おまけ

ポスドク問題を考える

2011.9.17

日本に帰ってきました.

イギリスに滞在中は時間を贅沢に使う事ができました.何ら違和感を感じる事なく研究活動に励むことができたので,その悠久の時間の中で,ポスドク問題に代表される日本の変な研究社会が,どうしたら改善できるかを考えてみました.日本では,凝り固まった組織や制度を変えるのは難しいので,まずはポスドクや研究者を目指す大学院生といった若い世代の意識を変える必要がありそうです.

これから研究者を目指す人にしっかりと認識して欲しいのは,日本には「研究者」と呼べる大学人が極端に少ないということです.例えば東大でも教員の10%は研究者と呼べるものの,残りのうち10%が教育命の教育者,そして残りの80%が研究が好きという一面を見せつつも地位や賞を名誉に感じるエセ研究者です.最後のカテゴリーの人々は,「政治家」と言われることが多いですけれど,「政治家」としてのプライドよりは「研究者」としてのプライドをもっているという二面性があります.

このように日本の大学が「研究者」とは呼べない多くの人々で構成されている事を考えれば,そこを卒業してきたポスドクの大半も「研究好き」ではあるものの,決して「研究者」のカテゴリーには入らないように思います.よって,ポスドクが定職を求めて何かを自己アピールする場合,そのポイントが残念ながら「研究者」の範疇をはみ出してしまっているケースがほとんどです.また研究は,不安定であることが全ての始まり(世の中の科学現象が普遍で安定であれば研究の必要はなくなります)なので,ポスドクや学生が研究職を安定な職種の一つだと捉えること自体,もう研究社会が支離滅裂になっている証拠であるといえます.

9月は学会シーズン.学会に出てみるとよく分かるのですが,若くしてつまらないこと(オリジナリティーの無いこと)をやっている人があまりにも多いです.研究の方向性は周囲の影響を受けるものだから,まだしょうがないにしても,研究者としてなぜそのテーマになぜ取り組むかの必然性がなさそうに見えるし,少なくとも伝わってこないんです.例えば,「○○イオンセンサーの開発は重要である」とか「○○のイメージングが求められているとか」.どこかで聞いた事を本人が咀嚼せずにプレゼンするもんだから,なんだか寝言を聞いているみたいな気分になってきます.政治的配慮なのか,それを「優れた発表」なんて祭り立てるから,研究社会がおかしくなる.学会に参加している多くの人は,新興宗教と同じで思考が麻痺してると思いますし,それをポスドクや学生が,研究社会の常識だと思ってしまう事がなによりの問題です.

もう一つ別の観点.常々,日本の組織は協調性が重要だ,なんていう大嘘をなんとかしたいと思っています.確かに,誰とも協調できない人は,社会人として失格ですから,そういうポスドクがパーマネントの職に就けることなんて未来永劫ないでしょう.でも,どんな人とでもうまくできる人は,少なくとも「研究者」の素質はありません.「研究者」であれば,自分一人でも正しいと思うことを正しいと主張できる,また逆に,おかしいと思うことをおかしいと主張できる資質が必要です.これは数年かけてたどり着いた結論ですが,「研究者」であればだいたい3~5割の人とうまくできれば問題ないです.逆に,残りの5~7割の人とはチームを組むのを拒絶するくらいで丁度良いのではないでしょうか.相性の悪い人と一緒に研究を進めるなんて,時間の無駄遣いでしかありません.ただここで注意して欲しいのは,テーマに関してはどんなテーマでも形に出来ないと「研究者」としては失格です.たまに「テーマが悪い」って学生が言ったりしますけど,もうそれだけでその学生は研究者の才能の無いことを露呈してしまってます.

最後に指摘しておきたいのですが,ポスドク政策を牛耳る文科省を信じることも当然間違っています.行政に楯突け,という訳ではありません.そもそも文科省には「研究者」がいないのです.学生の時,「研究者」の資質に乏しく,官僚にふさわしい資質を持っていることを悟った人達が官僚になっていく訳ですから,研究に対する政策なんて愚策ばかりなのも無理はありません.もちろん,日本に住んでいて税金を使っている以上,国の科学政策を参考にしなければいけませんが,若くして国の方針に従えば,転落の研究人生が待っています.

厳しいと言われるアカデミックポジションの現状ですが,僕の印象では,普通の研究者としての資質を持っていさえすれば,ポストに付けない世の中ではないと思います.「研究者」とは,また「研究」とは,ということをじっくりと考え,それに対する自分なりの考えを持つだけで良いのです.上に書いたとおり,教授,准教授らと合ってなくて当然です.普通の社会でもそうなのかもしれませんが,大多数が本質から外れているのが現在の研究社会です.どうでしょう?少し発想を変えるだけで,好きなだけ研究に浸れる夢の時間が待っています.そこのあなた,アカデミックポジションに興味が湧いてきませんか?ようこそ,魅惑の世界へ.