【 花妖の杜 】



*このSSは、リクアンケートで頂いた
「パラレルワールドの中でも他の人とはやっぱり別次元で生きてる二人でそれなりにハッピーエンドな話」が読みたいです!!
とのコメントから思いついたお話です。
パラレルワールド前提ですので、殺生丸やりんちゃんの在り方が通常と異なっています。
それでは、どうぞ♪

あっ、それから^_^;
このお話、出だしはかなり暗いです。死にネタ含みますのでご注意ください。


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 むかしむかし、途轍もない力を誇る大妖がいた。
 その力の根源は、この世の大元である「氣」そのもの。故に歳経た大木でも、天翔ける獣でも、それはどの「形」であってもこの大妖の姿であった。

 あまりにも強すぎる力と誇り高い性ゆえに、この大妖は己ですら忘れてしまうほどの永きに渡って独りであった。無論、それを寂しいとか悲しいとか思う気持ちなど、砂浜の砂の一粒ほどもありはしない。心の赴くままに空を疾風の如く駆け抜け、巌のように午睡し大樹のように佇む。風や岩や樹木がそのような感情を抱かぬのと同じに。

 ある時から大妖の目に、森の木々の一葉ほどにも気に留めなかった「モノ」が目に付くようになった。山裾を開き粗末な小屋を建て、山の柴や小枝を燃やして暖を取る、「人間」と呼ばれる生き物達。
「氣」そのものを糧とする己と比べ、なんと卑小で脆弱なことかと思う。草木や樹木のように大地の「氣」をそのまま享受することもできず、山野に棲む獣の様に生きるためだけに、無欲のまま恨みを残す事無く殺す強さも殺される潔さもない。


( ……生きるに値せぬ、惨めなモノ )


 それでも、その弱々しいモノの数は徐々に増えていき、山や森に寄生して生きていたのが宿主を乗っ取るまでなってきた。山は地肌を晒し、森一番の大樹よりも高く大きな高楼を築く。川の流れは飼い慣らされ、穏やかに田畑を潤す。自然のままの姿から、人間の都合の良い姿へと。
 そう、それはこの大妖の糧である「氣」に、卑小な人間達が干渉して来たという事。。それと同時に、人間達が抱く悪しき想念が、この大妖とは真逆な存在である「妖怪−もののけ−」を生み出した。あれほど荒々しく清浄だった「氣」は、次第に欲や邪な思念にどす黒く染められ、醜い斑模様のようになっていた。
 もともと誰のものでもない山や大地や川を、同じ人間同士で取り合い殺し合う。流される血潮でその地は穢された。

 解らぬと大妖は呟く。
 なぜ、そのような愚かしい所業を重ねるのかと。
 殺しあう人間達の中に割り込み、その場にいた者全てを粛清したこともある。
 大妖を指差し人間達が、「妖怪!」と叫ぶのも聞いた。

( ……解らぬ )

 叫ぶ人間達を、その巨大な爪にかけ牙で引き裂きながら、大妖は思う。在ってはならぬモノならば、なぜこの人間達はここに「在る」ことを許されているのだろうと。その疑問を深く抱えた大妖は、一つの賭けをしてみることにした。この「人間」の目線で世界を見た時に、何か己の心に響くものがほんの僅か一欠片でもあれば、もう何も思うまい。在ってしかるべきモノとして、そこに人間が在るのなら、この世の事はこの「人間」達に任せ、自分は異なる世界に隠棲すれば良い。

 だが、何一つ心動かすものも無くただひたすらに罪悪を撒き散らすだけのモノならば、その時は人間を殲滅せしめんと大妖は紅蓮の炎のような赤い妖眼を光らせた。やがて、その姿は殲滅させるかも知れない人間を模した姿へと変わる。人間を模しても、大妖の本性は覆い隠せはしない。溢れ出る覇気と妖気、人でないモノの強いきらめきを持った獣眸。獣姿の毛並みを思わせるしなやかで美しい艶の白銀の髪。無駄なく均整の取れた容姿は、厳麗な阿修羅のようでもあった。


