【 光の中へ 】




「……行ってしまわれましたね」
「ああ……」


 全てが終った。
 この時代を覆っていた暗い黒雲が、『光の矢』に裂かれ、『風の剣』に吹き払われた。
 裂かれた黒雲から、一条、二条と明るい光が降り注ぎ、空は明るい蒼に染まる。


 その光の中で、あいつは微笑んで ――――



 * ―――― さよならも言わずに 君は旅立ったね
        どうしても伝えたかったことが あるんだ
        いつでも君の照らした 光の中
        どれだけの勇気を 与えてもらったか ――――  *



「かごめ〜、かごめ〜〜〜」

 俺の足元で、今だ七宝の涙は止まらず。
 思えば、もう【運命】としか思えないあの出会い。
 俺の【封印】を解いて、全てを『あるべき姿』に正す為に四魂の珠を砕き、その欠片を追って旅を続けた。

 そうだな、七宝。

 俺とかごめが旅を始めたばかりの頃から、お前も一緒だったんだよな。
 俺も…、お前のように泣けたら楽かも知れねぇな。

 俺は……

 何も言えなかった。
 言いたい事は、たくさんあった。

 想いが…、胸に詰まって……


 どんな顔をして、俺はお前を見ていたんだろう?
 お前の瞳には、どんな俺が映っていたんだろう?
 頬を赤らめ瞳を落としたお前に ――――


 俺は……


 * ―――― 照れている横顔にただ 
           ありがとうも言えず ――――  *



「ひぃっく、っく っく、ぐすん、ぐすん、ぐすん ―」

 しゃくりあげる度、涙が溢れ、七宝の小さな顔は大洪水。
 珊瑚がいつもかごめがしていたように、その小さな頭に手を置き、優し
く声をかけた。

「七宝、いつまでも泣いてちゃかごめちゃんが心配するよ。ほら、泣き止んで」
「じゃが、じゃが、珊瑚〜! もう、かごめには会えんのじゃろ!! そんなの、イヤじゃっっ!」
 
 まるで、駄々っ子。
 俺は【愛情】を込めて、七宝の頭に拳骨を一発見舞った。

「あ〜、いつまで泣いてんでぃ! 七宝!! かごめは…、あいつはひとっ言も『さよな』】なんて、言っちゃねーだろっっ!!!」
「犬夜叉……」

 ああ、そうだ。
 俺は知っている。
 お前の『世界』を!

 だから……



    * ―――― 大きな空へ 旅立つなら 
           笑って見送るよ かなしいけど
           歌えば ほらいつだって 
           君がそばにいる ――――  *



   * * * * * * * * * * * * * * * *
 


 あれから、俺は ――――

 今でも楓の村に居る。
 お前がいた時程、もう危ねぇ事はそうそうないけど。

「かごめ様、今頃はその『高校』とやらの学問所に通っておいでなのでしょうなぁ」

 あの後、所帯を持った弥勒と珊瑚だけは別に暮らしているが、それでも手伝いやあの頃を懐かしんで、一緒に夕餉を取る事もよくある。

「そうだね、あんなに頑張ってたんだもんね。でも…、今ここに居て、一緒に喜んでくれたらどんなにか嬉しいんだけどね」

 そう言いながら珊瑚は愛しそうに、自分の腹を撫でた。
 その腹を子供の好奇心に満ちた瞳で、そして生まれ来る新しい命を待ちわびて嬉しそうに笑っている七宝。
 今はまだ楓の孫然としている七宝も、いずれ自分の伴侶を得、弥勒や珊瑚のように自分達の『居場所』を見つける事だろう。


 俺は…、俺の『居場所』は ――――


 俺は、ふいっと立ちあがった。

「あれ、どこに行くんじゃ? 犬夜叉」
「ああ、ちょっと外で風に当たってくらぁ」

 そう言い置いて出た外は、もうすっかり夜の闇。
 星の光がさやかな音を立てて、降り注ぐ。

( なぁ、かごめ…… )




 * ―――― みんなは元気でいるよ 君はどうしてる
           夜空を見上げるたび 星に問いかける ――――  *



( お前、いつか言ってたな。『星の光』は昔のもんだって )




* ―――― すべてを知っていたんだろう 旅立つ事さえ ―――― *



( ……それなら、俺が『現在−いま−』を頑張ったら、お前の時代には
光って見えるのかな? そうしたら、また『逢える』のかな? なぁ、かごめ )

 星を見上げる。
 瞳を隠した豊かな白銀の髪の隙間から、光が一条零れ落ちた。



   * ―――― 大きな空へ 旅立つなら 
          笑って見送るよ かなしいけど
          歌えば ほらいつだって 
          君がそばにいる ――――  *




「へへ、今でもお前は俺の『心−ここ』にちゃんと在るんだよな。ずっと、俺の…、そ……ば…、に………」

 だけど ――――




       思い出がただ大きすぎて言葉に詰まるから




           そのかわりに 歌うよ




              君のことを





             ずっと忘れない…







     ―――――    犬夜叉    ―――――







「かごめっっ!?」

 星のさやかな囁きに、かごめの『声』を聞く。
 降り返った、その刹那!!

 夜闇をかき消すほどの『光』の中で、微笑む『かごめ』。
 俺を導く、光。
 俺を、俺であらせる『お前』。


 俺の…、『居場所』!!


 それは一瞬の幻影。

 ああ、そうだ!
 俺は、忘れない!!


 お前の事を、ずっと!!!



 俺の、かごめ ―――――



【完】
2005.2.2




【 あとがき 】

お題企画のお題の一つ【光】を私の好きなスターダスト・レビューの楽曲とのコラボというスタイルで仕上げました。
引用した歌詞は、「艶」と言うアルバムの中の「光の中へ」という曲のものです。作品タイトルもそのままです。
私の中の犬かごはお互いが想いあっていても、必ずしもハッピーエンドではない、と言うのが基本にあります。この作品も一種の最終回ネタですね。




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