軌跡~-_科学と旅_-~

プログラムオフィサー制度の現状

The Story and Present State of Program Officer System


プログラムオフィサー制度の課題


 PO制度の導入から5年が経過したが,研究費の投資効果が目に見えるようになるまでの期間に比べれば,まだまだ短い.したがって,PO制度導入の成果について議論するのは早すぎるかもしれないが,制度運用についての定期的な検証は継続的に行われなければならない.


(1)現状の課題

 総合科学技術会議(CSTP)により掲げられた“各競争的資金制度は,PO・PDの基本的な役割が十分果たし得るマネジメントシステムの構築を行い,第2期科学技術基本計画期間中(平成17年度まで)に,PO・PDの最終的な配置体制を完了する”という目標は,外形としては達成されたと言える.しかしながら,実際の配置内容に関しては,平成19年6月14日にCSTP基本政策推進専門調査会によりまとめられた『競争的資金の拡充と制度改革の推進について』に述べられているように,“PO・PDの多くは非常勤であり,かつ,人数が少なく,一部の制度では本省職員が兼務しているなど,当初計画していた役割を十分には果たせていない場合が多い”という状況であり,現時点でも,改善されたという話は聞かれない.

 さらに,『国の研究開発評価に関する大綱的指針』(平成17年3月29日内閣総理大臣決定)に述べられている,“競争的研究資金制度の適切な運用,研究開発課題の評価プロセスの適切な管理,質の高い評価,優れた研究の支援,申請課題の質の向上の支援等を行う”というPO制度導入の目的の達成状況の観点で見ると,厳しい調査結果も報告されている.科学技術政策研究所が実施している『科学技術システムの課題に関する代表的研究者・有識者の意識定点調査』[8][9]によれば,「PO・PD 制度は充分に機能していると思うか?」という質問に対する回答者の評価は,10ポイント中3.7ポイントとなっている.この評価は,平成18年および19年と変化がない.

 前述のように,日本におけるPO・PDの位置付けや権限,役割は競争的資金により多様であり,この調査結果がPO制度全体の実状を反映しているというにはさらなる分析が必要である.ただ,報告書が指摘している通り,PO制度自体が,その導入から相当の期間を経た段階であるにもかかわらず,具体的に十分認知されるまでには至っていないことは確かであると思われる.また,この調査報告書では,「PO・PD制度の機能を充分に発揮させるために障害となることについての自由意見」が多数紹介されているが,回答者が求める期待に現在のPO・PDが十分応えていないという実状の表れとなっている指摘も多い.


(2)今後への期待

 導入目的にかなったPO制度の確立に向け,制度設計側およびPOコミュニティの双方の努力が期待されている.特に,前項で述べた各課題の解決を目指した具体的事項について,以下に記す.

 『第3期科学技術基本計画(平成18〜22年)』は,PO制度について次のように述べている:

 各競争的資金制度を支えるプログラムオフィサー(PO),プログラムディレクター(PD)について,制度の規模に見合う人数で,これらの職に適切な資質を備えた者を確保できるよう,処遇に配慮する.また,大型の制度を中心として,できるだけ早期にPO・PDを専任へ転換していく.さらに,PO・PDが研究者のキャリアパスの1つとして位置付けられるよう,研究者コミュニティ全体が,PO・PDの職務経験を適切に評価することを期待する.

 米国の大学教授には,自身の給料を含むほとんどの経費を,競争的資金を始めとする外部資金から得ているケースも多いと聞く.研究費に占める競争的資金の比率に関する日米間の相違からは,研究者の競争的資金への依存度が,POの影響度やその役割の重要度に比例し,さらに,制度の認知度やキャリアパスとしての魅力度に直結するとも考えられる.制度設計側には,PO制度に関し,その導入後5年間が経過するとともに,第3期科学技術基本計画期間の折返し点を過ぎたこの時点で,幅広い視点からの現状分析に基づく検証と制度の一層の改善が望まれている.

 各競争的資金制度のPDが参集するプログラムディレクター会議により,資金配分システム間の連携が図られようとしている.また,米国では,FDP(Federal Demonstration Partnership)と称する,研究資金の配分機関(FA)と大学等の受託機関とが一堂に会して研究資金制度の改善についての意見交換を行い,モデル事業を通じて改善策の効果を例証(Demonstrate)することにより一般化していくという取組みが,1986年より行われている[10].この活動には,POや研究者も参加している.これに倣って,文部科学省は,“日本版FDP”と称して,「研究費の効果的活用に向けた勉強会」を平成20年3月より進めている.この場には今のところPOは参加していないが,このようなトップダウンの取組みのみならず,学会等のコミュニティの場において,異なる競争的資金制度のPO間で,あるいはこれらPOと研究者との間での一層の交流と情報共有,議論が望まれている.


[2008-08-20]


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