【 いわいごと 】



このお話は先にサイトUPした「としのはじめの…」「花散月」と同じ設定の犬かごサイドの話として書いています。こちらを読まれてからの方が判りやすいと思います。




 本当はもうずっと自分の中でけじめをつけなくちゃいけないって判っていたの。でも、『ここ』は自分の生まれ育った場所で、今まで生きてきたところ。家族だって友達だって、『ここ』でやりたい事もまだあったから……。

 あいつは優しいから、無理は言わない。
 私が『ここ』をどんなに大事に思っているか、愛しているか知っているから。私のワガママだけどね、いっその事犬夜叉がこっちの時代に来ちゃえばいいのに、って思った事もあるのよ。それとも、このまま井戸が二つの時代を繋いでくれていたらいいな、とも ――――

「……毎日毎日よくそんなに勉強する事があるな、かごめ」

 私の部屋のベッドの上が、今じゃこいつの指定席。初めてあった十五の春の頃を思えば、随分と遠くまで来た感じがする。春と言っても春らしい暖かさも感じられなくてこれからの一年、高校受験と言う冬の時代に突入する私の身の上に起こったあの出来事。

 ねぇ、犬夜叉。
 覚えている?

 あんた、初めてあった時に私を殺そうとしたのよ?
 私と桔梗を間違えて ――――

 それが今は、こうしてお互いを想いあっている。
 いつまでも一緒にいたいと思うほどに。

「うん、試験がもうすぐだからね。この試験が終われば少しはゆっくり出来るから、向こうに行くね」
「ああ、珊瑚や七宝が首を長くして待ってるぜ」
「うふ、待っているのは珊瑚ちゃん達だけ?」

 私はシャーペンを走らせていた手を止め、後ろを振り返る。視線を合わせると、顔を赤くした犬夜叉が焦ったように下を向いた。

「っな訳ないだろ! その…、俺も……」
「犬夜叉は皆と違って、こっちに来る事が出来るじゃない? 首を長くする事はないでしょ?」

 犬夜叉が何を言いたいのか判っているのにからかうのは、我ながら人が悪いなと思うけど、そんな犬夜叉が私は好きで。

「馬鹿っ! こっちじゃ、その…おふくろさん達の目もあるし……、お前はからかうばっかりでその気になりゃしないじゃないか!!」

 言うだけ言って、真っ赤になる。

 そうよね。私もあの一年で自分がこんなにも変わるとは思わなかったわ。私が犬夜叉のいる時代に呼ばれたのは、私の前世で犬夜叉の思い人だった桔梗の存在があったから。その桔梗は、古の巫女の魂から生まれた『四魂の珠』を浄化し護る稀代の巫女だったの。犬夜叉は人間のお母さんと妖怪のお父さんを持つ半妖。
 桔梗もその高すぎる霊力ゆえに人の輪に入ってゆけず、犬夜叉は半妖だから人にも妖怪にも蔑まれて一人きりだった。だから、出会った。お互い心惹かれて ―――

 桔梗に心を寄せる鬼蜘蛛がいなければ、あの時代で桔梗と犬夜叉は幸せになれたかもしれないって思う。でも…、判らない。禍の元凶である『四魂の珠』が本当の意味で消滅しないかぎり、あの時二人が一緒になれてもやっぱり不幸が襲ってきたかも。それにね…、あの桔梗が在ったから、現在の私が在るの。これは私と桔梗の切っても切れない絆。お互い反発もしたし、やっぱり桔梗にも殺されそうになったけど、そんなの全部ひっくるめて今の私と犬夜叉なの。

「うん、そうだね。わたしと犬夜叉の事、ここでそーゆー事するのってなんだかずるいような気がするから。だって、ここには……」

 そう言いかけて、自分でも良く説明できそうにないなと気付いて言葉を切った。奈落との最終決戦、多くの犠牲をはらって長年の恩讐を纏った四魂の珠を消滅させた。奈落も倒した。私があの時代に残ってしなくてはならない事は、もうなかったの。
 後は井戸を閉じて、異なる時間軸の世界を分離させるだけ。大きな歪が出る前に。未来の人間は過去を変えてはならないのだけれど、本当ならこの時代の桔梗がするはずだった事を私が代行する事は時の許容範囲だったみたい。その証拠に、私の住んでいた未来に変化はなかった。私の役目が終わった今は、犬夜叉の時代の私は異分子。これから何が起こるか判らない。何よりも井戸がいつ閉じてしまうか、それが怖くて……。
 犬夜叉と会えなくなるってそう思った時、私は自分から犬夜叉の腕の中に飛び込んでいた。初めて犬夜叉と一つになれた時に、私は私の中の桔梗も喜んでいる事に気付いた。ああ桔梗もこんな風に犬夜叉に愛されたかったんだなと思うと、未来に帰ってしまう自分が勝手すぎるような気がして ―――

