう精進します.
世の中がどんどん格差社会になっていくように,研究や大学の格差化も進んでいる印象です.新聞で読んだところによれば,格差社会というのは,その社会を構成する各層のレベルや待遇の差が開く事自体を指すのではなく,各層の行き来が困難になり社会の中の立場が固定化してしまう事を指すようです.
研究の格差化に関して,いまさらながら水月昭道著の三部作「高学歴ワーキングプア」「アカデミア・サバイバル」「ホームレス博士」を熟読しました.誰からも必要とされない下層というのはなんとも救いようが無く,哀れなようですね.仕事(研究)に対する取り組み方の違いに驚くばかりです.これらの本には自分の知っているアカデミックの世界とはおおよそ違う世界が描かれているので,それだけ研究格差が現実になっているのでしょう.この三冊は博士課程の学生やポスドクにとって,リトマス試験紙の役割を果たすと思うので,必読図書にしようかと思っています.もし,これらの本の内容に共感出来てしまう人は,それこそワーキングプアへまっしぐらだと思うので,将来に不安がある人は読んでみると良いと思います.
翻って,大学教員という立場から自分の事を考えて見れば,研究面では,雑務がない上に自分でテーマを設定できて,さらに研究費も潤沢に頂いているという超優遇を受けているのに対し,教育に関してはそもそも学生と接する機会もない,という下層ぶりです.ただ,もう学生に関しては自分でどうにかなる問題ではないので,今の状況を積極的に受け入れてみようと思っています.下層は下層なりの楽しみ方があると思いますし,鬱病の人に「はい君,戦力外です」なんて言えない世界で,「一流の研究を目指す」なんて戯れ言の極みなようにも感じますから.
ということで,2012年はもう一度化学をしっかりと突き詰める土台作りの一年にしようと思っています.まずは,純粋に化学のおもしろさを追求し,他の誘惑に打ち勝つ強い心を身につける.合わせて,外の上質な研究者との共同研究を多く実現するべく,受けの広い体制を常に作っておこうと思います.研究にオリジナリティー(個性)が重要だと考える限り,研究格差は解消してはいけないものです.恵まれた立場にいる人は,もっと差を開くよう邁進しましょう.僕も化学者としてそれを実行し,さらに少しでも他の科学者の力になれるよう,準備をしたいと思います.