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「……生臭い風だな」

 大妖は、長い白銀の髪を戦場の風に嬲らせながら、ぽつりと呟く。焼き払われ荒れた大地を見つめる眸には、真紅を通り越して怒りにも似た黒い感情が滲み出している。

 人型に姿を変えて野に下り、幾星霜。

 幾つものの戦を、その眸は映した。
 戦が続き、田畑は焼かれ糧もなく、やせ細り獣以下に成り下がった数多くの人間達。生きながらに餓鬼道に堕ち、生まれてきたばかりの子を殺す親も、老いた親を殺す子も見た。親兄弟を殺され、一人残された子どもの血の出るような泣き声も聞いた。人間の両腕は、物を壊し、焼き払い、奪い、殺す為のものだと大妖は理解した。

「……欲に煽られ他を殺し、殺されて恨みを残す。殺す為に生まれ、殺される為に生まれる。なんと意味のない「生」であることか。判った。もう良い」

 人型を解き、本来の姿に戻ろうとした大妖の眸が、あるものを捉えた。戦場を歩く、痩せこけ傷だらけの幼い娘の姿。

「何をしているのだ、あの娘は」

 訝しげに大妖は眸を眇めた。死者から何か盗む人間も大勢見てきた。戦で死んだ馬の肉を貪り食うだけではなく、それこそ禁忌を犯し、生きながらに餓鬼へと変化したモノもいた。大妖の眸に映った娘も、今にも死者の肉を貪り食いそうなほど飢えているのが良くわかる。もともと大きなつり目がちな黒い瞳は、飢えてさらに大きく飛び出しそうだ。枯れ木よりも細い腕に、平たい焼けさしの板を抱えている。いつ、その足元に倒れ臥している死者の仲間入りをしてもおかしくはない。
 その娘は、辺りをきょろきょろと見回すと、一つの死体のもとへとよろめく足で近付いた。そちらに大妖が視線を向けると、まだ若い女が死んでいた。一つと思った死体は、その若い女の腕に抱えられている赤子の死体を合わせて二つだった。

「赤子の肉を食うつもりか」

 すっと大妖の心は決まった。
 人でない餓鬼に成り果てる前に、あの娘の命を絶ってやろうと。
 気配もなくその娘の後ろに立ち、鋭い爪を光らせたその時、大妖は娘の行動に振り下ろそうとした腕を留めた。
 娘は、その母子の死体にゆっくりと土をかけ始めたのだ。手にした板で土を掬い優しく丁寧に。それは、この幼い娘に取ってどれほどの重労働であろうか。それでも、母子の死体がすっかり土で覆われてしまうまで、娘はその手を休める事はなかった。そうして、母子を収めた土饅頭に向かって娘は、泥だらけの幼い手を合わせ、頭を垂れた。

( 弔いか…。この女は、この娘の母だったのか )

 無惨な光景であってもその娘の行いに、大妖は僅かに救いを見たような気がした。

「母を弔ったのか。幼いのに理のある娘だな」

 今まで人間に声などかけたことの無かった大妖が、この時初めて声をかけた。

「―― !! ―― 」

 その声に振り返った娘の、声を無くす様。
 無理も無い。
 明らかに、「人でない」モノが、今娘の目の前に立っているのだ。どんなに幼くとも、大妖の持つ力の程、恐ろしさに気付かぬ訳は無い。娘の零れ落ちそうな大きな瞳が大妖の姿を捉え、それから畏まったように頭を地面にすりつけた。

「……あたしの母ちゃんじゃない。だけど、そのままにしていたら、あの赤子が食われるかもしれない。だから……」
「だから?」
「食われたら、悲しい。あたしの兄ちゃん達は食われちまった」
「そうか」

 娘の大きな瞳から、ぽろりと大粒の涙が零れ落ちる。

「神様! 神様!! お願い!! 戦をなくして!! もう誰も死なないようにして!」

 娘の目に大妖の姿は、神のように映った。

「あたしの命をお供えするから、どうかどうか!!」

 ……痩せこけ、焼け出され、傷だらけの薄汚い娘の流す涙は、この血腥い戦場を浄化するほど清らかだった。

( ……己が生き残る為に他の命を奪うものあれば、他の為に己の命を差し出すものいる。まだ、捨てたものではないのかも知れぬ )