 どちらとも決めきれない私は、まだ子どもだったんだろうな。

 あんな戦いの最中でも頑張って勉強した結果、ちゃんと高校にも合格した。不思議と井戸がまだこちらとあちらを繋いでくれている優しさに甘えて、私は自分の中の答えを出すのを先送りにしていた。現代で高校に通い、時折犬夜叉がこちらを訪ね、学校が休みの時には私が向こうに行って、犬夜叉の腕の中で眠るようなそんな日々。

 ……きっとママにはそんな私の秘密なんて、とっくにバレていたと思うけど。

 そんな平穏とも思える時間を三年も過ごし、私はまた次の受験期を迎えていた。このままの優しさが続くなら、昔の平安時代の貴族のような通い婚でもいいかななんて甘い事さえ考えていた。この時代で私がちゃんと自立して生活できる力を持てば、事実婚でもいいんじゃない? って。家は神社だし、家業の手伝いでも犬夜叉と生まれてくるかもしれない子どもも養ってゆける……。

( ああ、でも生まれてきた子の耳が、犬夜叉みたいに犬耳だったらこちらの幼稚園や小学校に通うわけには行かないわね )

 現実を考えると、こちらでの子育ては難しそう。幸い、お互い気をつけあっているから、まだそんな心配はいらないけれども。

「おい? だって、ここには……、の続きは?」

 途切れてしまった言葉の続きを、犬夜叉が促す。

「ううん、なんでもないの。私のけじめみたいなものだから」

 そう、けじめ。

 決めたの、私。この試験が私にとって最後の試験。だから精一杯勉強して、心残りなく学生生活を終わらせようと。ここでの生活にもピリオドを打つ。ここは犬夜叉が生きてゆくには窮屈すぎるし、桔梗の想いにも遠い場所。犬夜叉と一緒に生きてゆきたい、生きてゆくって決めた。

 私の背中を押してくれたのは、犬夜叉の異母兄に嫁いだ一人の何の力もない少女。私より小さいのに自分の想いで真っ直ぐに、誰より険しい道を幸せに歩んでいる少女を私は知っているから。自分の命を削りながらも、その笑顔を絶やさないあの娘が私のお手本。それにあのお方も許容してくれた、だから大丈夫。

「犬夜叉、私がこの前言った事、ちゃんと覚えている?」
「ああ、あの時の事か? お前が、俺の所に来てくれるって言った、あれ……」
「うん。今度の試験が終わったら私、ママやおじいちゃんにそう言おうと思っている。だから、その時はあんたも一緒にいてね」

 そう言ったら犬夜叉はさっきよりもっと真っ赤になった後に、きっと顔を引き締め頷いてくれた。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



 びっくりした顔の草太と人目を構わず泣き出したじいちゃんと、気付いていたのだろう落ち着いた顔のママの前で、犬夜叉はちゃんと言ってくれた。必ず幸せになるって、絶対守ってみせるって。

 そうしてママの心遣いの花嫁道具を山ほど戦国時代に運び込んで私は、骨喰いの井戸を封印した。これからは、ここが私の生きてゆく場所。わたしの故郷になる所。どこで嗅ぎ付けたのか、殺生丸のご母堂様が骨喰いの井戸の側で花見の宴を開き、それに便乗して祝言を挙げろって言ってきた。それどころか、私たちの子どもの顔を見るのが楽しみだとまで言ってくださって。こちらで縁のある者全て顔をあわせて、有り得ないような夜桜、花吹雪の情景の中。私はこの時代の一員として、迎え入れられた。
 この場所も、きっと桔梗が用意してくれていたもの。桔梗が望んだただの女としての幸せを、桔梗の分も一緒に私は私らしく生きてゆこうと思う。犬夜叉の傍らで、犬夜叉の胸の中の桔梗を愛しく懐かしく思いながら。

