【 末元 −うらもと−  紅蓮の蓬莱島後日談 】



 
 どこか重苦しく、くすんだ色の海は、朝日と共に光を取り戻し目も醒めるような藍(あお)に変わる。

 そう、まさに今、目覚めたのだ。
 良かれと思い、時を留めた幻の島の護り巫女・奏。
 その『時の呪縛』は解け、『希望』と言う名の子供達が新たなる地を目指す。

( ……似ているやも知れぬな、私とあの島は )

 朝風に、美しい黒髪を靡かせながら桔梗は一人言ちた。

 時の止まった死人である自分と、幻の蓬莱島。
 何時か、崩れ去るのがその理(ことわり)

 ふっ、とその翳りを帯びた横顔に笑みが刷かれる。

( ……構わぬ。あの子達が希望ならば、私にも『未来−きぼう』はある )

 桔梗の脳裏に浮かぶその未来の姿は、自分に良く似た姿をしていた。
 その背後で、微かに足音がする。
 それが誰か、桔梗には見ずとも判っていた。

「桔梗……」

 おずおずと、かごめが声をかけた。

「良く、判ったな」
「うん…、何となくそんな気がして」

 ゆっくりと、桔梗が振り返る。
 柔らかな朝日の光の中で、ふうわりと微笑んで。
 同じ姿をした複製を、醒めた目で滅した時の険しさは何処にもなかった。

「犬夜叉は? 気付いてはないのか?」
「……ここは風下だから、多分」
「どうして、ここへ来た?」

 問われて、かごめは言葉に詰まった。
 どうして? そう、自分でも判らない。
 でも、なんだか……、桔梗が自分を呼んだような気がして。

「あ、あの、これ、桔梗の弓矢でしょ? これを返そうと思って!」

 ちらり、とかごめが手にした弓矢に艶のある視線を投げかけ、頭(かぶり)を振った。

「……お前は、得物に恵まれてはおらぬな。暫らくはそれを使え。私は、得物を選ばぬ故」
「えっと、でも……」
「構わぬ。困りはせぬから」

 ……少し前から、感じていた。

 桔梗が、変わった。
 初めて会った頃の桔梗とは……。

 そして ――――

「桔梗、変わったわ……」
「そうか?」
「うん、冷たいふりしてるくせに、こうして私を助けてくれるもの。もう、二度目だよね?」

 一度目は、あの世とこの世の境の時に。
 それから、今度も。
 自分の不注意から、弓矢をダメにして……。
 あんなに臆病だった紫苑が、勇を鼓舞して島の奥からこの弓矢を持ってきてくれた。
 本来ならこんな所においそれとあるものではないのだから、「巫女の矢」などは。

「……どうしてか、判るか?」

 桔梗の瞳に、熱い艶が生まれる。
 その瞳に見詰められ、我知らず頬を染める。

「桔梗……」
「ふっ、まぁ、良い。それよりも、お前も『あれ』を見たのだろう?」
「……『あれ』?」
「そう、あの四闘神が作り出した、忌々しい私の偽者だ」

 桔梗の瞳から熱いものが消え、冷淡にして厳しい光が灯る。

「……お前は、『あれ』を私だと思ったか?」
「まさか! もし、同じ事を桔梗がしたとしても、どっちが本物でどっちが偽者なんて事は、すぐ判るわ!!」
「何故?」

 かごめを射るように見詰める桔梗の瞳。

「……だって、『魂』が違うもの! あれは例え桔梗と同じ力を持っていても、所詮は操り人形。桔梗じゃないわ」

 ほっ、と花が綻ぶ様に桔梗の面に笑みの花が咲く。

「そうか、判ってくれているのか。だが、あの偽者の後を追う犬夜叉の姿に、心は騒がなかったのか?」
「……うん、騒がなかったって言ったら嘘だけど…。だって、犬夜叉って甘いんだもん!!」

 全てを分かり合えるかも知れない、この存在。
 嫌悪していた、『己』の陰。
 それが私の弱さならば…、今!!

 『過去』と『未来』――――

 私とかごめ。

 今、かごめ。お前を愛しく思える私は、過去の自分を乗り越えたと言えるのだろうか?

 犬夜叉の前に立ったとしても、もうあの頃のように心騒がせる事もなく、お前を疎ましく思う事もなく……

 成すべき事を成したいと、そう素直に思える私になれたのだろうか?


 ―――― かごめが手にした黒塗りの弓の先端に朝日が当たり、きらりと光を反射させる。

 ああ、そうだな、かごめ。
 私達は、この弓の末(うら)と元(もと)。
 間を『犬夜叉』という弦で繋ぎ ――――

 『現在−いま』を拓く!!


「ねぇ、桔梗。これからどうするの? ……一緒に、来れない?」

 私の身を心配してくれるのか?
 しかし、それでは犬夜叉の身の置き所がなくなるであろうに。

 くすり、と笑みこぼし……

「いや、私には、私の『道』がある。互いに、まだ旅は終った訳ではないのでな」
「桔梗……」
「あれを、犬夜叉を頼む」

 ああ、そうだ。

 まだ、旅は途中。

 私の未来をかごめ、お前に繋ぐ旅は ――――



【一応、おわりv】


…ははは^_^; なんなんでしょうね、この作文は。実は私、桔梗さん×かごちゃんv、というユリネタも持ってまして…。いえいえ、そんなヤバイものではなく、どちらかと言うとコメディタッチなものなんですが。
私が桔梗さんを悲恋の巫女とか、犬君に未練たっぷり、とかの見方をしてないんですね。死人になった事で色々なくびきから解き放たれて、あるがままの自分を生きている訳で。まぁ、その結果、当サイトでは桔梗さん、バイでコワレタ性格になってしまっています。桔梗さんにかごちゃんを寝取られそうな、情け無い犬君だったりするんです。

今回の映画、ヘンな所で萌えを感じた私なのでした(苦笑)




TOPへ  作品目次へ


誤字などの報告や拍手の代りにv 励みになります(^^♪


Powered by FormMailer.