「お前の命など、要らぬ。だが、考えておこう」

 大妖のその一言に、娘の顔に浮かぶ笑み。
 その笑みは、大妖が野に下り初めて目にした無垢な笑みだった。
 何度も何度も頭を下げながら、娘は大妖の前から姿を消した。飢えが癒えた訳ではないだろうに、その足取りは最初に見た時よりもしっかりしていた。僅かでも、心が満たされたからかも知れない。それはまた、この大妖にしても同じことであった。

「……誰も死なぬように、か。難しい注文だな。少なくともこの戦を終らせれば、人死には減らせるか」

 あの娘の涙に、そして笑顔に、大妖はどの武将を殺せばこの戦が早く終るかを考えだしていた。


 だが大妖が生きているこの娘の笑顔を見たのは、これが最初で最後であった。


  * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 段取りをつけ、戦局が終息に向かうよう流れを変えた大妖は、風に乗って来たあの娘の血の臭いを嗅ぎ取った。急ぎ娘とであった戦場跡に向かった大妖は、そこで飢えた狼に噛み殺された娘の骸を見つけた。人が人を殺して喰らうは畜生にも劣る餓鬼や悪鬼羅刹の行い。だが、飢えた畜生が己より弱いものを屠るのは道理である。
 それでも、無惨な娘の骸を見た時に湧き上がった感情、思わず振り下ろそうとしたその凶爪の腕。それは大妖の大いなる自制心のもと、ようよう収められた。そうして、そんな感情を持った己に自嘲したように低く呟く。

「……長く人間の世界に留まり過ぎたかもしれぬ。私が手を出すまでもなく、卑小で脆弱な人間など、滅ぶのならば己らの手で滅べばよい。私は人間を在りとするモノがどう采配を振るうか、高みの見物をさせてもらおう」

 あまりにも永く生き、余りにも多くの「死」も見てきた。
 人間どもの悪しき想念に、己の根源である「氣」が穢されれば、このままではいられない事も判っている。己の存在が消えてしまうことすら受け入れて、大妖は人間への干渉は今後一切せぬとそう決めた。

 ただ ――――

 大妖の足元に転がっている襤褸切れのような娘の骸。
 唯一この人間の世界で大妖の心を動かしたそれだけを、その腕に抱き上げ己の領域である妖界への道を開いた。その道を、腕の中の娘の骸と共に歩んでゆく。歩むその後から、道は固く閉ざされていった。

「……初めて言葉を交わした娘の骸を抱く為にこの両腕があるのなら、人間は腕など無いほうが良いのかもしれん。芋虫のように地を這うだけの存在であれば、何者をも傷つける事も無く殺しあう事もなかろうものを」

 人が起こした戦などがなければ、この娘はまだ幸せに生きられただろう。たとえ天の巡り合わせで狼に食い殺される運命を持って生まれた娘であっても。そう思うと、収めた筈の人間への怒りがふつふつと湧き上がるのを感じるのだった。
 二度と干渉せぬと決め、湧き上がる怒りを押さえつつ、おぼろげな道を随分と歩いた。そうして足を止めたその場所に、この娘が見知らぬ母子を弔ったように、大妖も娘の骸を土に埋め弔った。ひどく疲れを覚えた大妖はその場に根を下ろし、うとうととまどろむように佇む。主の帰還に、その地は生気を取り戻し曖昧だったものは鮮明な色と形を目覚めさせた。さわさわと風が動き、柔らかな薄ぼんやりとした光がどこからともなく差し込み、あたりを満たす。歳経た大樹へと変化した大妖の下には、やはり同じ性を持つ樹妖や花妖が集い来る。

 それからどのくらい時が経ったのか。

「まぁ、あれを御覧なさいまし! 汚らわしい人間界の花が、あんなお側に!!」

 姦しい花妖達の声で、大妖はまどろみから引き戻された。

「………………」

 その言葉に意識を傍らに向けると、そこにはあまりにもみすぼらしい小さく貧弱な黄色の野の花が咲いていた。艶やかな五弁の花びらを精一杯に開き、小さな小さな光の冠の様なしべが笑うように揺れている。