 私たちが祝言を挙げたその夜は、甥っ子二人にお邪魔虫一人でとても新婚初夜の気分じゃなかった。甥っ子二人を間に挟んで、私と犬夜叉。阿吽の番もあるからか、それとも犬夜叉や私の側では落ち着かないのか邪見は小屋の外で。
 あどけない子どもの寝顔は、私の胸をほわほわとした温かいもので満たしてくれる。

「ねぇ、犬夜叉」
「あ、なんだ?」
「もう遠慮しなくていいからね」
「遠慮って…?」

 そう言った犬夜叉の声が、どこか掠れているように感じたのは気のせいじゃないと思う。

「いっつも、あんたはそう。自分の事よりも、相手の事を優先するでしょ。私ね、気がついてたのよ? 煩そうに面倒くさそうにしてるけど、本当はあんたが子ども好きだって事」
「かごめ……」
「七宝ちゃんに構ったり、蓬莱島の子ども達の為に頑張ったり、紫織ちゃんの時だってね。だから、犬夜叉は自分の子どもが欲しいだろうなってずっと思ってたの」
「……好きなのと、欲しいは別だ。俺はお袋の苦労を見てきているから、親父や殺生丸のような後先考えないような馬鹿な真似はしたくねぇ」

 確かに。
 犬夜叉は半妖と言う事で、犬夜叉のお母さんは妖怪の子どもを産んだ事で、辛い思いをしてきた事は想像がつく。辛い仕打ちに耐えるお母さんを幼い犬夜叉はどんな思いで見ていたのだろう。でも……。

「馬鹿、かぁ…。そうね、そう言われちゃ私も馬鹿かも。でもね、女って本当に好きな人の子どもなら無条件で欲しいと思っちゃうんだけど。それで、生まれてきてくれた子どもは滅茶苦茶可愛くて、もうそれだけで幸せなんだけど」
「…………………」
「犬夜叉、あんたはそんなお母さんを見て不幸だと思った? 今ここで寝ている子ども達の寝顔を見て、この子達は不幸だと思う?」

 私と犬夜叉の間に寝ている半妖の双子。殺生丸とりんちゃんとの間に生まれた、父と叔父に良く似た二人。

「…この子らも、俺みたいに早くに母親を亡くす事になる。あいつがあんなりんみたいなガキに手を出すこと事態信じられなかった。妖と通じた人間は遅かれ早かれ、通じた相手の妖気に障って、生気を枯らしてゆく。あいつは親父と違って、その身に猛毒も飼っているからなおさらだ」
「犬夜叉っ!」

 子ども達の耳に入らないように、私は犬夜叉をたしなめた。

「本当にりんが大事なら、あいつはりんを人里に返すべきだったんだ。それを……」
「ねぇ、犬夜叉。それって、りんちゃんの『想い』は完全無視よね。年下のりんちゃんに先越されちゃったけど、同じ女だから判るのよ。一緒にいたいの! 本当はずっとと思ってるけど、許されるだけ側に。そして、大好きな人の子どもを産める幸せを私も欲しいの!!」

 肝心な所で優柔不断な犬夜叉に、私は業を煮やす。本当なら今夜はお客様もいる事だしそんなに急ぐ事ではなかったんだけど、自分の気持ちが収まらなくなっていた。二つ並べたお布団のそれぞれ横に寝かせていた子ども達を一つの布団に移動させ、私は犬夜叉の布団の中に潜り込む。

「ちょっ…! 待て、かごめ!! おまっっ……!!」

 犬夜叉の声が上擦る、顔はもう火を噴きそうに真っ赤だ。

「……本当なら、もっと早くこうなっても良かったのよね。二人で新しい生活を始める事。犬夜叉は私を大事にしてくれたから、私を抱いても赤ちゃんが出来ないようにしていてくれたんでしょ」
「か、かごめっっ!!」

 私の手がそっと触れるだけで、犬夜叉の全身に細かい震えが走る。

「ねぇ、犬夜叉。私たちの子どもが不幸になるのも幸せになるのも、私たち次第じゃない? なら、頑張って皆で幸せになりましょうっっ!!」
「か、かごめ…、もうそれ以上したら、俺 抑えが利かなくなる。横にチビどもや外にはお邪魔虫もいるのに、本気で本腰入れちまうぞ!!」
「望む所よ。私も本気だもの、少し前までの高校生だった私じゃないわ。今は犬夜叉の奥さんなんだから!」

 そう言い終わる前に、私は腕を掴まれ上向きに体を押さえ込まれた。 
 この時の私は、きっと矢を射るような熱の篭った瞳をしていたと思う。犬夜叉と言う獲物に焦点を合わせて。

