食品需要予測の方法

(1)食生活の趨勢

自動車産業は「組み立て産業」と呼ばれことがあります。それぞれ独自に生産されたエンジン、タイヤ、ボディ、計器、内装などの部品を、最終段階で組み合わせて完成品にするからです。自動車の実需者にとって必要なことは完成品のモデルをみて、価格と収入と好みに合った車を選ぶことだけです。しかし、この消費者の選択は経済全体にとってきわめて重要な意味をもちます。実儒者の選択の移り変わりによって自動車のモデルが変化するばかりでなく、その影響はモデルを構成する各部品の型や生産量を変化させますし、各部品に供給する原料も変化させます。消費者が自動車のモデルを自分の意向に合わせて選択するというただそれだけで、自動車産業は生産システムを変化させ、経済全体を変動させるのです。

この消費構造はひとり自動車産業に限りません。住宅を購入するにしても、消費者は建売住宅やマンションを価格と収入を勘案し、好みに合わせて選択しますし、住宅を注文するにしても、特異な人以外は自分で住居を建てることはありません。衣類にしてもそうです。昔は着地を買って自分で着物や洋服を仕立てたものですが、いまでは消費者は好みに合ったファッションを値段と懐具合を考えて選ぶだけです。しかし、この消費者の選択によってデザインはもちろんのこと、衣類産業は生地を作るための羊や蚕の飼育にいたるまで生産の構造と水準を変動させます。

こう考えてまいりますと、調理食品産業や外食産業が食品産業において自動車やマンションやファッション産業に匹敵する「組み立て産業」にあることが分かります。消費者がある調理食品やある外食メニューを選ぶだけで、調理食品産業や外食産業ばかりでなく、それと関連する食品工業、食品流通業、農畜産業、水産業が変動します。さらに、それは環境問題や安全保障問題、資源問題にまで発展していきます。

もちろん、家庭や個人で料理する人はまだ多くいるでしょう。しかし、家族人員が多いほど一人当たりの食費が安くなるという「規模の経済」は、核家族化や少子高齢化によってその効果を失いつつあります。女性の社会進出による収入の増加やレジャーなどの効用拡大は主婦が料理する「機会費用」を上回ってきています。食生活の大勢は今後も調理食品や外食の利用に向かって展開していくのではないでしょうか。

他方、消費者が自分で料理することは、「食の外部化」によっては得られない消費者の主体性を確保する意味で、今後とも依然として重要です。この二つの潮流がどのように噛み合っていくのか、人間存在にとってきわめて重要なことであろうと思います。こんなことを考えながら、食品需要の短期予測をしています。(唯是)

(2)「中食」の概念

「調理食品」の代わりに、しばしば「中食」という言葉が使用されることがあります。「中食」とは家庭で食事をする「内食」とレストランなどの給食施設でとる「外食」との中間に位置付けられます。調理食品を買ってきて、職場や公園や乗り物のなかなどで食べる状態を指します。したがって、これはあくまでも消費者の消費形態、一種のライフスタイルを示す言葉で、食品の需給関係でいえば、需要サイドの言葉だと思います。

ところが、これを供給サイドの問題として一定の食品群をさすのに用いられる場合が見受けられます。中食的な消費形態を想定して商品開発をすることはありますが、消費者がそれを供給者の思惑通りに「中食」として消費してくれる保証はありません。また、供給者にはそれを強制する権限もありません。農水省は「中食」を直ぐ食事できる、日持ちしない調理食品とみなし、それには消費者が一切加熱処理しないことを条件としています。しかし、消費者がこれをさらに調理したり、他の食品と組み合わせたり、長持ちさせて消費する可能性は常にあります。

食生活情報サービスセンターでは「中食」を家庭で消費するための、外部で調理した食品と定義していますが、「内食」も素材として調理食品を使うことがあるわけですから、これでは「内食」との区別がつかなくなります。このような混乱は元来、需要サイドの概念を無理に供給サイドの概念に置き換えようとすることから起こるのです。

ただ、こうした不徹底な食品供給は食品提供のさらなるサービス化を促します。デリバリーやケータリングがそれで、これは供給者が食品消費の場所と時間、消費者のライフスタイルに直接対応しようとしているわけで、ここまでくれば供給サイドからも食品群としての「中食」概念を定義してもよいかもしれません。

しかし、供給サイドとしては「調理食品」を「加工食品」の延長線上に考えたほうが妥当なように思います。「高次加工食品」とか、「サービス加工食品」とかいうほうが供給サイドの特徴をよりよく表しているように思います。(唯是)

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