( ―― !! ―― )


 一瞬、花と眼が合ったように大妖は感じた。
 花がふわっと笑ったような気がした。
 あの娘が見せた、笑みのように。

「主様のお側には相応しくない。どこかにお行き!!」

 花妖の一人が手を翳すと、野の花はその妖気を受けてたちまちのうちに枯れてしまった。

「どこから紛れ込んできたのでしょう。不浄な事!」

 険高く言い放ち、ようやく目覚めた主の目に留まりたいと、そのきらびやかな華美な容姿を披露する花妖達。枯れた野の花にしばし視線を留めていた大妖は、やがて何事にも関心をなくしたかのように、またその金の眸を閉じた。
 何度かそのような小さな騒ぎが大妖の周りで繰り返された。おそらくそれは、人間の時の尺度で一年(ひととせ)ほどの間を置いての事だったのだろう。そんな繰り返しの中でいつしか大妖は、咲いてはすぐ枯れる野の花の、ささやかながらも一生懸命に咲き誇る様を見たいと思うようになっていた。そうして、時の流れなど一睡の夢の如きものとしか思っていなかった大妖に、その花は「待つ時」の長さを教えた。

「あら? また咲いているわ、この花!! この美しい花の杜で、よくもそんなみすぼらしい花を咲かせられること」

 そう言ったのは、絢爛豪華な黄金色の牡丹の妖。

「咲いてもすぐ枯れる、咲く意味もないような花ですのにね」

 この言葉は、いつも金牡丹の妖と妍を競い合っている真紅の芍薬の妖から。

「地べたを這いずっているような、卑しい花ですわ」

 立ち姿も凛とした白百合の妖が、見下すよう言い捨てる。
 確かに、この花妖達の誰か一人でもこの花の上に手を翳せば、たちまちのうちに枯れてしまう花である。ここに咲き誇る花は、その妖力の高さから美しい人型にもなれる妖花ばかり。その変化した姿は、先の人型を取った大妖とも釣り合いの取れるほどであった。
 それに比べこの花は、ただただ僅かな間咲くだけの野の花。人型になれるような妖力など、持ってはいなかった。
 だが、いつもなら花妖達のするがままにさせていた大妖が、初めて野の花の上に翳されようとしていた花妖達の手を払いのけた。

「主様っっ!?」

 びっくりしたような顔をする花妖達に、独り言の様に大妖は呟いた。

「金は人間の欲を思わせる。赤は戦場に流れた血の色か。高慢な白は鼻につく」
「まぁ!!」

 それは自分たちに下された大妖の評価。
 冷酷ささえ感じさせる大妖の突き刺す視線に花妖達は怯え、その場から逃げ去った。

 そう、考えてみれば解る事。

 数段格下の花妖達の妖気で枯れてしまうような花が、なぜ大妖の側で芽吹き花を咲かせる事が出来るかを。

 言わずもが。
 それを、大妖が許したからに他ならない。
 時を刻んで、野の花は大樹の側で繰り返し繰り返し咲いては散っていった。

 そして、ある時 ――――

 野の花は、一人の娘の姿で咲いた。
 それは、あの時の娘の生まれ変わり。
 大妖の想いが、野の花を慎ましやかな花妖に変化させたのだった。

「ありがとうございます、神様!!」

 幼い娘の最初の言葉は、それだった。

「私は神ではない」
「でも、あたしのお願いを叶えてくださいました。あたしは、ずっとずっとこの美しい花の森を見ていました。戦の無い、きれいな森を」

 そうして大妖に見せた、娘の飛びっきりの笑顔。

( ああ、やはり。あの咲いては散る野の花の、咲き誇ったような感じは、嬉しさを表していたのだ )

