【 リフレイン 】
「えっ〜、どうして私がお使いに行かなきゃいけないのっっ!?」
私は思わず、大声を上げてしまった。
だって ―――――
「仕方ないでしょ。ママはぎっくり腰で入院したおじーちゃんの所へ行
かなきゃならないし、草太じゃまだ小さいでしょ。かごめ、あなたしか
居ないんだから」
…そりゃ、親戚の神社で大きな御祭りをやるから人手を貸して欲しいと
言われてたのは、知っている。
で、行くはずだったじーちゃんがぎっくり腰になったのは不可抗力だし、草太じゃ手伝いにならないのも判ってる。
だけど、それがどうして今日なの ―――― ?
「…おふくろさん、困ってんだろ? 行ってやれよ、かごめ」
ダメ押しが、この一言で。
「犬夜叉…」
―――― 急ぐ旅を続けている私達が、こんな風に『現代』でゆっくり
出来る事って、滅多にないのに。
あ〜あ、もうっっ!!
「ふうぅ、あー疲れた」
親戚の神社の手伝いで、気が付けばもう夜中。
ふと、廊下の隅に置いてある電話機に気が付いた。
(…声だけでも、聞きたいな。でも、こんな時間にかけたら、きっとび
っくりするよね )
立ち去りがたく、その場に佇んでいると ――――
り、りん。りりりーん、りりりーん。
反射的に受話器を掴む。
「――――――」
「犬夜叉…」
「おうっ、かごめか?」
今、一番聞きたいと思っていた『声』
「あんた、どうして…?」
「ん、ああ。お前がどうしてるかなーって思っちまって…」
「…電話の使い方、知らなかったでしょ。ここの番号も」
受話器の向こうで、身じろぐ気配。
「…聞いた。草太に」
どんな顔をして聞いたんだろう?
私の為に ―――
本当なら、こんな距離。
犬夜叉の足ならなんて事ないんだよね。
でも今日は、『朔』だから。
深まる時間に、密めた声。
まるで、耳元で囁かれているみたい。
――― 真夜中のFM すこし絞りながら
受話器のむこう
君はそっと 背のびする
囁きがとぎれて 黙り込む瞬間
とまどいがちに
胸さわぎが しのび込む ―――
すぐそこに居るんじゃないかと思ってしまって、何時ものように廊下に
ある窓の向こうを見つめてしまう。
――― 夜に向かって 開けた部屋の窓から
熱くやるせない想いが 流れはじめてる ―――
――― 逢いたくて せつなくて
ため息がこぼれるほど
抱きしめて 揺れながら
ふたりほどけてゆくまで ―――
…かごめの時代には、不思議なものが沢山ある。
『これ』もその一つで。
姿は見えねぇのに、まるで目の前に居るようにお前の『声』が聞こえる。
お前の声が、俺の中に染み込んでゆく。
――― 耳もとに残った 君のその吐息と
やさしさだけが
寒い瞳 癒すだろう ―――
「かごめ…」
言葉が途切れる。
お前の声は、俺の中。
こんなにも近くに聞こえるのに、お前は居ない。
「ねぇ、犬夜叉。何か言って…」
お前の声も震えていて…。
――― ふたりをわけて 夜の街が拡がる
同じ寂しさの行方を 胸に閉じ込めて ―――
――― 逢いたくて せつなくて
くちびるがふるえるほど
いつからか 君だけに
夢のつづきを かさねて ―――
逢いたい、逢いたい! 逢いたいっっ!! 犬夜叉、あんたに!!
かごめ、お前ぇに逢いてぇ ―――――
――― I’ll be your side
I’ll hold your tight
心がリフレインする
いつからか 君だけに
夢のつづきを かさねて ―――
「…早く寝ろよ。明日はあっちに帰るんだからな」
口をついて出て来るのは、いつもこんな言葉ばかり。
お前に聞かせたい,本当の言葉は…。
「判っているわよ。あんたこそ、大人しくしてるのよ」
あ〜あ、もう。
どうしてこんな風に返しちゃうかな。
私が伝えたいのは…。
――― 逢いたくて せつなくて
ため息がこぼれるほど
抱きしめて 揺れながら
ふたりほどけてゆくまで ―――
――― ア・イ・シ・テ・ル ―――
STARDUSUT REVUE 『LOVE SONGS』より −夜更けのリフ−
2003.11.10
このSSはすでに閉鎖されてしまいました「miniチョコ・サンデー」様の現代版企画に飛び入り参加させて頂いた時の物です。この企画は先に管理人さんのイラストがあって、そのイラストからシチュエーションを起こすと言うものでした。
イラストは朔犬君が受話器を耳に当てている、と言う物でした。
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