「……お前にそんな瞳をされたら、逆らえねぇ。今夜はもうお前が止めてくれっていっても、止められないからな!」
「言わないわ、そんな事。最初に言ったでしょ? 遠慮しなくていいからって」
「朝起きて、恥ずかしい思いをするのはお前だからな。まぁ…、俺も一緒に笑われてやらぁ!!」

 乱暴な口調の割りに、犬夜叉は晩生と言うかストイックな面がある。確かに人目のあるところでは、口付けどころか腕を組むのさえ恥ずかしがるような、逃げ出すような性格。それなのに今の状況は、明らかにギャラリーがいるのに『男』として引くに引けない状態。
 戸口の所で小さな緑の影がちらちらしている。横目で見れば、私の隣で背中を向けている天生丸の銀色の柔らかな尻尾の先が凍りついたように止まっている。小さな兄の背中に隠れて顔は見えないけど、薄ピンクの犬耳がピクリピクリと不規則に小さく動く。

「大丈夫でしょ、慣れてるから。あの二人は昔から時も所も構わなかったし。まぁ、教育上あまり良くないかもだけど、いずれ知る事だしね」
「じゃ、本当に良いんだな?」
「ふふ、当たり前じゃない。私、あんたの奥さんなのよ」

 自分の境遇を思えばまだ色々思うところがあるだろう。そんな犬夜叉が一歩踏み越えたのは後で聞いた話だけど、犬夜叉の鼻腔に広がるいつにない甘やかで艶めいた私の欲情した匂いせいで、完全に犬夜叉の思考が停止したからだって。
 私もこんな犬夜叉を見るのは初めてで。怖い位に激しくて、今までがどんなに自分を抑えてくれていたかが良く判る。本当に背骨が折れるくらいに抱き締められて、その痛さに犬夜叉を感じる。自分の中の犬夜叉が熱くて、感じた事のない奥の奥でそれを感じて、犬夜叉の腕の中で自分が真っ白になりそうな気がする。
 何度も気が遠くなって、何度も熱いもので満たされて、いつの間にか私は何も判らなくなっていた。



  * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



 次の日の朝、寝過ごしたのは私だけだった。体力オバケな犬夜叉に、本気で一晩中責められれば朝起きられないのは仕方がない。何といっても昨夜は一生に一度の新婚初夜だった訳だし。いくらその前から関係があったとしても。
 少し痛む腰をさすりながら、私は夜衣から普段着の袷に着替えた。小屋の中には私の他には誰も居ない。着替えが終わる頃合いを見計らって、甥っ子二人が朝の挨拶をしにきた。

「一晩、お世話になりました」
「えっと、あ、じゃまたっっ!!」

 父親に似た方はしれっと澄ました顔で挨拶を延べ、弟の方は罰が悪そうにそそくさとした仕草。触らぬ神に祟り無しとばかりに、邪見にいたってはその影さえ見せはしない。多分、いや確定的に嫌と言うほどその老骨に叩き込まれたのだろう。無粋な、あるいは馬に蹴られるような真似はするなと。

 同じ疲れでも、どこか充足感に満ちた疲れ。恋人時代には味わう事のなかった、不思議な感覚。そっと自分の下腹部を撫でると、なんともいえないほっこりとした感覚が湧いてくる。

( ……これが、結婚って事なのかなぁ )

 子ども達について小屋を出た。眩しすぎるような朝日を仰いで、柔らかな空の色を見る。それから視線を下ろしてくると、村はずれの道の上に子ども達を迎えに来たりんちゃんの姿。犬夜叉の親族打ち揃っての宴の後、私達に子ども達を預け夜桜の森で一夜を過ごした殺生丸とりんちゃん。ふと私は、ようやくりんちゃんと同じ場所に立てたんだなと、そんな事を思った。

「おはようございます、かごめ様」
「おはよう、りんちゃん。今日はどうするの?」
「はい、殺生丸様が北へ向かうと仰ってますので、早々にここを立ちます」
「そう…、じゃぁ、また次は満月の頃かしら?」

 りんちゃんははっきりとは答えず、少し微笑んで子ども達の手を取ると迎えに来た道を戻って行った。幼い後姿に微かに浮かぶ、何ともいえない艶やかさ。朝の光の中でりんちゃんの締めた帯の上の光の帯の形が、昨夜とは違う事に私は気がついた。

