【 彼 岸 花 】
= 彼岸花 −りん− =
―――― 一面の、赤。
風にそよいで、野火のよう。
熱さのない、炎のように。
教えてくれたのは、死んだおっかぁ。
( 花が咲くから、ああ、もうそんな時期なんだって判るんだよ )
( そんな時期? )
( 彼岸だよ。あの世とこの世が近くなるのさ。だから、お願いするんだよ。どうか、皆が元気に過ごせます様に、お守り下さいってね )
そう言って、おっかぁは赤い花を何本も折った。
( 花をお墓にあげるの? )
( そうだよ。私らのように貧しい者でも、お陰でご供養が出来るってもんさ )
それからりんはおっかぁと、古ぼけた小さな石のお墓に花を供えて、お願いをしたんだ。
小さな手を合わせて、一生懸命お願いしたんだ。
でも……。
りんが小さかったからかな?
ちゃんとお願いしたのに。
次の年、りんは一人で花を供えた。
自分で作った、ちっぽけなお墓に。
―――― もう、お願いはしなかった。
それから、幾度目かの秋。
いつだったか一面に広がる赤い花を見て、邪見様が呟いた。
( ……ここは昔、大勢の人間が死んだ所じゃな。花の色が血のように赤いわい )
( 邪見様? )
( ……花は、花じゃものな。死んでしまえば、皆仏(ほとけ)。敵も味方もなかろうて。この花は、弔い花じゃからの )
そう呟かれた後、邪見様は教えてくれた。
戦場(いくさば)の跡に、良く咲いている花だと。
誰かが弔いの想いでその根を植えねば、咲く事のない花だと。
ああ、この花が赤いのは ――――
命の色を映しているから。
流された血の色で、染まっているから。
残された者の、血を吐くような想いを受けているから。
その花の中で ――――
染まる事のない、白銀(ぎん)
今なら……
今なら……
赤く染まったりんも、彼岸花 ――――
= 曼珠沙華 −殺生丸− =
高みを増した蒼(あお)。
吹き過ぎる風に、時の流れを重ね ――――
目の前の、風に乱される葦原に一群れの赫。
この眸を灼く、鮮やかさ。
歩みより、触れ、手折る。
その、あっけなさ。
……あの日のお前を想わせる。
そう、あの日。
お前を手折り、染めた。
この手で、赤く。
……この花が、時期を巡りて咲き誇るように
お前も、私の胸で咲き誇る。
赤く、赫く ―――
血塗られた罪のように。
赤い 赤い 曼珠沙華。
天上の華よ。
万葉人の、いちしの花よ。
この胸で咲き続ける、赤い花。
私の命が果てるまで ――――
* いちしの花 = 万葉の頃の彼岸花の呼び名
道の辺の いちしの花の いちしろく
人 皆知りぬ 我が恋妻は
詠人 柿本人麻呂
* 花言葉 「悲しい思い出」
2004.10.6 脱稿
【 あとがき 】
…めちゃくちゃ、暗いですね。思いっきり短いSS(?)、むしろ詩、か
なぁ…? 「狂夜」の後書き代りに持ってきても丁度良さそうな内容で
す、これ。でも、彼岸花って、何故だかそんなイメージのある花なんで
すよね。生者と死者を繋ぐ花のような気がして…。
それをどうして【殺りん】で持ってくるかと言うと、これが基本テーマ
だからでしょうね、私の殺りんにおける。
ネクラな管理人ですから^_^; たま〜に、息抜でコミカルな話も書きます
けどね。根っこはこれです。
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