 表情を変えた事の無い大妖の口元が、微かに動き笑みを浮かべた。変化出来るようになったとはいえ、それでも幼い花妖はその本性のまま、か弱い野の花であった。数日大樹を見上げるように、嬉しそうな笑みを見せてはふっと消え、見ればもう花は散っていた。
 それからは、人の時の刻みで一年ごとに娘は咲き、数日側にあっては散ってゆくことを繰り返し始めた。咲くたびに娘の姿は少しずつ成長しており、幼かった娘はいつの間にか、野の花らしいたおやかな、それでいてどこか逞しくもつましい美しさを持った娘になっていた。そして、前にも増して大妖は花が咲くのを待ちわび、散った後を寂しく思うようになっていったのだった。

 今年も、娘は美しい娘盛りの姿で咲き誇った。
 それから数日、そろそろ散り時かとそう思った大妖は娘に尋ねた。

「お前は散りゆく時に、何を思う?」

 娘は答えた。

「また次も、お側近く咲く事ができますように、と」
「辛くはないのか?」

 意外な大妖の言葉に、娘は大きな黒い瞳を見開き、それをそっと伏せながら答えた。

「辛いです。でも、信じています。また、こうしてお会いできると」

 そう言って、柔らかく微笑みかけたその笑顔を、大妖は手離す事が出来なくなっていた。娘の細い手首を取り、抱き寄せ、こう告げた。

「ならば、もう散るな」
「でも、あたしにはそんな力はありません。散らずに時を留めておくなんて」
「お前の時なら、私が止める」

 娘の顔を見つめ、何も言わず唇を重ねた。息が止まるほどの長く熱い口付けは、娘の身体を大妖の「氣」で満たした。
 大妖はこの時、人型のこの両腕は愛しい者を抱き締める為に在るのだと理解した。
 殺す為だけではなく、壊す為だけではなく、こうして大事な者を守る為に抱き締める為に ――――

「いつまでも、笑っていろ。この私の腕の中で、いついつまでも咲き続けよ」
「はい」

 娘は頬を赤く染め、小さく頷いた。
 大妖はその返事に、赤く濡れたような娘の小さな唇にもう一度、想いを込めて口付けた。


  * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 こうして娘は大妖の妻となった。
 いつまでも変わる事無く、大樹の側で一本の黄色の花がふわふわと風に揺れながら咲き続けている。それは笑っているようでもあり、可愛らしく語りかけているようでもあった。

 やがて、大樹が守るその森は、艶やかな五枚の花弁を持つ花で満たされていった。母の愛らしい姿と父の高貴な色を受け継ぎ、透き通った金色と月の光のような白銀色の花弁を持った、その子ども達。

 母なるモノの魂が、もとは人間であったからかも知れない。
 その美しい森は、時折心ある者の目に映ることがある。
 大事なものを守るかのように、大地に根をはり大きく広く枝を伸ばし、葉を茂らせた大樹。そのすぐ側で場違いのような、でもそれすらも愛らしい一輪の野の花。その二つを起点に辺りを覆いつくす金と白銀の花々。

 その風景に重なるように、霞むように、この世のモノではない人でない美しいモノと黒髪の若い娘、そしてその二人に似た幼子達が笑い遊ぶ姿が見える事もある。楽しげに笑う声が風に乗る。

 そこは争いもない、愛に満たされた空間。
 人が手を伸ばすと、たちまちのうちに消えてしまう、美しい幻。


 そう、それは幻。
 この世のどこにもない、花妖の杜 ――――


【完】
2011.1.5




= あとがき =

不思議な感じと、固有名詞なしでも「らしさ」が出せたかな? と、ドキドキしながら書き上げました。
全体的に殺伐とした感じで、あまり甘いムードがないのは……^_^;
正面切った恋愛物が書けない管理人のせいですね。
曖昧な感じも今回はポイントでしたので、殺生丸らしき(笑)大妖の姿も、その時その時で微妙に人型っぽかったり大樹だったりと、あえて細かな容姿描写は省いています。
かな〜り異色なモノですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
ちなみにりんちゃんのイメージでモデルにしたのは「ウマノアシガタ」という花です。
名前がかなりアレですが、花言葉と共にりんちゃんらしいかな? と思っていますv


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