【 祈 り 】




   ──── 眠る事も出来ず 歌う事も出来ず
              壊れそうに 朝を待つだけ ────



──── 朔の夜は嫌いだ。

あの人をなくした、あの時から。
俺を呼ぶ声、ふれる温かい手、優しい匂い。
俺の世界の全てだった、おふくろ。



   ──── 暖かな腕に 肩を抱かれながら
              愛の海へ 崩れ落ちたい ─────



朔の夜は今でも、ガキだったあの頃の俺が彷徨う。
夜目の利かぬ獣眼は盲(めしい)、優しいあの人の匂いさえ思い出せない。
痛い程自分の腕を掴み締めても、そこには我が身を守るはずの『爪』も
なく ────

『人間』に限りなく近い、我が身を呪う。

殆ど顔さえ覚えていない、親父だった。
『半妖』の俺を忌み嫌い、侮蔑しきった異母兄だった。
だが、紛れもなく二人は『天翔ける者』────

それに引き換え、この俺は…



   ──── 何を探している 何を求めている
             夢よ 空へ舞い上がれ ─────



…そう、親父や殺生丸のようになりたいと、思わなかったと言えば嘘に
なる。

『俺』が『俺』である為に。

『俺』が『俺』を生きる為に。

『何の為』になど、考えた事も無かった。
完全な『妖怪』になれれば、もっと自由になれるような気がして…
『半妖』の自分から、自由になれるような気がして ────



   ──── 高く 高く もっと 高く
              広い 空を 飛べたら
        どうか どうか 翼を下さい
              この命 引き換えに ────



月明かりの無い夜、星の光が突き刺さる。
暗く赤い熾き火の柴を崩す音が、静寂の中で大きく響く。
その音で、仲間達が起きては来ないかと、いつものようには見えぬ眼で
闇を凝らす。
闇の中から聞こえてくる、安らかな寝息。
暖かな人の気配。

いつの間にか、俺の周りに集ってきた『大切な仲間』

『全て』を無くしてきた筈の俺の、もう二度と無くしたくはない、手放
したくはない『全て』



   ──── 遠く長い道 歩き続けている
             夢の続き 追い掛けて ─────



何が変わったのだろう? あの頃と。
守りたい者を見つけたから?
お前が側に居てくれるから?

ああ、きっとそうだ。
お前が、俺の存在理由。

「…かごめ」

そっと、愛しい者の名を口にする。
ああ、その為なら ─────



   ──── 強く 強く もっと 強く
               心のまま 生きたい
        どうか どうか 愛を下さい
               この身体 引き換えに ────



──── もうすぐ、この夜も空ける。

また、いつもの俺に戻ろう。
お前と喧嘩しながら、仲間達と笑いながら、この道を歩こう。
行く先の見えない道だとしても。
お前と一緒なら。



   ──── 眠る事も出来ず 歌うことも出来ず
             壊れそうに 朝を待つだけ ────



あの頃の俺。
朔の夜に震えるガキだった俺はもういない。


朔の夜は嫌いだった ──────




【 あ と が き 】

自分のお気に入りの楽曲との、コラボレーション作品です。昔から好き
な曲なのですが、その時その時でのシチュエーションで微妙に内容が変
わってきます。今回は、朔の夜の犬夜叉の回想を交えた想いのようなも
のを書いてみました。
イメージ曲はSHOW−YAの『祈り』と言う曲です。もう、随分と前
にCMソングとしても使われた事があるので、もしご存じの方がおられ
たら、一ファンとして嬉しいです。




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