( まぁ、当然そうよね。でも、まだりんちゃんの方が私より一歩先なのよね )

 そう胸の中で呟きながら、もう一度自分のお腹を撫でてみる。りんちゃん親子を見送る私の後ろから、犬夜叉が声をかけてきた。

「……なんだ起きたのか、かごめ。もう少し寝てりゃいいものを」
「うん、ありがとう犬夜叉。ちょっときついけど、気分が良いから大丈夫よ」

 私の言葉にちらりと視線を寄越し、それから照れたような仕草で明後日の方を見る犬夜叉。やっぱり頬が少し赤い。

「楽しみだわ、私。ねぇ、最初はどっちが良いかしら?」
「あん? 何がだ?」
「私と犬夜叉の赤ちゃん。ねぇ、犬夜叉はどっちが欲しい?」
「どっちって……」

 額に朝から脂汗を滲ませている犬夜叉の手を取り、私はそっと既婚者らしく下に締めた帯の上に置いた。

「競争する訳じゃないけれど、また先にりんちゃんの所に次の赤ちゃんが生まれたら、本当に敵わないなぁと思っちゃうし」
「馬鹿! 子どもを授かるって、そんなもんじゃないだろっ!!」
「うん、そうだね。それよりどんな赤ちゃんが来てくれるか考える方が楽しいね。天生丸や夜叉丸を見てると、私たちの赤ちゃんが叔父さん似になる事もあるのよね?」

 そう言った瞬間の、凍りついたような犬夜叉の表情。

「……俺、男でも女でも構わねぇ。かごめ、お前に似てりゃそれで十分だ!」
「私も♪ 私は犬夜叉に似てれば嬉しいわ」

 犬夜叉の顔がどう表現したらいいのか判らないくらい。犬夜叉の複雑な心中を察し、それから言いようもないような嬉しい気持ちを味わう。

( 二人で生きてゆくって、こんな何でもないような事の積み重ねなのね。それが幸せに思える事が、一番大事な事 )

 目には見えない、その手に掴んだ感触もない。側にあっても、いつかは過ぎ去ってしまうものだけど、だからこそ『今』を大事にしたい。今の幸せが未来の幸せに繋がるように。
 どんなに辛い『今』でも、その中に必ずある『幸せの鍵』。それを見失わず、心からそれを信じて、自分のしなくてはならない事を務めあげる。それが『未来』と言う『今』になるのよね?

( ……私の今の幸せは、私の前世だった桔梗が頑張ってくれた未来。私を頑張らせてくれた桔梗の思い。本当にありがとう )

 きらきらと陽の光が音を立てて笑ったような気がした。光の幻影の中で、彼の巫女の優しげな笑顔が浮かぶ。

 私がこの時代の人間になる事で、時の轍は髪の毛一筋ほどの違う軌跡を描き、未来へと繋がってゆく。五百年先の未来で生まれた私の代わりに、今度は桔梗が桔梗として転生するのかもしれない。


 あのママの元に。そしてその時代で、桔梗の犬夜叉にめぐり合って欲しいとそう願う。




 時の不思議さに翻弄されながらも ――――


 誰もが幸せになる鍵を持っているから。
 それがどんな形で、他人から見たらそうは見えないものあっても。


 必ず ―――




【おわり】
2007.6.27






 = あとがき =

20万番を踏んだ鉄工さんよりのリクエスト、「甘甘犬かご希望(現代、戦国、パラレル問わず)」と言う大らかな内容だったので、それに甘えて丁度このサイトの4周年記念作品を書いていたと言う事もあり、そちらにこの話に繋がる伏線を入れてキリリク作品とは言え、サイト全体を構成する作品の一部として書き上げました。

「繊月」コンテンツの艶笑小話系に入る内容なので、甘い話かと言われたら「へへ〜、これでどうかご勘弁を〜〜」の土下座物なのですが…^_^;

あと私がどうしても犬桔かごを三角関係ではなく、どちらかと言えば三位一体のような深い繋がりを持った存在同士と言う捉え方をしているので、犬かご物でありながら、当たり前のように桔梗さんの名前が出てきます。ウチの場合は、犬君よりかごちゃんの方に桔梗さん色が強いのは、むにゃむにゃむにゃ〜〜(苦笑)

まぁ、ちょっと方向性がずれているのはご承知の上と、ここでも甘えさせていただいて、謹んで鉄工さんに進呈させていただきます。
本当にリクエストありがとうございました!!




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