【 子守唄  −紅蓮の蓬莱島後日談2− 】





―――― あの子等を、かの島より犬夜叉達が連れ帰って、既に一月ばかり。

犬夜叉と同じ、【半妖】の子等。

それにしても。
この村の者達の、あの子等の受け入れ方は。

楓は、浅黄達の仮の住まいであるぼろ小屋に穏やかな瞳(め)を向けた。
犬夜叉達が浅黄達を連れ帰った時に、まぁ それなりに驚きもした。
【半妖】の子等が六人も。
それも、あの曰くある島からの珍客と。

しかし。

もう、この子等に帰るべき【場所】はない。
あの島は捩れた【時】の、帰結すべき姿としてこの世から消え失せた。
この子等を【守る為】、時を留めていた島。
浅黄達の、【故郷】

そう弥勒から説明を受けた時、楓の心にはさも当たり前のように、この【村】で暮らせば良い、との思いが浮かんだ。
ちらり、と他の村の者達は如何思うだろうかと思いはしたが、ええい、構うものかと楓は思った。
この子等を、守っていた【奏】と言う巫女と同じ。

この世に生まれ落ちた者には、それだけできっと大きな【意味】がある!
【人】などの思惑など立ち入れぬ、遥か深遠のその奥に。
【神】の領域かも知れぬ。或いは、もっと大きな【存在】の大いなる意思かも知れぬ。ならば、ワシとて神に仕える巫女ならば。

だが…

そんなワシの気負った思いも、肩透かし。
同じ様な年頃の子を持つ村の母親らが、ワシが何も言わぬのに世話を焼き。
村の親父どもは、暫らくはこんなぼろ家ですまんが、ちと待っておれ。今、新しい小屋を建てるでな、と。

この【半妖】の子等を、【村】の子等として。

その【道筋−みち−】をつけたのは、誰でもない。
そう、【犬夜叉】

お前の頑張りを、お前の【人】を守りたい!! との思いを、村の者は良く知っていた。お前が、どれほど乱暴者で、【半妖】だとしても。
お前の、その思いは【本物】
伝わらぬ筈は無い。

春の穏やかな夕暮れ前の日差しの中で、村の子供達と遊び疲れたのか一番小さな藍が浅黄の膝を枕にうとうとと。
その寝顔は、すっかり安らいで幼い笑みを浮かべ。
その寝顔を、見守る浅黄の顔も安らぎを浮かべ、どこか芯のある美しさ。
小さな声で歌を口ずさみ、自分達の選んだ新しい【明日】を夢見る。


ああ、その姿に。

遥か、昔の自分を思う。
幼かった自分と、美しく誰よりも清く強かった姉を。
姉の膝で眠った、何よりも幸せだったあの日々。
確かにあって、もう二度とこの手には出来ない、あの日々。

「やれやれ。ワシも年じゃな、すっかり物思いに耽ってしまったわい」

よっこらしょ、と腰を上げ、お務めの準備を始める。
神前に供える清水を汲みに、翳の差しはじめた裏山の、禊にも使う【巫女の滝】へ。


そこで ――――


「…お姉様」

遥か昔、まだワシが年端も行かぬ頃に身罷ったままの姿のお姉様。
先にお見かけした時よりも、穏やかで凛として。

「…上手く、解け込めそうか」
「ああ、お姉様はあの子等の事を気にかけられて…」
「行きかかり上な」

硬い物言いに、隠せぬ優しさ。

「大丈夫です、お姉様。犬夜叉が居ります故に」
「そうか…。ならば、良い」

未練もなく、高くその顔(かんばせ)を空に掲げ。
視線の先には、式神と死魂虫。
姉・桔梗の肩口から溢れる、姉の物とは異なる【神気】

「お姉様。これからどうなさるおつもりですか?」
「…成すべき事を成す為に。この世にあってはならざる身故に、使命を果たすのみ」

そう言った姉の顔に浮かぶ、悲壮なまでの美しさ。

「では! では、その使命、果たし終えたその時には、私の元に帰って来てくださるかっっ!!」

そう、叫ばずにはおられなく。

「…この身は、この世に存在(あ)ってはならぬもの。ましてや、【最期】に残っているかも判らぬ」
「お姉様…」
「…忌まわしき身よ。墓土と骨で出来ている不浄なもの。楓、お前も巫女であれば、私のようなものには情けをかけるな」
「…なぜ、そのような……」
「…在ってはならないからだ。この世には、そう言う【在って】ならないものがある。それを滅するのが、お前の務めでもあろう」
姉の言葉はいつでも正しい。
だが、【正しさ】だけが全てだろうか?
「…私は、そうは思いませぬ。そこに【在る】からには、在るだけの理(ことわり)があるものと」
「…【死人】である私や……、【奈落】のような者にでも…?」
「はい。私は、そう信じます」
年経た隻眼で、ひしと変わらぬ姉の姿を見詰め。
「…強くなったな、楓。それに…、お前は【大きい】」
「お姉様…」

ふっと、桔梗はその面に笑みを浮かべ…。

「そうだな。もし、戻れるものならば…」
呼び寄せた死魂虫に身を預け、夕星が煌き始めた空へと舞い上がる。
その姿は、おぞましいと言うよりも、神龍を操る仙女の如く。
やはり、この世のものではないとしても。
その姿を見送り ――――


「…遥か、昔。お姉様がそうして下さったように、このワシの膝で。あの頃のワシのように、お姉様が安らいで下さるのなら」

ねむって、欲しい。

ワシの、この妹の楓の側で。



何もかも終った、その後で ――――
                              
完。



【 あ と が き 】

…私、ショタコン・ロリコンの気(七宝ちゃんやりんちゃんが好きv)があるようなのですが、実はジジコン・ババコンの気もあるようです。刀々斉やオリキャラの菅公様や楓さんなどもお気に入りのキャラだったりします。
と言うか…、オリキャラはどちらかと言えばこのどちらかの年代でしか出してないような気が… ^_^;

今回は子供達の寝顔を見ながら、桔梗・楓姉妹の昔に思いを馳せてみました。
今では、姉よりも年長になってしまった楓さんであっても、姉を慕う気持ちには変わりはなく、それでも立場が逆転してしまった一抹の寂しさなようなものも感じて。





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